表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第2章:「境界線」
PR
9/59

第1話「海の異物」


暗い海の底で、

人魚が笑った気がした。


その瞬間。


碧は反射的に水面へ向かっていた。


肺が苦しい。


勢いよく海面へ顔を出し、

大きく息を吸う。


「はっ……!」


荒い呼吸が、

静かな夜へ溶けていく。


心臓がうるさい。


碧は濡れた髪をかき上げながら、

震える呼吸を整えた。


今のは何だ。


見間違いか。


幻覚か。


いや。


違う。


あの瞳は、

確かに碧を見ていた。


深い青。


そこに混ざる、

金の光。


そして、

人間じゃありえない尾びれ。


碧はゆっくり振り返る。


夜の海は静かだった。


波が揺れているだけ。


何もいない。


けれど。


視線だけが残っている気がした。


碧は堤防へ戻り、

乱れた呼吸のまま座り込む。


濡れたTシャツが肌に張り付く。


指先が冷たい。


夢じゃない。


そう思った瞬間。


――ちゃぷん。


すぐ近くで、

水音が鳴った。


碧が顔を上げる。


海面が揺れている。


月明かりの中。


ゆっくりと、

“それ”が現れた。


白に近い金髪。


異様に白い肌。


水滴を纏った睫毛。


そして。


夜の海みたいな青い瞳。


人間離れした整った顔が、

静かに碧を見つめている。


碧は息を呑んだ。


綺麗だと思った。


それが一番最初の感情だった。


怖いくらいに。


男は海面へ腕を乗せたまま、

何も言わない。


月光が、

濡れた髪を淡く照らしている。


碧は喉を鳴らした。


「……お前」


声が掠れる。


男は答えない。


ただ、

じっと碧を見る。


観察するみたいに。


値踏みするみたいに。


その視線に、

なぜか目を逸らせなかった。


「……人、なのか」


聞いた瞬間、

男の瞳がわずかに揺れた。


それが、

笑ったようにも見える。


けれど次の瞬間には、

また静かな無表情へ戻っていた。


「お前は」


低い声。


海の底みたいに冷たい。


「なぜそんな顔で泳ぐ」


碧の呼吸が止まる。


またその言葉。


“そんな顔”。


自分がどんな顔をしているのか、

碧には分からない。


男はゆっくり碧へ近付く。


水面が静かに揺れる。


その動きは、

泳ぐというより、

海そのものが流れているみたいだった。


碧は無意識に後ずさる。


でも目は離せない。


近付くほど分かる。


こいつは、

人間じゃない。


肌の白さも。


瞳の色も。


息遣いすら、

どこか違う。


人間の体温が感じられない。


男は碧のすぐ近くで止まった。


波の音だけが響く。


静かな沈黙。


やがて男は、

碧の濡れた前髪へ触れかけ――


ぴたりと手を止めた。


まるで、

触れてはいけないものを見るみたいに。


そのまま静かに呟く。


「……海の匂いがする」


碧は目を瞬かせた。


意味が分からない。


男はそれ以上何も言わない。


ただ碧を見つめる。


ずっと前から、

知っていたみたいな目で。


風が吹く。


月光が揺れる。


碧はようやく口を開いた。


「お前……何なんだ」


その瞬間。


男の青金の瞳が、

ゆっくり細められた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ