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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第1章:「深海 碧」
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8/11

第6話「青金の瞳」


眠れなかった。


薄暗い部屋の天井を見つめながら、

碧は小さく息を吐く。


時計を見る。


午前二時過ぎ。


目を閉じても、

頭の奥がずっと騒がしかった。


次の大会。


監督の言葉。


父からの連絡。


スポンサーの話。


考えないようにするほど、

全部まとわりついてくる。


息苦しい。


胸の奥が、

ずっと重い。


碧はゆっくり起き上がった。


床に脱ぎ捨てていたパーカーを羽織る。


気付けば、

足は海へ向かっていた。


夜の島は静かだった。


街灯の少ない坂道。

遠くで鳴く虫の声。

潮の匂い。


海が近付くほど、

少しだけ呼吸が楽になる。


おかしいな、と碧は思う。


本当なら、

疲れているはずなのに。


海へ来たくなる。


何度でも。


堤防へ辿り着く。


夜の海は暗い。


月明かりだけが、

水面に淡く揺れていた。


碧は靴を脱ぎ、

ゆっくり海へ足を入れる。


冷たい。


けれど、

嫌じゃない。


むしろ、

身体の熱が静まっていく。


そのまま碧は、

静かに泳ぎ始めた。


水を掻く音だけが響く。


暗い海。


誰もいない世界。


肺が苦しい。


身体も重い。


なのに、

泳ぐのを止めたくなかった。


止まった瞬間、

また現実へ戻される気がした。


碧は深く潜る。


冷たい海水が、

全身を包み込む。


静かだった。


水の中は、

何も聞こえない。


期待も、

声も、

全部遠い。


このまま、

ずっと沈んでいたい。


そんな考えが、

ふと頭を過った。


その瞬間。


ぞくりと、

背筋が震える。


碧はゆっくり目を開けた。


暗い海の底。


深く沈んだ青。


その奥で。


“それ”は碧を見ていた。


青金の瞳。


夜の海より深い青。


そこに混ざる、

淡い金の光。


心臓が大きく跳ねる。


見間違いじゃない。


夢でもない。


海の底に、

確かにいる。


白に近い金髪が、

水の中でゆっくり揺れていた。


人間ではありえない、

美しい尾びれ。


碧は息を呑む。


逃げなければいけない。


本能では分かっている。


なのに。


目が離せなかった。


青金の瞳が、

真っ直ぐ碧を見つめている。


静かに。


ずっと前から、

碧を知っているみたいに。


海の底で、

人魚がゆっくり笑った気がした。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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