第6話「青金の瞳」
眠れなかった。
薄暗い部屋の天井を見つめながら、
碧は小さく息を吐く。
時計を見る。
午前二時過ぎ。
目を閉じても、
頭の奥がずっと騒がしかった。
次の大会。
監督の言葉。
父からの連絡。
スポンサーの話。
考えないようにするほど、
全部まとわりついてくる。
息苦しい。
胸の奥が、
ずっと重い。
碧はゆっくり起き上がった。
床に脱ぎ捨てていたパーカーを羽織る。
気付けば、
足は海へ向かっていた。
夜の島は静かだった。
街灯の少ない坂道。
遠くで鳴く虫の声。
潮の匂い。
海が近付くほど、
少しだけ呼吸が楽になる。
おかしいな、と碧は思う。
本当なら、
疲れているはずなのに。
海へ来たくなる。
何度でも。
堤防へ辿り着く。
夜の海は暗い。
月明かりだけが、
水面に淡く揺れていた。
碧は靴を脱ぎ、
ゆっくり海へ足を入れる。
冷たい。
けれど、
嫌じゃない。
むしろ、
身体の熱が静まっていく。
そのまま碧は、
静かに泳ぎ始めた。
水を掻く音だけが響く。
暗い海。
誰もいない世界。
肺が苦しい。
身体も重い。
なのに、
泳ぐのを止めたくなかった。
止まった瞬間、
また現実へ戻される気がした。
碧は深く潜る。
冷たい海水が、
全身を包み込む。
静かだった。
水の中は、
何も聞こえない。
期待も、
声も、
全部遠い。
このまま、
ずっと沈んでいたい。
そんな考えが、
ふと頭を過った。
その瞬間。
ぞくりと、
背筋が震える。
碧はゆっくり目を開けた。
暗い海の底。
深く沈んだ青。
その奥で。
“それ”は碧を見ていた。
青金の瞳。
夜の海より深い青。
そこに混ざる、
淡い金の光。
心臓が大きく跳ねる。
見間違いじゃない。
夢でもない。
海の底に、
確かにいる。
白に近い金髪が、
水の中でゆっくり揺れていた。
人間ではありえない、
美しい尾びれ。
碧は息を呑む。
逃げなければいけない。
本能では分かっている。
なのに。
目が離せなかった。
青金の瞳が、
真っ直ぐ碧を見つめている。
静かに。
ずっと前から、
碧を知っているみたいに。
海の底で、
人魚がゆっくり笑った気がした。
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『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。
ふたつの海の物語──。
真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。
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▼ もうひとつの人魚BL
『夜凪に溶ける』




