第6話「自由な海」
海は今日も穏やかだった。
朝の光が海面から降り注ぎ、青い海流がゆっくりと深海を巡っていく。
「レヴィ!」
明るい声が響く。
振り返ると、アウルがこちらへ勢いよく泳いできた。
尾びれを大きく揺らしながら、まるで子どものように笑っている。
「今日は向こうまで行ってみよう!」
「ああ。」
頷くと、アウルは嬉しそうに笑った。
二人は並んで泳ぎ始める。
王族の住まう静かな場所を離れ、少しずつ外の海へ。
珊瑚の群れを抜け、小魚の群れが光の中を踊る。
アウルは魚たちを見つけると、迷わずその群れへ飛び込んでいった。
「待ってくれ!」
笑いながら追いかける。
魚たちも逃げることなく、アウルの周りをくるくると泳ぎ回る。
「かわいいな。」
指先を伸ばすと、小さな魚がそっと触れた。
「くすぐったい。」
その笑顔につられるように、近くにいた若い人魚たちも集まってくる。
「アウル!」
「一緒に泳ごう!」
「もちろん。」
楽しそうに頷き、海流へ飛び込んでいく。
誰よりも自由に。
光を追いかけるように。
歌を口ずさみながら。
その姿を、レヴィは少し離れた場所から見つめていた。
自然と笑みがこぼれる。
……変わった。
人間だった頃の碧は、泳ぐたびに前だけを見ていた。
速く。
もっと速く。
誰よりも前へ。
誰にも負けないように。
海を愛していたはずなのに。
いつしか泳ぐことは、自分を追い込むためのものになっていた。
だが今、アウルは違う。
誰かと競うこともない。
速さを求めることもない。
海流に身を任せ、魚たちと遊び、人魚たちと笑い合う。
まるで海そのものが遊び相手であるかのように。
碧だった頃の記憶は、もうない。
だからこそなのだろう。
競う理由も。
勝たなければならない理由も。
アウルは知らない。
ただ。
泳ぐことが好きだから泳ぐ。
その姿は、どこまでも自由だった。
「レヴィ!」
遠くから名前を呼ばれる。
振り返ると、アウルが大きく手を振っていた。
「早く来い!」
思わず小さく笑う。
「ああ。」
尾びれを揺らし、その隣へ並ぶ。
「見てくれ。」
「この海流、すごく気持ちいい。」
アウルは目を細め、ゆっくりと潮の流れへ身体を預けた。
その穏やかな横顔を見ながら、レヴィは静かに目を伏せる。
この選択で、よかった。
そう思えた。
碧は海へ沈んだ。
けれど。
アウルは海へ還ってきた。
海流が二人の間を優しく流れていく。
その流れに乗り、二人は並んで泳ぎ出す。
どこまでも続く青い海へ。
自由な海へ。
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『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。
ふたつの海の物語──。
真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。
月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。
▼ もうひとつの人魚BL
『夜凪に溶ける』




