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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第11章:「自由な海へ」
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第5話「海の王」

歌が戻った翌日。


レヴィは静かにアウルへ言った。


「行くぞ。」


「どこへ?」


「王のところだ。」


その一言だけで、アウルの背筋がぴんと伸びた。


「……王?」


「父上だ。」


「え。」


思わず動きが止まる。


「お、お前のお父さん?」


「ああ。」


「……。」


急に緊張してきた。


「待ってくれ。」


「俺、何か失礼なこと言わないかな。」


「大丈夫だ。」


「本当に?」


「多分。」


「多分!?」


レヴィは少しだけ口元を緩めた。


その顔を見て、アウルも苦笑する。


二人はゆっくりと王宮へ向かった。


深海のさらに奥。


蒼い光に包まれた大きな宮殿。


珊瑚で編まれた柱。


静かに揺れる海草。


その中央に、一人の人魚が座っていた。


銀色の長い髪。


レヴィによく似た海色の瞳。


ただ、その眼差しはもっと穏やかだった。


「戻ったか。」


低く静かな声が響く。


レヴィは深く頭を下げた。


「父上。」


隣でアウルも慌てて頭を下げる。


「は、初めまして……。」


「俺……。」


言葉が止まる。


名前。


そうだ。


もう碧ではない。


「……アウルです。」


海の王はゆっくり頷いた。


「そうか。」


それだけだった。


思っていたより、ずっと静かだった。


怒られない。


責められない。


あまりにも自然で、アウルの方が戸惑ってしまう。


「えっと……。」


「俺、人間でした。」


「知っている。」


「その……。」


「レヴィと一緒に生きたくて。」


「知っている。」


「え。」


また頷く。


「海は全て見ている。」


静かな声だった。


責める響きはない。


「伴侶となったことも。」


「歌が戻ったことも。」


「全て。」


アウルは思わずレヴィを見る。


レヴィも少し驚いていた。


「レヴィ。」


「はい。」


「よく帰ってきた。」


短い言葉。


それだけなのに。


長い年月を埋めるには十分だった。


レヴィは静かに目を伏せる。


「……ありがとうございます。」


海の王は今度はアウルを見る。


その瞳は、王ではなく父親のものだった。


「レヴィは不器用だ。」


「知っています。」


思わず笑ってしまう。


「だが、優しい。」


「はい。」


「よろしく頼む。」


「もちろんです。」


アウルは迷わず頷いた。


その返事が嬉しかったのか。


海の王は初めて柔らかく笑う。


「今日はもう下がりなさい。」


「はい。」


二人は頭を下げ、王宮をあとにした。


静かな海流が二人の間を流れていく。


少し歩いたところで、アウルが大きく息を吐いた。


「はあぁ……。」


「緊張した。」


「そうか。」


「でも優しい人だった。」


「ああ。」


レヴィもどこか安心したように笑う。


二人の姿が見えなくなるまで。


海の王はその背中を見送っていた。


そして誰にも聞こえないほど小さく。


父親として。


ぽつりと呟く。


「……ありがとう。」


レヴィを。


再び笑わせてくれて。


その一言は海流へ溶け、静かな深海だけが優しく受け止めていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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