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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第11章:「自由な海へ」
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第4話「2人の歌」

伴侶となってから数日。


アウルは毎日のように歌の練習をしていた。


人魚たちは皆歌う。


挨拶のように。


祈るように。


海流へ想いを溶かすように。


アウルもその文化が好きだった。


青い珊瑚の上へ腰を下ろす。


目を閉じる。


静かに息を吸った。


やわらかな歌声が深海へ広がっていく。


光が揺れる。


泡が踊る。


魚たちが歌へ導かれるように集まってくる。


レヴィは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。


綺麗な歌だった。


透き通るような声。


海へ還ってきた命が、そのまま音になったようだった。


思わず目を閉じる。


懐かしい。


温かい。


胸の奥で、何かがゆっくりほどけていく。


その時だった。


ふと。


自然に息を吸っていた。


歌うつもりはなかった。


歌えないはずだった。


それなのに。


声が零れた。


静かな低い歌声。


アウルの歌へ寄り添うように重なる。


二つの歌はぶつからない。


互いを包み込みながら、一つの旋律になって深海を満たしていく。


海流が揺れた。


珊瑚が淡く光る。


魚たちは二人の周りを楽しそうに泳ぎ始めた。


歌が終わる。


静寂。


最初に口を開いたのはアウルだった。


「……レヴィ?」


目を丸くしている。


「今……」


レヴィも言葉が出なかった。


自分の喉へそっと触れる。


歌えた。


確かに。


歌えた。


何十年も。


もう二度と歌えないと思っていた。


失ったままだと思っていた。


アウルは嬉しそうに笑う。


「すごく綺麗だった。」


「……そうか」


「一緒に歌えて嬉しかった。」


その一言で、胸が熱くなる。


歌は戻った。


誰かに取り戻してもらったわけではない。


伴侶となったアウルと。


心が重なった、その瞬間に。


自然と戻ってきた。


レヴィは静かにアウルを見る。


光を受けて笑うその姿は、もう失った誰かではない。


目の前にいるのは、アウルだった。


自分の伴侶。


アウルは照れたように笑う。


「また一緒に歌おう。」


「ああ。」


短く返す。


それだけで十分だった。


二人はもう一度顔を見合わせる。


そして。


どちらからともなく、小さく歌い始めた。


二つの歌声は海流へ溶ける。


深海は優しくそれを受け止めるように、静かに揺れていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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