表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第11章:「自由な海へ」
PR
70/74

第3話「伴侶」

深海は今日も穏やかだった。


青い光が海流に揺れ、珊瑚の隙間を小さな魚たちが泳いでいく。


アウルはその景色を眺めながらゆっくりと尾びれを揺らしていた。


少し前まで思うように泳げなかったのが嘘みたいだった。


「だいぶ慣れたな」


「そうか?」


「沈まなくなった」


「ああ、それはそうだな」


アウルは嬉しそうに笑う。


「沈むのも面白かったけどな」


「私は遠慮したい」


思わず笑ってしまう。


レヴィが冗談を言うことなど滅多にない。


「笑うんだな」


「……たまには」


静かな空気が流れる。


海流が二人の間をゆっくりと通り過ぎた。


レヴィはその横顔を見つめる。


人魚になってからの日々。


新しい名前。


新しい生活。


新しい笑顔。


もう碧ではない。


それでも。


アウルと過ごした時間は、確かに自分の中へ積み重なっていた。


レヴィはゆっくり息を吐く。


「アウル」


「なんだ?」


その声は穏やかだった。


「人魚の求婚は、一度しかできない」


アウルは静かに耳を傾ける。


「一度伴侶を選べば、生涯その者だけだ」


「うん」


「以前……私は禁忌を犯した」


アウルは首を横に振る。


「違うだろ」


「え?」


「あれは、お前が俺を助けたかったから言った言葉だ」


真っすぐな瞳だった。


責める色はない。


ただ受け止めている。


レヴィは少しだけ目を伏せた。


そして。


もう一度アウルを見つめる。


今度は逃げなかった。


「アウル」


「俺は、お前を伴侶にしたい」


静かな海だった。


波もない。


海流だけが二人を包んでいる。


アウルは少しだけ目を丸くした。


驚いたように瞬きをする。


それから。


ふわりと笑った。


「うん」


迷いはなかった。


「俺も、レヴィと一緒にいたい」


その笑顔は、太陽の光が海へ差し込んだように明るかった。


レヴィの胸の奥で、何かが静かにほどける。


長い年月、沈み続けていたものだった。


「ありがとう」


その一言が自然とこぼれた。


アウルは少し照れくさそうに笑う。


「こちらこそ」


しばらく見つめ合う。


誰も何も言わない。


言葉はいらなかった。


レヴィはそっと手を伸ばく。


頬へ触れる。


以前より少し温かく感じた。


ゆっくりと距離を縮める。


アウルはその意味を理解すると、小さく目を見開いた。


「……あ」


けれど逃げない。


ただ少しだけ照れたようにはにかむ。


「これは……助けるためじゃないんだな」


「ああ」


「そうか」


嬉しそうに笑う。


「それなら、嬉しい」


その言葉に、レヴィまで少し照れてしまう。


静かに額を寄せる。


そして。


優しく唇を重ねた。


短い口づけだった。


海流が二人の周りをゆっくりと巡る。


もう苦しくはならない。


命を繋ぐためでもない。


ただ。


互いの想いを伝えるためだけの口づけだった。


唇が離れる。


アウルは頬を少し赤く染めながら照れ笑いを浮かべた。


「……なんだか照れるな」


「そうだな」


「でも」


アウルは嬉しそうに目を細める。


「もう一回してもいいか?」


レヴィは思わず固まった。


「……お前は」


「だめか?」


「…………」


答えの代わりに、レヴィは小さく笑った。


それだけで十分だった。


青い光が二人を包む。


深海は静かに歌うように揺れていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ