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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第11章:「自由な海へ」
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第2話「うた」

泳ぎの練習を終えた帰り道。


アウルは一人で海流に身を任せながらゆっくり泳いでいた。


以前より少しだけ上手くなった。


まだ時々沈みそうになるが、それでも楽しい。


深海は広かった。


どこまでも青く。


どこまでも自由だった。


その時だった。


遠くから不思議な音が聞こえた。


アウルは足を止める。


違う。


足ではないな、と少し考える。


尾びれだった。


そんなことを思いながら耳を澄ませる。


綺麗な声だった。


言葉ではない。


けれど確かに何かを伝えている。


海流そのものが歌っているような。


光が音になったような。


不思議な響きだった。


「なんだ?」


思わず呟く。


気になった。


とても気になった。


アウルは歌声のする方へ泳いでいく。


珊瑚の群生地を抜けると、数人の若い人魚たちが集まっていた。


皆で歌っている。


アウルが近づくと、その場の空気が少しだけ揺れた。


「あ……」


「人間だった人だ」


「本当にいたんだな」


「レヴィ様が連れてきた……」


小さな声が聞こえる。


緊張しているらしい。


けれど中にはアウルを見て言葉を失っている人魚もいた。


深海の青を溶かしたような尾びれ。


青みがかった黒髪。


白い肌。


海色の瞳。


人魚になったばかりとは思えないほど美しかった。


アウル本人だけが気付いていない。


「何してるんだ?」


アウルが素直に尋ねる。


一人の人魚が答えた。


「歌の練習です」


「歌?」


「はい」


アウルは目を輝かせた。


「面白そうだな」


そのまま輪の中へ入る。


若い人魚たちは戸惑いながらも場所を空けた。


「人魚は皆歌えるんです」


「そうなのか」


「歌は会話にもなりますし、祈りにもなります」


「祈り?」


「海へ感謝したり、願いを伝えたり」


別の人魚が続ける。


「求婚にも使います」


「求婚?」


「伴侶へ歌を贈るんです」


アウルは少し驚いた。


知らないことばかりだった。


「面白いな」


素直にそう思う。


するとふと疑問が浮かんだ。


「俺も歌えるのか?」


周囲がきょとんとする。


「歌えますよ」


「人魚ですから」


「そうなのか」


アウルは少し考えた。


そして。


試しに声を出してみた。


ただ自然に。


思うままに。


海流に乗せるように。


その瞬間。


その場の空気が静まり返った。


歌声が深海へ広がる。


柔らかく。


透明で。


どこまでも澄んだ声だった。


まるで朝の海みたいだった。


歌い終わる。


沈黙。


アウルは首を傾げた。


「どうした?」


誰も答えない。


しばらくして。


一人が小さく呟いた。


「え……」


別の人魚も続く。


「上手……」


「綺麗……」


アウルはぱちぱちと瞬きをした。


「そうなのか?」


本人が一番驚いていた。


その反応に皆が思わず笑う。


アウルもつられて笑った。


その歌声はさらに海の奥へ広がっていく。


遠く。


少し離れた場所。


レヴィは静かにその歌を聞いていた。


アウルの歌だった。


初めて聞く歌だった。


けれど。


どこか懐かしい。


昔。


碧が海を泳いでいた時。


陽の光を受けて笑っていた時。


あの頃の景色を思い出す。


違う存在だ。


分かっている。


それでも。


歌声だけは不思議と胸の奥へ届いた。


海流が静かに揺れる。


レヴィは目を細める。


綺麗だな。


誰にも聞こえないほど小さく。


そう思った。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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