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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第11章:「自由な海へ」
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第1話「泳げない」

人魚になってからしばらく経った頃。


アウルはようやく王族区画の外へ出ることを許された。


今まで過ごしていた場所も十分広かったが、それでも深海は広い。


見たことのない珊瑚。


知らない魚たち。


青く光る海草。


海流に乗って漂う泡。


何もかもが新鮮だった。


「綺麗だな」


思わず声が漏れる。


レヴィは隣を泳ぎながら小さく頷いた。


「そうか」


「そうかじゃないだろ」


アウルは笑う。


もっと先へ行きたい。


もっと見てみたい。


そんな気持ちが自然と湧いてくる。


海流に乗って少し前へ出る。


その瞬間だった。


「あ」


身体が傾いた。


尾びれの動かし方を間違えたらしい。


くるりと一回転する。


さらに回る。


泡がぶわっと舞い上がる。


「レヴィ」


「なんだ」


「沈む」


「人魚なのにか?」


「人魚なのにだ!」


次の瞬間。


アウルは本当に沈み始めた。


慌てて尾びれを動かす。


余計に沈む。


さらに沈む。


「なんでだ!?」


「落ち着け」


「無理だ!」


レヴィが額を押さえた。


完全に呆れている。


それでも見捨てることはない。


沈んでいくアウルの腕を掴み、軽く引き上げる。


身体がふわりと浮く。


「助かった……」


「泳ぐ時に力を入れすぎだ」


「そうなのか?」


「海流に逆らうな」


「難しいな」


アウルは真面目に頷く。


そして数分後。


また沈んだ。


「レヴィ」


「今度はなんだ」


「沈む」


「見れば分かる」


再び引き上げられる。


少し進む。


また沈む。


「レヴィ」


「……」


「助けてくれ」


「断る」


「ひどい」


結局助けてもらった。


何度も。


何度も。


そのたびにアウルは笑う。


失敗しているはずなのに、不思議と楽しかった。


人魚なのに泳げない。


それは少し情けない。


けれど。


少しずつ分かってきた。


海流の流れ。


尾びれの使い方。


身体の重心。


深海の水の動き。


海は力で泳ぐものではなかった。


身を任せるものだった。


もう一度ゆっくり尾びれを動かす。


今度は沈まない。


海流が身体を運ぶ。


光が揺れる。


泡が流れる。


アウルは目を輝かせた。


「レヴィ!」


「なんだ」


「泳げた!」


まるで子供みたいな笑顔だった。


レヴィは少しだけ目を細める。


「そうか」


それだけ言う。


けれど声は少し柔らかかった。


アウルは気付かない。


気付かないまま、嬉しそうに海流へ乗っていく。


自由な海はまだ遠い。


けれど。


その第一歩だけは、確かに踏み出していた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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