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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第10章:「人魚」
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第2話「目覚め」

静かな水音が響いていた。


王族の居住区の奥。


誰にも邪魔されない場所で、レヴィは眠る人魚を見つめていた。


一週間。


海の魔女の元から戻ってから、もうそれだけの時間が過ぎている。


尾びれは確かに人魚のものへ変わっていた。


青みがかった黒髪は海流に揺れ、白い肌には淡い青い光が溶けている。


深海の青から透明へと移ろう尾びれは、まるで朝の海を閉じ込めたようだった。


綺麗だと思う。


そう思うたび、不安になる。


代償は何だったのか。


何を失ったのか。


それがまだ分からない。


その時だった。


閉じられていた瞼が、わずかに動いた。


レヴィはすぐに身を乗り出す。


「碧」


呼びかけると、ゆっくり瞳が開いた。


海色の瞳だった。


少しだけ焦点が揺れ、やがてレヴィを映す。


「……レヴィ……?」


掠れた声だった。


レヴィは息を吐く。


良かった。


自分のことは覚えているらしい。


胸の奥で張りつめていたものが少しだけ緩んだ。


「大丈夫か。どこか変なところはないか」


「ん……」


ぼんやりしていた瞳が瞬きを繰り返す。


そして次の瞬間。


「はっ!?」


勢いよく身体を起こした。


「俺、人魚になれたのか!?」


「おい」


慌てて起き上がったせいで身体がふらつき、そのまま前へ倒れそうになる。


レヴィはすぐに腕を伸ばした。


支えられた碧――いや、彼は目を丸くする。


「危ない」


「悪い」


そう言いながらも全く反省した様子はなく、視線は自分の身体へ向いていた。


そして尾びれを見つける。


一瞬。


息を呑む。


深海の青。


先端へ向かうほど淡く透けていく透明な色。


光を受けるたび、青い粒が尾びれの上を流れていく。


「すごい……」


小さく呟く。


「本当に人魚になってる」


そっと尾びれへ触れる。


深海の青。


先端へ向かうほど淡く透けていく透明な色。


光を受けるたび、青い粒が尾びれの上を流れていく。


「綺麗な色だな」


嬉しそうに笑う。


心の底から。


ただ純粋に。


嬉しそうに。


レヴィはその顔を見つめた。


碧は笑うこともあった。


だが。


こんなふうには笑わなかった。


何の迷いもなく。


何の重さもなく。


海流に身を任せる泡みたいに。


軽やかに。


「碧」


ふと名前を呼ぶ。


「ん?」


「自分の名前を言えるか」


彼は不思議そうに首を傾げた。


「名前?」


少し考える。


そして。


「あれ?」


青い瞳が揺れる。


「……何だっけ」


レヴィの胸が静かに沈んだ。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


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