表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第9章:「深海へ」
PR
61/63

第6話「願い」

海底遺跡のさらに奥。


光はもう届かない。


深海の底。


静寂だけが沈んでいる場所だった。


人魚たちの気配も消え、碧はただレヴィに手を引かれるまま進む。


不思議と恐怖はなかった。


レヴィがいる。


それだけで十分だった。


やがて視界の先に黒い影が現れる。


巨大な岩にも見えた。


朽ちた神殿にも見えた。


何なのか分からない。


けれど。


そこだけ海流が違う。


海そのものが息を潜めているようだった。


レヴィが足を止める。


碧も自然と立ち止まった。


その瞬間。


どこからともなく声が響く。


男とも女ともつかない。


若くも老いてもいない。


深海そのものが話しているような声だった。


「──何を望む」


碧は目を閉じる。


迷いはなかった。


もう決めている。


家族の顔が浮かぶ。


凪の笑顔が浮かぶ。


子供の頃の海。


競技。


仲間。


大学。


これまで生きてきた時間。


全部。


全部大切だった。


だからこそ。


自分で選びたかった。


ゆっくり目を開く。


隣にはレヴィがいる。


ずっと会いたかった相手がいる。


碧は静かに口を開いた。


「人魚になりたい」


声は不思議なくらい震えなかった。


「レヴィとともに生きたい」


深海が静かになる。


海流が止まったような沈黙。


やがて。


遠い場所で波が揺れる音がした。


まるで海が息を吐くみたいに。


「願いを聞き届けよう」


その瞬間。


足元から光が溢れた。


碧は思わず目を見開く。


海の色だった。


青く。


淡く。


夜明け前の海みたいな光。


身体の奥へ流れ込んでくる。


冷たいはずなのに温かい。


波に抱かれているみたいだった。


レヴィが何かを言った気がする。


けれど聞こえない。


意識が少しずつ遠くなる。


視界が滲む。


何かが胸の奥から離れていく。


大切な何か。


けれど。


悲しくはなかった。


不思議だった。


海へ沈むように。


眠りへ落ちるように。


静かだった。


最後に見えたのは。


こちらへ手を伸ばすレヴィの姿だった。


その表情だけが。


やけにはっきり見えた。


そして。


碧の意識は深海へ沈んだ。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ