表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第9章:「深海へ」
PR
59/62

第4話「口づけ」

海はまだ荒れていた。


黒い波が夜の海を揺らし続けている。


その中で。


二人だけが静かだった。


レヴィは碧を見つめている。


何度も。


確かめるみたいに。


碧は少し笑った。


「そんなに心配か」


レヴィは答えない。


代わりに視線を伏せる。


長い睫毛が影を落とした。


「……本当にいいんだな」


小さな声だった。


風に消えそうなほど。


碧は頷く。


迷いはなかった。


不思議なくらい。


「もちろん」


海が揺れる。


波がぶつかる。


けれど。


胸の奥は静かだった。


レヴィはしばらく何も言わなかった。


やがて。


決意したように目を閉じる。


「なら」


その声は深海みたいに静かだった。


「行こう」


レヴィが手を伸ばす。


碧の頬へ触れる。


冷たい指先だった。


けれど嫌ではない。


むしろ安心する。


海の匂いがした。


ずっと知っている匂い。


そして。


レヴィが近付く。


碧は目を見開く。


何をされるのか分かっているはずなのに。


心臓が大きく鳴った。


次の瞬間。


唇が触れる。


ほんの短い口づけだった。


海より冷たいはずなのに。


不思議と温かかった。


胸の奥へ波が広がる。


静かに。


どこまでも。


碧は息を呑む。


レヴィはすぐに離れた。


「行くぞ」


何事もなかったように言う。


けれど耳が少し赤い気がした。


気のせいかもしれない。


碧は思わず笑う。


「お前」


「黙れ」


即座に返される。


少しだけ。


いつもの空気だった。


そのことが嬉しかった。



次の瞬間。


レヴィは碧を抱き寄せる。


そして。


海へ沈んだ。


碧は反射的に息を止める。


冷たい海水が全身を包む。


暗い。


深い。


どこまでも続く夜の海。


レヴィの尾びれが大きく揺れる。


景色が一気に流れ始めた。


速い。


信じられないほど速い。


海流そのものになったみたいに。


深く。


さらに深く。


沈んでいく。


碧は思わず目を閉じる。


息が苦しいと思った。


けれど。


苦しくならない。


不思議だった。


慌てて口を開く。


海水が入るはずだった。


なのに。


普通に呼吸ができた。


碧は目を見開く。


吐く。


吸う。


何度やっても苦しくない。


まるで。


最初から海の生き物だったみたいに。


驚きながらレヴィを見る。


レヴィは何も言わない。


ただ碧を抱えたまま泳いでいる。


海流を裂いて。


闇を切り裂いて。


どこまでも深く。


普通なら潰れていてもおかしくない深さだった。


けれど身体は平気だった。


耳も痛くない。


息も苦しくない。


怖くもなかった。


それはきっと。


レヴィがいるからだ。


腕の中は不思議なほど安心する。


深海へ向かっている。


人間では辿り着けない場所へ。


もう戻れないかもしれない場所へ。


それなのに。


恐怖より先に浮かんだのは。


安心だった。


碧は静かに目を閉じる。


レヴィの鼓動が伝わる。


深い海の底へ沈んでいく。


まるで。


胸の奥の想いまで深海へ連れて行かれるみたいに。


静かに。


ゆっくりと。


二人は人間の知らない海へ沈んでいった。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ