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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第9章:「深海へ」
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第1話「会えた」

海は荒れていた。


深海まで届くほどに。


海流は乱れ、

波は狂ったように暴れている。


レヴィは暗い海の底を泳いでいた。


思うように進めない。


海が拒んでいる。


それはもう分かっていた。


求婚した。


禁忌を犯した。


本来なら二度と選ばないはずだった。


伴侶は一人だけ。


蒼士郎だけだった。


そうあるべきだった。


だから。


これは当然の罰なのかもしれない。


レヴィは目を閉じる。


海の歌も聞こえない。


潮の流れも乱れている。


何もかもがおかしかった。


このまま終わるのだと思った。


碧にはもう会わない。


会ってはいけない。


忘れてもらう。


それでいい。


それが正しい。


そう思っていた。


その時だった。


ふいに。


音がした。


レヴィは顔を上げる。


海の中を伝う微かな音。


聞き間違えるはずがなかった。


知っている。


ずっと聞いていた音だった。


碧。


胸の奥が大きく揺れる。


まさか。


そんなはずがない。


けれど。


音は確かに近付いてくる。


浅瀬から。


荒れた海の中を。


まっすぐ。


碧の音だった。


「……何をしている」


呟く。


声は海へ溶けた。


次の瞬間。


レヴィは泳ぎ出していた。


海流が身体を叩く。


思うように進めない。


波が乱れる。


海が拒む。


それでも。


止まれなかった。


碧がいる。


この海に。


この荒れた海に。


息が詰まる。


嫌な予感しかしなかった。


海流を切り裂くように泳ぐ。


そして。


見つけた。


暗い海の中。


沈んでいく人影を。


白い泡に包まれながら。


ゆっくり。


深い方へ。


落ちていく。


「碧!」


レヴィは反射的に飛び込む。


腕を伸ばす。


掴む。


冷たい身体だった。


意識はない。


呼吸も弱い。


レヴィは碧を抱き寄せる。


そのまま海面へ向かう。


波が荒れる。


風が叫ぶ。


それでも。


離さなかった。


ようやく海面へ出る。


碧の顔を支える。


呼吸をさせる。


何度も。


何度も。


必死に。


「碧」


返事はない。


胸が痛む。


怖かった。


蒼士郎の時とは違う。


違うはずなのに。


失うかもしれない恐怖だけは同じだった。


「碧」


もう一度呼ぶ。


その時。


碧が小さく咳き込んだ。


水を吐く。


苦しそうに息を吸う。


意識が戻る。


レヴィは息を吐いた。


ようやく。


本当にようやく。


碧の瞼がゆっくり開く。


焦点が合う。


青い瞳がこちらを見る。


そして。


碧は笑った。


まるで。


長い旅の終わりみたいに。


安心したように。


嬉しそうに。


とても綺麗に。


「ようやく、会えた」


レヴィは言葉を失う。


胸の奥が強く痛んだ。


どうして。


どうしてそんな顔をする。


どうしてそんな風に笑う。


怒るべきだった。


止めるべきだった。


なのに。


安堵が先に来る。


会えた。


その言葉が胸へ沈んでいく。


深く。


深く。


痛いほどに。


「……どうして」


声が掠れる。


碧は笑ったままだった。


レヴィは碧の肩を掴む。


思わず力が入る。


「どうして来た」


波が荒れる。


海が叫ぶ。


それでも。


レヴィの声の方が震えていた。


「どうして」


もう一度問う。


怒るように。


責めるように。


けれど本当は違う。


怖かった。


失うのが。


碧まで失うのが。


怖かった。


碧はしばらく黙っていた。


荒れる海の中。


二人だけが波に揺られている。


そして。


少しだけ笑った。


困ったように。


照れたように。


「会いたかったから」


波が止まった気がした。


レヴィは息を呑む。


海はまだ荒れている。


風も吹いている。


それなのに。


その一言だけが。


静かな深海みたいに胸へ沈んでいった。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


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