表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第8章:「選ぶ」
PR
55/60

第6話「海へ」

凪と別れたあと。


碧は一人で海へ向かっていた。


夜風が強い。


島の道を歩きながら、

何度も海の音が聞こえる。


いつもと違う。


遠くからでも分かった。


波が荒い。


風が鳴っている。


海が騒いでいた。


防波堤へ出た瞬間、

碧は思わず足を止める。


海が荒れていた。


黒い海面がうねり、

白い波が何度も砕けている。


風が吹くたび、

飛沫が空へ舞った。


こんな海は見たことがなかった。


嵐というほどではない。


けれど。


何かがおかしい。


海そのものが苦しんでいるみたいだった。


碧は波を見つめる。


胸の奥がざわつく。


理由は分からない。


けれど。


真っ先に浮かんだのはレヴィだった。


あの日。


求婚のあと。


海は荒れた。


レヴィは怯えた顔をしていた。


まるで。


海に拒絶されているみたいに。


「……レヴィ」


名前が零れる。


風にさらわれる。


返事はない。


当たり前だ。


それでも。


会わなければいけない気がした。


今すぐ。


どうしても。


碧は波打ち際へ近付く。


冷たい飛沫が頬へ当たる。


怖くないと言えば嘘になる。


この海へ入って生きて帰れる保証なんてない。


そもそも。


レヴィに会える保証すらない。


海へ飛び込んで。


そのまま沈むかもしれない。


誰にも見つからず。


深い海の底へ消えるかもしれない。


けれど。


不思議と足は止まらなかった。


引き返そうとは思わなかった。


凪の顔が浮かぶ。


母の顔も。


父の顔も。


家の灯りも。


全部。


胸の奥へ静かに沈んでいく。


大切だった。


本当に。


大切だった。


それでも。


それでも。


碧は海を見る。


荒れる波の向こう。


その先を。


深い海の底を。


「会いたい」


小さく呟く。


その言葉だけが残った。


レヴィに。


会いたかった。


理由なんてもう分からない。


好きだからかもしれない。


一緒にいたいからかもしれない。


ただ。


会いたかった。


それだけだった。


碧はゆっくり息を吸う。


潮の匂いがする。


海の匂いだった。


子供の頃から知っている匂い。


ずっと好きだった匂い。


そして。


一歩前へ出る。


その時。


背後から声が飛んだ。


「おい!」


碧は振り返らない。


「何してる!」


風に混じって聞こえる。


島の人だろう。


「危ないぞ!」


「やめろ!」


「戻れ!」


叫び声が重なる。


当然だった。


こんな海へ入ろうとしている。


身投げだと思われても仕方がない。


実際。


似たようなものかもしれなかった。


人間としての人生を終わらせようとしているのだから。


碧は少しだけ笑う。


そして。


海を見る。


荒れ狂う波。


深い夜の海。


その向こう。


レヴィがいる。


そう思った。


だから。


迷わなかった。


碧は海へ飛び込む。


冷たい水が全身を包み込む。


波が身体を攫う。


闇が広がる。


上も下も分からない。


息が苦しい。


身体が沈む。


それでも。


不思議と恐くなかった。


ただ一つだけ。


胸の奥に残っている。


会いたい。


レヴィ。


意識が揺れる。


荒れる海の中で。


碧はその名前だけを抱き締めるように目を閉じた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ