表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第7章:「溺れる」
PR
46/60

第3話「壊れる」


春の大会が終わった。


結果は悪くなかった。


けれど。


良くもなかった。


表彰台には立てた。


入賞もした。


それでも。


周囲が求めていた結果ではないことくらい、

碧にも分かっていた。


インタビューのライトが眩しい。


マイクが向けられる。


記者が笑顔で質問する。


「次の大会への意気込みをお願いします」


碧も笑う。


慣れている。


こういう場は何度も経験してきた。


「次はもっと良い結果を出せるよう頑張ります」


模範解答みたいな言葉だった。


記者は満足そうに頷く。


「期待しています」


その言葉が胸へ落ちる。


静かに。


重く。



帰りの電車でスマホを開く。


開かなければよかった。


そう思ったのは数分後だった。


大会の記事。


インタビュー動画。


コメント。


数字。


感想。


評価。


画面の中にはたくさんの言葉が流れている。


応援もあった。


もちろんあった。


頑張ってほしい。


応援している。


次こそ期待している。


昔からのファンらしい言葉もある。


けれど。


その隣には別の言葉も並んでいた。


最近調子悪いな。


ピーク過ぎた?


昔の方が速かった。


期待してたのに。


もっとできる選手だろ。


次の世代に抜かれるんじゃないか。


碧は画面を閉じた。


閉じたはずなのに。


言葉だけが残る。


頭の中へ。


深く。


深く。


沈んでいく。



翌日の練習でも。


数字は逃がしてくれなかった。


タイムが出る。


比較される。


順位が並ぶ。


昨日の自分。


去年の自分。


他の選手。


全部数字になる。


全部見える。


全部比べられる。


「最近少し苦戦してるな」


コーチが言う。


責めているわけじゃない。


分析だ。


アドバイスだ。


分かっている。


「でも大丈夫だ」


「お前なら戻せる」


碧は頷く。


戻せる。


戻せる。


その言葉が波みたいに繰り返される。


戻さなければならない。


期待に応えなければならない。


結果を出さなければならない。


そう考えてしまう。



夜。


眠れなかった。


スマホを開く。


閉じる。


また開く。


見なければいい。


分かっている。


それなのに見てしまう。


記事。


動画。


SNS。


誰かの感想。


誰かの評価。


知らない人の言葉。


顔も知らない人たちが、

好き勝手に自分を語る。


応援もある。


批判もある。


心配もある。


期待もある。


全部混ざっている。


全部重い。


どの言葉も胸へ刺さる。


期待している。


頑張れ。


次は勝てる。


最近落ちている。


大丈夫か。


どうした。


もっとできる。


もっと。


もっと。


もっと。


碧はスマホを伏せた。


もう見たくない。


本当に見たくない。


なのに。


耳の奥で言葉が繰り返される。


期待している。


期待している。


期待している。


胸の奥が苦しい。


息が浅い。


身体は疲れているのに眠れない。


何もしていない時間さえ、

責められている気がする。


休んでいる場合じゃない。


泳がなければ。


結果を出さなければ。


戻さなければ。


そんな言葉ばかりが頭の中を回る。


碧はゆっくり顔を覆った。


暗闇の中で呼吸をする。


苦しい。


プールの中じゃない。


水の中でもない。


なのに。


溺れているみたいだった。


どれだけ腕を伸ばしても、

水面へ届かない。


どれだけ泳いでも、

息ができない。


深海の底へ引きずられていくみたいに。


静かに。


確実に。


沈んでいく。


その時だった。


ふと。


海が浮かんだ。


夜明け前の海。


波の音。


潮の匂い。


そして。


青金の瞳。


「なんで急ぐ」


あの声が聞こえた気がした。


碧は目を閉じる。


会いたい。


そう思った。


今すぐ。


海へ行きたかった。


何も考えず。


ただ浮かんでいたかった。


レヴィのいる海へ。


その願いだけが。


沈みかけた意識の中で、

かすかな光みたいに浮かんでいた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ