表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第6章:「離れる」
PR
43/61

第5話「会えない」

気付けば海へ来なくなっていた。


冬の海は冷たい。


朝練もある。


大学もある。


競技の予定も詰まっている。


海へ来ない理由ならいくらでもあった。


だから。


別におかしくはない。


碧はそう思っていた。


そう思うことにしていた。


大学の講義を受けて。


練習をして。


帰宅して。


また朝を迎える。


変わらない日々だった。


むしろ以前より忙しいくらいだ。


考える暇なんてない。


そのはずだった。


なのに。


ふとした瞬間に思い出す。


朝焼けの海。


静かな声。


青金の瞳。


魚を追いかけて笑った時間。


海を教えてもらったこと。


自由に泳ぐことを思い出した日。


そんな記憶ばかりが、

波みたいに何度も戻ってくる。


碧は小さく息を吐いた。


窓の外はもう暗い。


練習から帰ったばかりだった。


疲れている。


身体は重い。


なのに眠る気になれなくて、

ソファへ座ったまま天井を見上げる。


静かだった。


部屋も。


心も。


深海の底みたいに静かだった。


その静けさが妙に苦しい。


碧は顔を覆う。


何だよ。


本当に。


何なんだよ。


レヴィはもう何ヶ月も現れていない。


海へ行ってもいない。


連絡先も知らない。


そもそも人魚だ。


会えなくて当然だろ。


最初から。


会える方がおかしかった。


それなのに。


胸の奥がざわつく。


波が引いていくみたいに、

何かが足りない。


そんな感覚が消えない。


碧は目を閉じた。


もし今。


海へ行ったら。


レヴィはいるだろうか。


そんなことを考える。


会えないかもしれない。


それでも。


会いたいと思った。


その瞬間だった。


碧はゆっくり目を開く。


会いたい。


ただ会いたい。


それだけのことが、

どうしてこんなに苦しいんだろう。


友達だからか。


違う。


友達に会えなくても、

こんな風にはならない。


知り合いだからか。


違う。


そんな軽いものじゃない。


胸の奥へ沈んでいた何かが、

ゆっくり浮かび上がってくる。


ずっと見ないふりをしていた感情。


認めたくなかった感情。


波に押し上げられるみたいに、

少しずつ形になる。


碧は唇を噛む。


そして。


ぽつりと呟いた。


「俺……」


声は小さかった。


誰も聞いていない。


それでも。


続きの言葉が怖かった。


違うと言いたかった。


勘違いだと笑いたかった。


けれど。


もう無理だった。


会えなくて寂しい。


会いたい。


元気か気になる。


海を見ると探してしまう。


そんな自分を知っている。


だから。


もう分かっていた。


「俺」


胸の奥で波が揺れる。


ゆっくり。


静かに。


深く。


そして。


「レヴィのこと好きなのか……」


言葉にした瞬間、

心の奥へ沈んでいたものが音もなく形になる。


否定できなかった。


違うと言えなかった。


好きだった。


気付いた時にはもう。


深海へ沈むみたいに。


逃げられないところまで来ていた。


碧はソファへ背を預ける。


天井を見上げる。


笑いたいのか。


泣きたいのか。


自分でも分からない。


ただ。


会いたかった。


どうしようもなく。


会いたかった。


窓の外では冬の風が吹いている。


遠い海も、

きっと同じ夜だった。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ