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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第6章:「離れる」
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第4話「冬」

季節はいつの間にか変わっていた。


朝の空気は冷たくなり、

海から上がる風も肌を刺すようになっている。


碧は砂浜へ立ちながら、

静かな海を見つめた。


夜明け前。


夏ならもう海へ入っていた時間だ。


けれど最近は違う。


寒い。


それに。


泳ぐ理由も少なくなった。


競技のためならプールがある。


朝練もある。


わざわざ海へ来なくてもいい。


そう思うようになっていた。


波が静かに寄せては返す。


碧は小さく息を吐いた。


そして。


海を見る。


無意識だった。


最近はいつもそうだ。


まず海を見る。


それから。


少し待つ。


何を待っているのかは分からない。


分からないはずだった。


レヴィは現れない。


もうずいぶん会っていない。


最初は数日だった。


そのうち一週間になり。


気付けばもっと長くなっていた。


碧は苦笑する。


「何だよ」


誰に言うでもなく呟く。


返事はない。


当然だった。


波だけが揺れている。


もしかしたら。


人魚にも季節があるのかもしれない。


夏しか浅瀬へ来ないとか。


冬は深海で眠るとか。


そういう生き物なのかもしれない。


碧はそんなことを考える。


考えて。


自分で納得しようとする。


そうだ。


きっとそうだ。


人魚なんだから。


人間と同じなわけがない。


会えない理由なんて、

いくらでもある。


なのに。


胸の奥は妙に静かだった。


深海の底みたいな静けさ。


何かが沈んでいる。


けれど。


まだ形は分からない。


碧はポケットへ手を入れる。


冷えた指先が、

あの日の鱗に触れた。


今でも持っている。


捨てられなかった。


ただの綺麗な石みたいなものだ。


そう思っていたのに。


指先で触れるたび、

あの青金の瞳を思い出す。


「……元気かな」


ぽつりと零れた言葉に、

自分で驚いた。


元気かな。


何だそれ。


友達かよ。


碧は苦笑する。


友達ですらない。


名前を知っているだけ。


それなのに。


どうしてだろう。


会わなくなってからの方が、

思い出すことが増えた気がした。


海を見れば思い出す。


魚を見れば思い出す。


朝焼けを見ると思い出す。


その度に。


胸の奥へ何かが沈んでいく。


波の下へ落ちていくみたいに。


碧は静かに海を見つめた。


冬の海は綺麗だった。


夏みたいな賑やかさはない。


静かで。


冷たくて。


少しだけ寂しい。


まるで。


今の自分みたいだと思った。


空がゆっくり明るくなっていく。


そろそろ帰らなければならない。


大学がある。


練習もある。


やることは山ほどある。


碧は踵を返した。


そして。


数歩進んだところで足を止める。


振り返る。


誰もいない海だった。


波だけが静かに揺れている。


それなのに。


少しだけ。


会いたかった。


ただ、それだけだった。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


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