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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第6章:「離れる」
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第2話「来ている」

碧は今日も海へ来ていた。


レヴィは深海からゆっくり浮上しながら、

遠くの海面を見上げる。


まだ夜明け前。


空は暗く、

水平線だけがわずかに白み始めている。


いつもの時間だった。


海流が静かに揺れる。


そして。


そこにいる。


黒髪の人間。


碧だった。


レヴィは姿を見せない。


浅瀬へ近付かない。


遠くから見ているだけだ。


それでいい。


そう決めた。


碧は海へ入る。


冷たい水を掻き分けながら、

ゆっくり沖へ向かっていく。


その泳ぎを、

レヴィは知っている。


初めて見た日から。


何度も。


何度も見てきた。


だから。


遠くからでも分かる。


今日の調子。


呼吸の癖。


泳ぎ方。


全部。


碧はしばらく泳いだあと、

海面へ浮かんだ。


視線が海を彷徨う。


何かを探すみたいに。


レヴィは目を閉じた。


違う。


分かっている。


探しているわけじゃない。


ただ海を見ているだけだ。


そう思おうとした。


けれど。


碧は少しだけ首を傾げる。


そして。


周囲を見回した。


その仕草を見た瞬間。


胸の奥が小さく波打った。


会いに来ている。


そう思ってしまった。


いや。


違う。


海へ来る理由は他にもある。


泳ぐためかもしれない。


海が好きだからかもしれない。


なのに。


どうしても期待してしまう。


レヴィはゆっくり深く潜った。


光が遠ざかる。


深海は静かだった。


静かすぎるほどに。


それでも。


しばらくすると、

また海面が気になった。


碧はもう帰っただろうか。


今日はどれくらい泳いだのだろう。


誰かと話しているのだろうか。


そんなことを考えてしまう。


レヴィは小さく眉を寄せた。


馬鹿らしい。


自分で離れると決めたのに。


深海の魚たちが静かに泳いでいく。


海底遺跡も。


揺れる珊瑚も。


昔と何も変わらない。


変わったのは自分だけだった。


碧と出会う前なら、

浅瀬など気にも留めなかった。


人間が来ようと。


去ろうと。


どうでもよかった。


けれど今は違う。


海流の向きひとつで。


潮の匂いひとつで。


碧が来たことを知ってしまう。


海が教える。


今日も来ていたと。


レヴィは目を閉じた。


胸の奥へ沈めたはずの感情が、

波に押し戻されるみたいだった。


忘れたいわけじゃない。


けれど。


近付いてはいけない。


伴侶にしたいと思ってしまった。


その時点で。


もう。


離れるしかない。


海面から朝日が差し込む。


淡い光が深海まで届き、

青い水を静かに染めていく。


レヴィはその光を見上げた。


碧はもう帰った頃だろう。


大学へ。


友人の元へ。


人間の世界へ。


それでいい。


そうでなければならない。


そう思うのに。


胸の奥だけが、

潮に引かれるように浅瀬を向いていた。


まるで。


帰る場所を探しているみたいに。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


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