表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第6章:「離れる」
PR
39/60

第1話「距離」

碧と別れたあとも、

レヴィはしばらく海面近くに残っていた。


夜明けはもう終わっている。


朝日が海を照らし、

波は穏やかに揺れていた。


碧はもういない。


大学へ向かったのだろう。


友人たちの元へ。


家族の元へ。


人間の世界へ。


レヴィは静かに目を閉じた。


潮の流れが身体を撫でていく。


海は何も言わない。


ただ静かに揺れている。


それなのに。


胸の奥だけが落ち着かなかった。


碧が笑う。


碧が海を見る。


碧が自分の名を呼ぶ。


そんな些細な記憶ばかりが浮かぶ。


深海へ沈めたはずの感情が、

ゆっくりと浮上してくるようだった。


レヴィは小さく息を吐く。


分かっている。


ずっと前から。


気付かないふりをしていただけだ。


伴侶にしたい。


その願いが、

胸の奥にある。


静かに。


確かに。


波の下で育つ珊瑚のように。


気付けば、

そこに根を張っていた。


だから。


駄目だった。


レヴィは海へ潜る。


光の届かない深さまで。


青は濃くなり、

やがて闇へ変わっていく。


深海は静かだった。


昔から変わらない。


蒼士郎がいた頃も。


いなくなった後も。


ずっと。


人魚は伴侶を一度しか選ばない。


それが掟であり。


本能だ。


だから本来。


二度目はない。


蒼士郎で終わったはずだった。


終わらなければならなかった。


あの日。


断られた時に。


海は静かだった。


蒼士郎は優しかった。


レヴィを拒絶したわけではない。


ただ。


選ばなかった。


それだけだった。


それでも。


歌は失われた。


長い年月をかけて、

海の歌は遠ざかっていった。


だから知っている。


二度目など許されない。


胸の奥へ沈めるべき感情だ。


なのに。


碧の笑顔が浮かぶ。


魚を追いかけて笑っていた顔。


海が好きだったと呟いた声。


「会いに来た」


そう言って照れていた横顔。


思い出すたび、

胸の奥が波立つ。


レヴィは目を閉じた。


違う。


蒼士郎ではない。


もう分かっている。


最初は重ねていた。


けれど今は違う。


碧だから見てしまう。


碧だから気になる。


碧だから。


会いたいと思ってしまう。


それが一番厄介だった。


蒼士郎ではないのなら。


ただの恋だ。


今の自分の意思だ。


誰のせいにもできない。


レヴィはゆっくり顔を上げた。


深海の水が静かに揺れる。


遠くで魚の群れが流れていく。


海は広い。


人間と人魚が交わるには、

あまりにも。


だから。


離れなければならない。


碧には人間の人生がある。


家族がいる。


夢がある。


帰る場所がある。


自分が近付けば。


きっと壊してしまう。


レヴィは静かに目を伏せた。


伴侶にしたい。


海へ連れて行きたい。


その願いごと。


全部。


深海の底へ沈める。


そう決めた。


決めなければならなかった。


だから。


もう浅瀬へは行かない。


碧が来ても会わない。


呼ばれても姿を見せない。


海流が静かに身体を押す。


深海の闇は優しかった。


何も見なくていい。


何も望まなくていい。


何も失わなくていい。


レヴィはその暗さへ身を沈める。


けれど。


最後に浮かんだのは。


朝焼けの海で笑う碧だった。


その記憶だけが、

深海へ沈まずに残り続けていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ