表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第5章:「伴侶」
PR
33/60

第1話「人魚の恋」

夜明け前の海だった。


空はまだ暗く、

水平線だけがわずかに白んでいる。


碧は海面に浮かびながら、

ぼんやり空を見上げていた。


隣にはレヴィがいる。


最近はこうして過ごす時間が増えた。


泳いだり。


話したり。


ただ海を眺めたり。


不思議なことに、

沈黙も苦にならない。


碧は小さく息を吐いた。


そしてふと思う。


そういえば。


人魚のことを、

自分はほとんど知らない。


「なあ」


レヴィが視線だけ向ける。


碧は何となく聞いてみた。


「人魚にも恋人とかいるのか」


静かな海だった。


波の音だけが聞こえる。


レヴィは少し考える。


そして。


「伴侶ならいる」


碧は目を瞬かせた。


「伴侶?」


「そうだ」


即答だった。


碧は首を傾げる。


「何が違うんだよ」


人間なら恋人も伴侶も、

そこまで大きな違いはない。


付き合って。


結婚して。


家族になる。


そんなイメージだ。


けれど。


レヴィは少しだけ眉を寄せた。


まるで碧の質問の意味が分からないみたいに。


「全然違う」


その言葉に、

碧は思わず笑う。


「そんな真面目な顔する話か?」


レヴィは答えない。


代わりに静かに海を見る。


夜明け前の海。


波が揺れる。


長い沈黙のあと。


レヴィはぽつりと言った。


「人魚は伴侶を一人しか持たない」


碧の笑顔が少し止まる。


「……へぇ」


「生涯一人だ」


波の音が響く。


碧は何となく聞き返す。


「別れたりは」


「しない」


「死別とか」


「してもだ」


レヴィは当たり前みたいに言った。


「伴侶は変わらない」


碧は思わず黙る。


人間とは違う。


かなり。


想像していた以上に。


レヴィは静かに続ける。


「選ぶのは一度だけだ」


「一度?」


「ああ」


「じゃあ失敗したら終わりじゃん」


思わず口から出る。


レヴィは不思議そうな顔をした。


「失敗?」


「いやだから」


碧は笑う。


「好きになった相手が違ったとか」


「喧嘩したとか」


「後悔したとか」


レヴィはしばらく考えた。


本当に考えていた。


そして。


「何故後悔する」


真顔だった。


碧は吹き出した。


「お前さ」


「なんだ」


「重い」


レヴィが眉を寄せる。


意味が分からないらしい。


碧は笑いながら肩を竦めた。


「人間はそんな簡単じゃないんだよ」


「そうか」


「そうだよ」


レヴィは静かに海面を見る。


その横顔は真剣だった。


人魚にとっては冗談じゃない。


本当にそういう生き物なのだろう。


一度選んだら終わり。


一生。


変わらない。


碧には少し理解できなかった。


けれど。


なぜか嫌ではなかった。


むしろ。


少しだけ羨ましいと思った。


迷わなくていいから。


揺れなくていいから。


波が静かに揺れる。


空が少しずつ明るくなっていく。


その時。


レヴィが不意に言った。


「人間は違うのか」


碧は笑う。


「全員じゃないけどな」


「でも」


少し考える。


「そんな風に一人だけを選べるやつって、案外少ないかも」


レヴィは黙った。


朝焼けの光が、

青金の瞳を淡く照らしている。


その表情はどこか遠かった。


まるで。


ずっと昔の誰かを思い出しているみたいに。


碧は気付かない。


その言葉が。


レヴィの胸の奥に沈んでいったことを。


――人魚は伴侶を一人しか持たない。


それは掟であり。


本能であり。


生き方そのものだった。


だから。


レヴィにはまだ分からない。


どうして碧を見てしまうのか。


どうして碧と過ごす時間が、

少しずつ特別になっているのか。


夜明けの海は静かだった。


まるで、

まだ誰も知らない秘密を隠すみたいに。


ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ