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深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第3章:「深海」
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第5話「海の王」


深海は静かだった。


光も届かない、

海の底。


崩れた神殿の奥で、

ゆるやかな海流だけが流れている。


レヴィは長い回廊を泳ぎながら、

小さく息を吐いた。


最近、

浅瀬へ行く回数が増えている。


自覚はあった。


気付けば海面近くへ向かっている。


夜になると、

あの人間が海へ来る気がしてしまう。


深海碧。


その名前を思い出した瞬間。


「レヴィ」


低い声が、

海の底へ響いた。


レヴィの動きが止まる。


振り返ると、

神殿の最奥。


巨大な石柱の間に、

ひとりの男が立っていた。


長い黒髪。


深海みたいな暗い瞳。


白銀にも見える巨大な尾びれ。


圧倒的な存在感。


海の王だった。


その場にいるだけで、

周囲の海流すら従っているように見える。


レヴィは静かに目を伏せた。


王はゆっくりレヴィを見る。


その視線は冷たい。


けれど、

ただ冷酷なだけではない。


何百年もの海を見てきた者の目だった。


「最近、

 浅瀬へ行き過ぎだ」


静かな声。


責めるような言い方ではない。


だが、

逃げ場のない重さがある。


レヴィは何も答えなかった。


王はゆっくり近付いてくる。


長い尾びれが、

静かに深海を揺らす。


「浅瀬は、

 お前の領域ではない」


「……分かっている」


低く返す。


王はしばらくレヴィを見ていた。


その瞳は、

何かを見透かすみたいだった。


やがて。


ぽつりと、

静かな声が落ちる。


「また人間か」


その瞬間。


レヴィの瞳がわずかに揺れた。


ほんの小さな変化。


けれど王は見逃さない。


深海の空気が、

わずかに重くなる。


レヴィは視線を逸らした。


否定しない。


それだけで十分だった。


王は小さく目を細める。


「お前は昔から、

 人間へ執着しすぎる」


「執着などしていない」


即答だった。


けれど。


その声は少し硬い。


王は静かにレヴィを見つめる。


まるで、

遠い昔を思い出しているみたいに。


「人間は脆い」


低い声が、

海へ沈む。


「すぐ老い、

 すぐ死ぬ」


レヴィは黙った。


知っている。


嫌というほど。


王はゆっくり目を伏せる。


「海へ残されるのは、

 いつも我らだ」


その言葉に、

レヴィの胸の奥が微かに痛んだ。


夏の海。


黒髪。


笑い声。


“レヴィ”


名前を呼ぶ声。


遠い記憶が、

波みたいに揺れる。


王はそんな息子を見つめながら、

静かに言った。


「二度目は許されん」


深海が静まり返る。


レヴィはゆっくり拳を握った。


それでも。


脳裏へ浮かぶのは、

苦しそうに泳ぐ人間だった。


蒼士郎とは違う。


なのに。


どうしても、

目を離せない。


ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

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