表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海に溺れる  作者: 深幸-みさき-
第2章:「境界線」
PR
13/14

第5話「海の底の影」


暗い海の底で、

巨大な影が動いた。


ぞわりと、

碧の全身が粟立つ。


逃げろ。


本能がそう叫んでいる。


けれど身体が動かない。


海の中は暗すぎた。


どこにいるのかも、

何がいるのかも分からない。


ただ、

“危険”だけが分かる。


低い唸り声のような音が、

海水を震わせた。


碧の呼吸が乱れる。


肺が苦しい。


恐怖で身体が強張る。


その瞬間。


ぐい、と腕を引かれた。


視界が大きく揺れる。


人魚だった。


白い腕が、

強く碧を抱き寄せる。


「息を止めろ」


低い声。


次の瞬間。


人魚は一気に海を駆けた。


碧の身体が、

水の中で大きく揺れる。


速い。


人間ではありえない速度だった。


海流そのものみたいに、

暗い海を切り裂いていく。


尾びれが揺れるたび、

青金の鱗が深海で光った。


碧は息を呑む。


怖い。


なのに、

目を離せない。


人魚の横顔は、

ぞっとするほど綺麗だった。


その背後。


暗い海の底で、

巨大な影が蠢く。


碧の背筋が凍る。


あれは見てはいけないものだ。


人魚はさらに速度を上げた。


碧を抱える腕に、

力が入る。


まるで、

絶対に離さないみたいに。


やがて。


水面が近付く。


月明かり。


波音。


人魚は碧を抱えたまま、

静かな浜辺へ辿り着いた。


砂浜へ身体が引き上げられる。


碧は激しく咳き込んだ。


肺が焼ける。


視界が滲む。


ぼやけた視界の向こうで、

人魚が静かに碧を見下ろしていた。


青金の瞳。


月光に濡れる金髪。


綺麗なのに、

恐ろしい。


人間ではない。


海の生き物だ。


人魚は何か言いかけて、

わずかに眉を寄せた。


その瞬間。


碧の意識がふっと沈む。


視界が暗くなる。


最後に見えたのは、

海へ溶けるように離れていく、

青金の尾びれだった。



ガタガタと、

軽トラの音が近付く。


朝焼け前の薄暗い浜辺。


漁へ向かう途中だった漁師の男が、

砂浜に倒れている人影を見つけ、

慌てて車を止めた。


「おい!!」


駆け寄る。


見えた顔に、

男は目を見開いた。


「深海んとこの兄ちゃんじゃねぇか!」


碧はぐったりしたまま、

浅く呼吸をしていた。


服は濡れて、

砂が付いている。


「おい、しっかりしろ!」


肩を揺さぶられる。


碧はうっすら目を開けた。


ぼやけた視界の中、

見慣れた漁師の顔が見える。


「……あ……」


「何やってんだお前!!

 こんなとこで倒れて!」


漁師は青ざめた顔をしていた。


碧の身体は、

海水で冷え切っている。


「とにかく家まで送るぞ!」


そう言って、

碧の身体を支える。


碧は抵抗する力もなく、

そのまま軽トラへ乗せられた。


右手だけを、

無意識に強く握り締めたまま。



次に目を覚ました時、

碧は自室のベッドにいた。


窓の外は、

もう昼だった。


身体が重い。


頭もぼんやりする。


夢だったのか。


そう思いかけて。


右手に、

違和感がある。


碧はゆっくり手を開いた。


そこには。


青と金が混ざる、

美しい鱗が一枚。


昼の光を受けて、

静かに輝いていた。


碧の呼吸が止まる。


夢じゃない。


あの海も。


あの瞳も。


あの人魚も。


全部、

本当に存在している。

ご覧いただきありがとうございます。

『深海に溺れる』は、毎日【22:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

月光に照らされる、切なくきらめく初恋の物語もぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『夜凪に溶ける』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ