36.部下からの報告
「馬鹿者! 魔法使い二十人を失っただと!? しかも、それを拘束しているのはワイナーの弟子に、愚息に、あのシヂルドだ!?」
メルタリア・ジョセフィーングは机をどんと叩き立ち上がった。報告に来た部下の顔色は真っ青だ。
「も、申し訳、」
「使えぬ野郎が!」
部下に杖を向け、魔法を当てる。衝撃で部下は吹き飛び、壁に叩きつけられた。その部下の元へとコツコツと歩いていき、杖で顔を押し上げて言った。
「……一度だけチャンスをやろう」
そう言ってメルタリア・ジョセフィーングはにやりと笑った。
「シヂルドの元からワイナーの弟子を奪い去るのだ。お前自身の手で、な」
震えながら、部下は了承の意を示すように、額を床につけた。
「必ず、必ずご期待に沿って見せましょう」
這いずるように部屋から駆け出した部下を見送り、机の元に戻ったメルタリア・ジョセフィーングは、ワインの注がれたグラスを手に取った。
「……どれだけやれるか見ものだな」
一口ワインを飲んだメルタリア・ジョセフィーングは、グラスを置き、私室の執務机をずらす。すると、下から地下へと続く階段が現れた。
その階段をメルタリア・ジョセフィーングが降りていく。降り終わると同時に、地下への階段は扉に覆い隠され、単なる床のように変わった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ワイナー。お前の弟子はなかなか優秀だな」
メルタリア・ジョセフィーングの声に、視線だけあげたワイナーは、表情を変えない。
「お前の弟子とシヂルドに、我が兵を二十も奪われた」
メルタリア・ジョセフィーングのイラついた様子に、ワイナーは黙って目を瞑った。
「だから、命じたよ」
メルタリア・ジョセフィーングがにやりと笑ってワイナーを見上げた。
「シヂルドの元にいるお前の弟子を奪い去るのだ、と」
その言葉に、ワイナーの目が怒りに染まる。そんなことも気に留めず、メルタリア・ジョセフィーングが続けた。
「あのシヂルドという男は苦手だ。会話が通じず、常に暴力で解決しようとする。魔法という高尚な手段が取れるのにもかかわらず、暴力を魔法で強化するなど……おかしい!」
メルタリア・ジョセフィーングがそう床をドンと踏みつける。そして、ワイナーに視線を向けた。
「ワイナー。お前もそう思うだろう? お前も儂と同じだ。魔法を扱う者だ」
ワイナーはその視線を受け、目線を逸らす。そんなワイナーの様子にイラついたように、メルタリア・ジョセフィーングがワイナーに杖を向けた。
「話せ」
「……う、健全な魂は健全な魔法につなが……る。健全な魂は、健全な肉体に宿る、ものだ。シヂルドの理論に、破綻はない」
ワイナーの答えにメルタリア・ジョセフィーングはイラついたように杖をワイナーの頬に突き刺す。
「わかったようなことを言うな! 儂に捕らえられた弱者が!」
ワイナーに向かって魔力を打つ。すると、魔力がワイナーに当たった後、メルタリア・ジョセフィーングに戻って行った。
「う、」
ワイナーの小さなうめき声に満足したように、メルタリア・ジョセフィーングは笑った。
「ふは、は、は、は! 最強と言われたワイナーもこの儂の手にかかれば、こんなものだ。ケツの青い若造が!」
そう声をあげてメルタリア・ジョセフィーングは出て行った。
残されたワイナーが、微かな魔力を使って、祈る。
「……どうか、リフィリーゼの無事を」
淡く輝いた光の球は、明かりを求めるように空へ空へと上がって行った。




