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宮廷魔法使いリフィリーゼの救世譚〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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37.鍛錬

「シヂルド様」


 ミリィを村に戻し、シヂルドが護符のようなものを手渡した後、シヂルドと共にリフィリーゼとイスランタは山小屋へと戻っていた。



「おぅ、なんだリフィリーゼ」


 リフィリーゼはシヂルドに問う。


「ミリィは連れ去られたのですよ? 護符程度で村に戻していいのですか? 保護した方が……」


 リフィリーゼの問いに、シヂルドは答えた。


「ミリィはまだ幼い。そして、将来的に魔法使いの世界に巻き込まれることはわかっているだろう。それならば、少しでも長く両親と共に居させてやりたい」


 そこまで言ったシヂルドはにやりと笑みを深めて言った。


「それに、儂の護符は強力だからな」








「さてと、お前たち! 儂の弟子となるからには、鍛錬してもらおう!」


 シヂルドの言葉に、リフィリーゼとイスランタは首を傾げた。


「魔法の訓練ですか?」

「まぁ俺は水魔法しか使えねーけど」


 二人の言葉に、シヂルドは目を丸くした後、「がつっはっは」と笑って言った。


「青い! 青いな、お前ら! お前たちもある程度の強さはあるようだ。だが、魔法は何に宿ると思う?」


 シヂルドの言葉に、リフィリーゼがぶつぶつとつぶやく。


「……魔法の才がないといけないし、魔法を使うための技能も必要です」


「否! 健全な肉体に宿る! 身体を鍛え、心を鍛えるのだ! 健全な魂は健全な肉体に宿る! 健全な魂は健全な魔法につながる! 鍛えるのだ! 若者たちよ!」


 シヂルドはそう言って、杖を()()()()庭に向けた。


「なんにもないけど」


 イスランタの言葉に、シヂルドはニヤリとして杖を振るう。


「うわぁ!?」


 シヂルドが魔法を使うと、数々の器具が現れた。


「身体を鍛えるのだ。強くなるのだ。話はそれからだ、若者たち」


 そう言って、シヂルドは笑いながら山小屋へと戻っていった。


 残されたリフィリーゼとイスランタは目を合わせる。


「どうする?」


「鍛えるしかないみたいだよ」


 そう言って、二人は各々器具に向かってぶら下がったり回ったりし始めた。









「若者たちよ! 魔法とは何だ!?」


「健全な肉体に宿るもの、だろ?」


 めんどくさそうにイスランタが答えると、シヂルドが笑った。


「是! 加えて、自然と一体化することで世の理というものがわかるようになる! 山に登るぞ!」


 シヂルドの突然の宣言に、イスランタとリフィリーゼは手慣れたように荷物をまとめ始めた。


 シヂルドに弟子入りしてから、あれこれと二人は振り回され、物理的にも放り投げられ、多少の無茶振りには慣れてきたようだ。


「し、シヂ、ルド、様、まだ、つかねー、のかよ」


 ぜぇぜぇと息をするイスランタに、リフィリーゼも汗を拭いながら二人を追う。


「まだまだだ! まだ自然と同一になれておらん!」


 意気揚々と生い茂る枝を振り払いながら道を作るシヂルドに、跡を追う二人。



 筋トレのようなこと。自然を感じること。自然と一体になること。様々な訓練を合間合間にさせられる。魔法の訓練は?という疑問すら持てないほどの訓練に、二人は限界を迎えたように問う。


「シヂルド様! 健全な肉体に魔法が宿るのはわかりました! でも、わたしたちには時間がないのです!」


 早く、魔法を、強くなりたいというリフィリーゼの想いに、シヂルドはニヤリと笑って言った。


「おう、リフィリーゼ。そうだ。わかっている。だからお前はずっと焦っておるのだ。焦っていて、何事も上手くいくと思うか? それに、お前の師ワイナーはそんな簡単にくたばる奴じゃない。あいつにも健全な肉体は叩き込んであるからな」


 シヂルドの言葉に、リフィリーゼは図星を突かれて青くなったり、ワイナーの風貌を思い出して首を傾げたりと忙しかった。焦っている自覚を持っていたリフィリーゼは、一度小さく息を吐いた。確かに、シヂルドの言う通りだ。焦っている。ワイヤーもいつも言っていた。「落ち着け、リフィリーゼ。動じない心も魔法には必要だ」と。自覚したリフィリーゼは、疑問をシヂルドに問う。


「では、シヂルド様。お師匠様に健全な肉体が叩き込んであるとはどういうことですか?」


「ふ、いい目になった。ワイナーのことか? あいつは儂の弟子だった時がある。鍛えても鍛えても筋肉がつかなくて、儂もかなり手こずったが、それなりに鍛えてやったぞ」


 腰に手を当てて笑みを浮かべるシヂルドに、リフィリーゼは目を丸くして叫んだ。


「えぇ!??」


 リフィリーゼの叫び声に、遠くで筋トレに勤しんでいたイスランタが驚いて床に落ちた。


「何事だ!?」







「いえ、何でもないから、続けて」


 イスランタに向かってそう叫んだリフィリーゼは首を傾げた。


「え、でもお師匠は線が細くてとてもシヂルド様のような肉体では……」


「あぁ。あいつは俗に言う細マッチョだ。筋肉は全然つかなかったが、それなりに鍛えてあるはずだぞ?」


「嘘でしょ……」





 リフィリーゼは絶句し、シヂルドは笑った。


 遠くからそちらを伺う影が近づいていると知らずに。

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