33.山越えをしなきゃ
「こんにちは!」
畑仕事をしている見知らぬ村人に、リフィリーゼは笑顔で声を大きく張りあげて挨拶した。リフィリーゼの言葉に、村人は顔をあげて笑った。
「おぅ、お嬢ちゃん。元気がいいな」
旅の始まりの頃は、見知らぬ村人に対して、むすっとした表情しか向けていなかったリフィリーゼが、イスランタに影響されたのか、笑顔で挨拶できるようになった。そんな頃、リフィリーゼとイスランタの旅は終わりを迎えようとしていた。
「リフィ。この山を越えたら、イーリア様の言っていた町だ」
イスランタの言葉に、リフィリーゼは小さく頷いた。
「うん……もうすぐだね」
リフィリーゼの言葉に、イスランタも顔をあげて山を見上げた。
悠然と佇む山は緑が深く、高い。街道は奥に行けば行くほど獣道のように変わっていっている。山に入る前に挨拶した村人も「気をつけろよ」と声をあげている。
リフィリーゼとイスランタは、覚悟を決めたように視線を合わせ、どちらともなく小さく頷いた。
二人が一歩踏み出そうとしたところに、ひどく慌てた様子の村人数人が駆けてきた。
「はやく! この山を越えたら、シヂルド様のところだ!」
「シヂルド……?」
リフィリーゼとイスランタが不思議に思って振り返ると、焦った様子の村人たちと目が合った。
「……あ! 湖の!」
イスランタが叫ぶのを聞いて、視線を向けた村人のうち一人が、ハッとした様子で駆けてきた。
「お前ら! 魔法の心得があった旅人か! 助けてくれ! ミリィが!」
ミリィの名を聞いて、リフィリーゼとイスランタが顔を見合わせ、話を聞こうと頷き合った。二人の元に来た、一人の村人を除いて、他の村人たちは山越えに走っていった。
「ミリィって、あの魔法の才能のある子ですよね? 何があったんですか?」
心配したリフィリーゼが、村人に問いかけると、村人は焦ったように答えた。
「ミリィが連れ去られたんだ! 魔法の使える集団だったから、お貴族様に違いねぇ。どうしようもねぇかもしれねぇが、助けられるならミリィを助けたいんだ」
そう言った村人に、リフィリーゼとイスランタが大きく頷いた。しかし、リフィリーゼはすぐに俯いた。
「……助けたい。でも、魔法を使っちゃダメだから……」
眉を寄せて困った様子のリフィリーゼに、一度目を閉じて黙ったイスランタはリフィリーゼの肩を掴んで言った。
「今、ミリィって子を助けられるのは、リフィ。お前の魔力しか頼れねーんだ。頼む」
イスランタは村人を振り返って言う。
「さっき言ってたその人のところに今すぐいけば、ミリィは助かるのか?」
イスランタの問いに、村人は大きく頷いた。
「あぁ。シヂルド様はものすごく強い。シヂルド様ならこの国の筆頭宮廷魔法使い様より強いと聞いたことがあるくらいだ」
村人の言葉に、イスランタはリフィリーゼを振り返った。
「リフィ。俺たちが行く先もきっと、その人のところだ。リフィの力があれば、きっとミリィも助かる。リフィに頼り切りにはしない。俺が防御結界を展開し続ける」
イスランタの言葉に、リフィリーゼは小さく頷き、遠くに見える村人たちに向かって声を張り上げた。
「私が全員、その方のところに運びます!」
リフィリーゼの叫びに、近くにいた村人はギョッとした表情を浮かべ、遠くの村人たちは大声で叫んだ。
「姉ちゃん、お前何言ってんだ!?」




