30.抜け出す
「リフィリーゼ、イスランタ。暗いうちに城を出るんだ。決して魔法を使ってはならないよ? この魔導人形をあんたたちの身代わりにするから。イスランタ。あんたは剣を鍛えな。魔法以外の攻撃手段をしっかりと磨くんだよ。リフィリーゼ、あんたも剣と……あんたは生活全般を魔法に頼りすぎだ。もう少し生活能力と体力をあげな」
寝ぼけていたイスランタは問答無用でイーリアに髪を切り落とされ、イスランタの髪を奪ったイーリアが即座に魔導人形にそれぞれの髪を入れた。そして、リフィリーゼの髪を魔法薬で染め上げ、イスランタの姿形を全く違う人に変えさせた。
「うん。いいだろう。あんたたちはこれからリフィとランタだ。いいかい? 決して本名で呼ぶんじゃないよ。メルタリア・ジョセフィーングのこともだ。わかったな?」
イーリアの真剣な眼差しに二人は頷いた。元々の姿と大きく変わっているイスランタを見て、リフィリーゼは思った。この人はランタ。ランタという別の人間。そう思うとわかりやすい、と。
「ほれ、魔法封じの枷だ。あんたたち、身につけな」
そう言って二人の魔法を封じさせた。イーリアはそうして二人に言った。
「……筆頭宮廷魔法使いしか知らされていない秘密の抜け道がある。そこから二人は城を出るんだ。道はもう覚えたね?……あんたたちがこの部屋を出た瞬間、あたしが手を叩く。すると術が作動するからね」
イーリアの言葉に二人が頷くのを見て、イーリアは真剣な表情で言った。
「いいかい? 二人とも、絶対に無事に帰ってくるんだよ? あたしは信じているからね?」
イーリアに抱きしめられた二人は頷き、出て行った。二人が部屋を出る瞬間、イーリアが手を叩いた。術は作動した。
秘密の抜け穴から二人が抜け出すのを見てイーリアは呟いた。
「無事に、ね」
そう言って、イーリアは慌てたように手紙をあちこちに書き始めた。
「うちの宮廷魔法使い二人がメルタリア・ジョセフィーングにやられた。昏睡状態だ。あたしが守護している」
そんな手紙を暗闇の中、次々と送る。一枚だけ、本当のことを書いた手紙を混ぜて。手紙が空に次々と飛び立つを見守り、イーリアは他の仕事に戻った。手紙の中の一枚を真っ黒いカラスが掴んだのを見ることもなく。
「リフィリ……リフィ。何があって突然こんな夜中に追い出されることになったんだ?」
事情を一つも説明されなかったイスランタが、城を出たところでリフィリーゼに小声で問うた。
「……お師匠様と夢で繋がったの。そして、お師匠様を捕らえている魔力が……ランタの父親だったの。わたしがそれに攻撃した。そのせいで、わたしが狙われることになったってイーリア様が言っていた」
リフィリーゼの説明に、コツコツと小さな足音を鳴らしながら、二人は真っ暗な街の中を歩む。
「そうか……すまないな。俺の父親が」
イスランタはそう言って俯いた。
「ううん。相手が誰かわかっていて攻撃したのはわたしだから。ランタは悪くない」
リフィリーゼの言葉にお礼を言ったイスランタは、街を出るために歩き始めた。イーリアが特別に準備した許可証のおかげで、二人は王宮の使用人として国境の街まで門を抜けられる。夜中に仕事に向かう二人に同情したように、門番が扉を開けてくれた。
「……ここからは街道だね」
「気をつけていこう」
魔法を使えない二人にとって、イーリアの準備した剣だけが二人を守る武器だ。剣をしっかりと握りしめ直し、二人は闇世に消えて行った。




