29.リフィリーゼの夢
「リフィリーゼ、こっちにこい」
「お師匠様……?」
なにもない真っ白い空間で。でも、お師匠様のひさしぶりの温もりに安心して、その膝の上に登る。
「リフィリーゼ。それはやめろといつも言っているだろうが?」
「でもひさしぶりのお師匠様ですから」
わたしの反論に眉根を寄せたお師匠様に、遠慮なく寄りかかる。お師匠様が口でどうこう言っているうちは強引に引き剥がされないと知っているわたしが遠慮なくお師匠様に寄りかかっていると、お師匠様の身体に違和感を覚えて、思わず振り返った。
「……お師匠様、魔力で拘束されている?」
わたしの気づきに、お師匠様は嫌そうな表情を浮かべ首を振りました。関わるな、という意味だとわかります。
「お師匠様を捕まえる、この気持ちの悪い魔力は攻撃しましょう」
わたしがそう言って杖を構えます。「おい、こら」という焦ったお師匠様の声を無視して攻撃を与えました。その瞬間、わたしも気持ちが悪い魔力に襲い掛かられ、慌てたようにお師匠様がわたしを守り、夢の外へと押し流します。
「お師匠様!?」
「リフィリーゼ! お前の無事を祈っている!」
お師匠様の大声なんて初めて聞いた。そんなことを思いながら、わたしは目を覚ましました。
「お師匠様……?」
あの夢は本当に夢だったのか? あの温もりが偽物だとは思えない。そう考えたリフィリーゼはベッドから立ち上がり、そのままイーリアの元へと向かった。イーリアの部屋のドアをバンバンと叩き、目をこすりながら出てきたイーリアにしがみついた。
「……なんだい? こんな真夜中に……ってリフィリーゼ?!」
驚くイーリアがリフィリーゼの背をさすりながら部屋に招き入れてくれた。
「リフィリーゼ。何があったんだい」
イーリアがそう言って薬草茶を出してくれた。独特な苦味と渋みにリフィリーゼはホッとする。
「……お師匠様の夢を見たのです」
リフィリーゼが夢の話を語るにつれ、イーリアの表情は歪んでいった。
「……ワイナーの野郎。無理したな」
そう呟いて、イーリアは部屋の奥の大きな本棚から魔導書を数冊取り出し、目を通し始めた。
「あった、あった。これだね。夢繋ぎ。お互いの精神が安定していると夢がつながることがある。それだけならいいんだが、悪手だったのは、あんたを夢から強引に追い出したことでワイナーが魔力を消費したこと。それと、メルタリア・ジョセフィーングにあんたの魔力を覚えられたことだよ。リフィリーゼ。あんたと直接の接触がなかったから、今まではあんたが一方的にメルタリア・ジョセフィーングの魔力をなんとなく認識していた程度だったが、完全に覚えられたのは痛いな。それに、あんたを飲み込もうとしたと言うことは、メルタリア・ジョセフィーングはあんたの魔力や魔力量に魅力を覚えたに違いない。……ワイナーを救いにいったつもりがあんたが代わりに捉えられる可能性が高まったんだよ」
ため息を落とすイーリアに、リフィリーゼは首を傾げた。ワイナーを救えたらいいのでは、というリフィリーゼにイーリアは首を振った。
「……あんたは無自覚だろうが、その魔力と魔力量は強力だよ。あんたの力を奪ったメルタリア・ジョセフィーングは、ワイナーですら倒せるか微妙だ。だからこそ、ワイナーは自分がメルタリア・ジョセフィーングに捕らえられることにしたんだろうよ」
そう言ったイーリアがメガネを押し上げ、コツコツと足音を立てて歩き回った。
「……もうあたしじゃ限界だね。手に負えない。リフィリーゼ。イスランタを連れて、この国の他の街に行っておいで。今すぐ準備するんだ。ここに今メルタリア・ジョセフィーングが現れたら、世界が終わるよ。……だからこそ、あんたたちを鍛え直してもらおうか。あたしは隠蔽工作をさせてもらうよ。リフィリーゼ、髪を一束よこしな」
振り返ってそう言ったイーリアの瞳はきらりと輝いていた。
リフィリーゼはイーリアに言われるがまま、髪を一束切り落とし、イーリアに差し出した。それを受け取って大切そうに小箱に入れたイーリアは、イスランタの元に転移した。




