28.リフィリーゼの怒り
「リフィリーゼ、こっちの仕事が終わったぞ?」
あれ以来、少しずつだがイスランタの水魔法以外の魔力が使えるようになってきている。イスランタは嬉しそうにそれをリフィリーゼに毎日報告する。すっかりリフィリーゼに懐いたようだ。
「イスランタ、これが続きの仕事です」
音を立て、机の上にリフィリーぜがおくが、イスランタは気にせず仕事に飛び掛かる。一方、先輩職員たちはそんなリフィリーゼとイスランタの様子を伺っている。
リフィリーゼは首を傾げた。イスランタの魔力が増え、メルタリア・ジョセフィーングへの新たな魔力の供給が止まったことは喜ばしいことのはずなのに、イスランタに対してイラつきを感じる。焦りのような感情も感じる。でも、どうして自分がそんな感情を抱いているのかリフィリーゼにはわからない。
「……早く終わらせておいてください」
「おぅ!」
笑顔で頷くイスランタに罪悪感のように胸が痛み、リフィリーゼはため息を落とした。そんな二人の様子を見ていた先輩職員たちの視線を受けたイーリアは苦笑いを浮かべ、困った子だねぇと言わんばかりに首を振った。
「リフィリーゼ! 見ろよ! 炎が出せるようになったんだぜ!」
火の属性の魔法が扱えるようになり、初級の魔法、火球魔法を習得したイスランタが、リフィリーゼにそれを見せる。笑顔で見せるイスランタにリフィリーゼは思わず拳を握った。「イスランタのペースで」。イーリアにそう言われていたリフィリーゼは、突然現れるイラつきに動揺しながらも、イーリアの言葉に従い、イラつきを抑えつけようと努力していた。
「……よかったですね」
「だろ? 次は火壁魔法を習得したいな!」
喜ぶイスランタの姿に、握りしめていた拳が弾けるようにリフィリーゼはイスランタに怒りを向けた。
「なんで、なんでイスランタはその程度で満足しているの? そんな父親なんてさっさと殺して、自分の魔力を取り戻そうって思わないの?」
身体が熱く目の前が暗くなる。力を込めすぎて気持ちが悪い。そう思いながら、リフィリーゼはイスランタを睨みつける。水をかけられたかのように驚いた表情を浮かべたイスランタが、息を呑む。
「ご、ごめ、」
言葉を詰まらせたイスランタに向かってリフィリーゼは杖を向けた。
「さっさと、さっさと、お師匠様を返してよ。あなたのお父様なんでしょう? 私のお師匠様を返してくれないのは? なら、息子のあなたが責任をとって、早く殺してよ。あなたのお父様を。あんな人、この世界に必要ないじゃない」
「……、」
はく、っと口を開いたイスランタにリフィリーゼが一歩詰め寄る。
「なんで殺せないの? イスランタだって魔力を奪われて散々言われてきたんでしょう? そんな父親、いらなくない?」
リフィリーゼの杖に魔力が籠る。
「なら、私があなたを殺して、代わりに殺してきてあげようか?」
杖がイスランタに当たる瞬間、リフィリーゼは何かに弾き飛ばされた。
「リフィリーゼ! あんた、なにやってんだい!? 王宮内で魔力を使うなんて御法度だよ!」
異変を感知したイーリアが転移してきて、リフィリーゼとイスランタの間に入った。そして、イスランタを庇うように結界を展開した。イスランタは驚いたようにしゃがみ込み、リフィリーゼは驚いたように目を丸くした。
「……イーリア様。イーリア様はおっしゃいました。イスランタ自身の決意を待て、と。……確かにお師匠様は最強です。メルタリア・ジョセフィーングからの攻撃など、耐え抜くでしょう。でも、でも、イスランタはそんなことお構いなしに、程度の低い魔法で喜んでいるのです。さっさとメルタリア・ジョセフィーングを殺してしまえば、全てイスランタの元に戻ってくるのに。もしも、お師匠様を助けるのが間に合わなかったら? 私は自分を許すことはできません」
リフィリーゼはそう言いながら、いつの間にか瞳から涙がこぼれ落ちていた。ポロポロと溢れるリフィリーゼの涙に、イーリアがリフィリーゼを抱きしめながら言った。
「……あんたも必死に孤独と戦っているんだねぇ、リフィリーゼ。あんたはあたしの予想以上にワイナーを慕っていたんだ。大丈夫。あの男は殺そうとしたとしたって死なないし、リフィリーゼの魔術具が残っているってことはかなり余力があるだろう? リフィリーゼだって、そう思うだろう? あの男は、自分の魔力が尽きるくらいならあんたの魔術具の維持を放棄する男だ。そうだろう?」
イーリアのワイナーに対する評価に少し笑いながら、リフィリーゼは頷いた。ワイナーが帰ってこないのは彼の意思もあるのだろう。メルタリア・ジョセフィーングに殺されるくらいなら、ワイナーはリフィリーゼの魔術具の維持くらい放棄して、さっさと戻ってくる。そんな冷酷な男がワイナーだ。リフィリーゼはイーリアの言葉に、頷いた。
「ほら、じゃあリフィリーゼはイスランタに謝んな。そして、王宮内で魔法を行使しようとした反省文を書くんだよ?」
イーリアに言われてリフィリーゼはイスランタに謝罪した。そして、反省文の原稿用紙の束を受け取るのだった。




