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宮廷魔法使いリフィリーゼの救世譚〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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26.イスランタの封印

「じゃあ、始めるよ。イスランタ。あんたはこのベッドに横になりな」


 ポシェットからベッドを取り出してドンと置いたイーリアに、イスランタとリフィリーゼは驚き、目を見合わせる。そして、イスランタはベッドに向かって歩き、そっと手で触った後、腰掛けた。


「そうそう。ほれ、横になりな」


 イーリアに言われるがまま、イスランタはベッドに横になる。そんなイスランタの横にリフィリーゼは立ち、イスランタに向かって杖を向ける。杖を向けられたことにギョッとしたイスランタに、イーリアが説明を加えた。


「イスランタ。そう身構えなくてもよろしい。リフィリーゼの膨大な魔力を多少調節しやすいように杖を使うことにした。常任なら、杖を使った方が危険だが、リフィリーゼは杖を使わぬ方が危険だからねぇ」


 イーリアの説明に、イスランタが嫉妬したように言った。


「……どれだけ豊富な魔力なんだよ」


「……イスランタも本来の魔力量は結構多いと思うけどな」


 リフィリーゼの独り言に、イスランタが問い返そうとすると、イーリアがパンパンと手を叩いた。


「ほれほれ、じゃあ始めようか」


 イーリアの指示の元、リフィリーゼは集中する。イスランタの負担にならないように、少しずつ魔力を細く薄くしていく。それをイスランタの指に刺すように少しずつ入れる。


「うっ」


 小さな呻き声をあげたイスランタに、イーリアが声をかける。


「大丈夫かね?」


「う、はい。針に刺された程度の違和感っす……」


 イスランタの言葉にイーリアはリフィリーゼを止めない。集中しているリフィリーゼの耳には二人の会話が入っていないようで、体内に入った魔力を少しずつ広げていく。


「うわ、」


 痛みに声を上げたイスランタに、イーリアが手を額に当てて様子を見る。


「リフィリーゼも慎重にやっているから、問題なかろう。ほれ、男なら耐えておれ」


 イーリアの言葉に、イスランタが頷き、リフィリーゼは続ける。前に見つけた違和感を探す。封じられたイスランタの魔力を探り当てるように。“過去見の鏡”で見た時に感じた違和感を探すように。


「……ない」


 リフィリーゼが探そうとするとスルッと逃げられるような感覚に、リフィリーゼは焦っていた。苦痛を感じているイスランタはもちろん、リフィリーゼからも汗が滴り落ちる。


「……リフィリーゼ。あんた、大丈夫かい?」


 リフィリーゼの構った様子に、イーリアが心配そうに声をかける。焦りから集中が途切れていたリフィリーゼが返答する。


「……見つかりません」


 リフィリーゼの集中が途切れるにつれ、イスランタの苦悶の声が強まっていく。


「う、うぅ……」


 唸るしかできないイスランタの様子に、リフィリーゼは焦ったようにイーリアを見た。


「……落ち着きな。リフィリーゼ。大丈夫だ。あんたなら見つけられる。薬草園での薬草の面倒だってうまく見ているじゃないか。あんたが面倒を診始めてから、魔法薬の質が良くなったと好評なんだよ。大丈夫さ、ほら、息を吸ってもう一度探してご覧。綻びは必ずどこかにある。……不完全な魔法のはずさ」


 イーリアの言葉に頷いたリフィリーゼは、再度集中する。綻びは必ずどこかにある。それを信じてもう一度、魔力をもっと細く。針よりも細くしていく。リフィリーゼの額からは滝のように汗が滴り落ちる。


 ぽたり、落ちていく汗を拭ったリフィリーゼははたと気がつく。魔法の根源は水魔法。針のように魔力の薄い固体にすることにこだわっていたが、液体にして探した方が簡単じゃないのか。魔術具の治療液だって液体だった。……ジェル状になったが。


「……魔力の根源は水?」


 そう独り言を言ったリフィリーゼが魔力を込める。イスランタの呻き声が一瞬大きくなり、イーリアも慌てたようにリフィリーゼを見た。


「何をする気かい?」


 イーリアの言葉に、リフィリーゼはイーリアな方など見ずに答えた。


「魔力の根源は水です。水で綻びを探せば、必ず漏れ出すところがあるはず」


 リフィリーゼの答えに、イーリアがいったん考え込み、リフィリーゼに言った。


「このままじゃ、イスランタが耐えきれないよ。……あたしがサポートしよう」


 イーリアはそう言って、イスランタに回復魔法をかける。イーリアの回復魔法に少し楽そうになったイスランタを見て、リフィリーゼは一気に魔力をたたみかけた。


「……あった」


 リフィリーゼが見つけた綻びはとても小さなものだった。大きな綻びを大きな布で覆って隠してあるような構造に、リフィリーゼは顔を顰める。唸り声から叫び声に代わっていたイスランタと魔力をかなり消費したイーリアがぜぇぜぇと息を切らす中、汗をぽたぽたと垂らしながらリフィリーゼは悩んだ。


「……どうなっているかわからない。魔力をごっそり奪い取って封じただけ? なら、奪われた魔力を取り返すには?」


 考え込むリフィリーゼにイーリアが言った。


「よく見つけたよ、リフィリーゼ。あんた、今すぐに魔力を奪い返すことは不可能だ。まずはこの封印を解いてやりな」


 イーリアにそう言われ、リフィリーゼが頷く。そして、魔力でそうっと切り裂くようにイスランタの封印を解いた。


「うわぁ」


 奇声を上げたイスランタは、気を失った。慌ててイスランタの様子を見たイーリアが気を失っただけだと確認して、ほっと息を吐く。


「今日はあたしたちは頑張りすぎたよ。もう帰って寝るんだ。イスランタもこのまま寮に届けておくからね」


 イーリアがそう言ってイスランタを転移させるのだった。







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