23.イスランタとルミアの出会い
「リフィリーゼ……イーリア様に説明してもらったのか?」
リフィリーゼの耳元でコソコソと話しかけるイスランタの顔色は先ほどよりマシになっていた。小さく頷くリフィリーゼを見て、イスランタはホッとしたように息を吐いた。
「リフィリーゼに他意がないのはわかってたからな」
イスランタはそれだけ言って仕事に戻る。先輩職員たちも、リフィリーゼのことをなかったようにいつも通り仕事している。
そんな周囲の様子に感謝の気持ちを抱きながら、リフィリーゼは自分の仕事に取り掛かるのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「くっくっく、無様だな。ワイナー」
薄暗いが周囲が不気味な青色の光に照らされる空間で、メルタリア・ジョセフィーングは笑う。片手にワイングラスを持って機嫌良さそうに。その視線の先には、なにやら青い膜のようなもので包まれたワイナーがぴくりとも動かない。
「ワイナー。お前は、この儂の魔力増強の元となって死ぬのだ」
メルタリア・ジョセフィーングが高笑いをする。美しく、有能なワイナーの力を我が物にできるとニヤついている。
「お前の魔力を奪ったら、美しくなった気がするぞ? お前の美しさは魔力由来のものだったのか? なら、あの面倒なお前の弟子はいらぬな。美しくない」
そう言いながら、メルタリア・ジョセフィーングはその空間から姿を消すのだった。一方、残されたワイナーの拳がぴくりと動いたことも気がつかずに。
⭐︎⭐︎⭐︎
「イーリア様。こちらの仕事、終わりました」
「そうかい。リフィリーゼ。じゃあ、次は」
イーリアが口を開いた途端、鐘がなった。
「あぁ、もうこんな時間かい。ほれ、あんたはさっさと昼飯に行きな」
リフィリーゼを手で追い払うように振り、他の職員たちが立ち上がって出ていくのに従って、リフィリーゼも食堂に向かった。基本的には好き勝手な時間にお昼を食べる職員もいるのが宮廷魔法使いの性だが、今日の食堂の限定メニューを狙ってか、やけに定刻通りに席を立つ宮廷魔法使いが多い。
「おい、リフィリーゼ。これってどういう状況?」
初めて見る光景に慌てたイスランタが、リフィリーゼの後を追って駆けてきた。
「……今日の食堂のランチ限定メニューが、絶品ハンバーグだからだと思うよ?」
職員たちはそのまま食堂に吸い込まれ、「ハンバーグ」「俺も」「私も」と次々と注文する。一斉に入ってきた宮廷魔法使いの集団に、他の王宮職員たちが圧倒されたように固まっている。しかし、誰もそんなことを気にせず、宮廷魔法使いたちは次々とハンバーグを頼み、席についていく。
「はい、嬢ちゃん。ハンバーグかい?」
「はい」
「隣の坊やは?」
「お、俺!? じゃ、じゃあ、ハンバーグで」
「はいよ! ハンバーグ二入ったよ!」
次々と焼き上がったハンバーグにソースをかけて宮廷魔法使いたちに差し出す料理人たちは、異様な光景を気にもせず、次々と料理を提供していく。
「……うっま!」
「でしょ?」
流れるままハンバーグを頼み、席についたイスランタが一口フォークで刺して食べると、感嘆の声を上げた。
「……それなりのもん食ってきたつもりだけど、これは美味いな」
「だから、絶品ハンバーグの日はみんな食堂に行くの」
ナイフを入れたハンバーグからは肉汁が溢れ出し、デミグラスソースと絡む。肉の焼ける香りが食堂中に漂い、あちらこちらでジュージューと音が聞こえる。中は少し赤みが残っているレアなハンバーグだ。
リフィリーゼの答えに、イスランタが納得していると、リフィリーゼの後ろから声がかかった。
「……絶品ハンバーグ以外も美味しいんですよ? 宮廷魔法使いの皆さんは絶品ハンバーグしか食べませんが」
リフィリーゼの後ろから顔を出したルミアが、リフィリーゼとイスランタに「ここ、いいですか?」と声をかけながら座った。
「そうなんすか?」
「あ、君が噂の後輩くんですか? はじめまして? ルミアと申します。エストランケ家の者です」
ルミアの挨拶に、「あぁ」と声をかげたイスランタが返事をした。
「エストランケ家の。多分面識ありますね。イスランタ・ジョセフィーングと言います。ジョセフィーング家の者です」
イスランタの自己紹介に、リフィリーゼはハンバーグを食べるのも忘れて口をぽかんと開けたまま、イスランタを見ている。
「……なんすか」
「イスランタって、きちんと敬語使えたんだね」
驚くリフィリーゼに、ルミアは吹き出し、イスランタは決まり悪そうに頭を掻いた。
「一応、ジョセフィーングの者だからな」
「ふふふ、ジョセフィーング家は歴史も長い名家なんですよ?」
「エストランケ家の方が名家でしょう」
そう言ってハンバーグを齧るイスランタに、ルミアは微笑んで言った。
「まぁ、そうかもしれませんね」
そんな二人の様子を眺めて、リフィリーゼもハンバーグを口に運ぶのだった。




