22.リフィリーゼの恥じらい
「リフィリーゼ。よく聞きな。幼子がするのと違って、もうあんたの年齢で頬にキスをするのは、求愛に近いことになる」
イーリアの言葉にリフィリーゼは首を傾げた。どういう意味だろう、という表情にイーリアは頭を抱えた。
「あいつめ。魔法に関してはしっかり育てたが、そういう面は奥手か。せめて知り合いの魔女にでも任せればいいものを……。そもそもリフィリーゼの実家ではどんな教育を施したんだか……」
ぶつぶつと言った後、意を決したようにイーリアが言った。
「つまり、結婚したいと思う相手や恋人にすることだ。これでわかるか?」
イーリアの言葉に、リフィリーゼはばっと顔を赤く染めた。
「え、わたし、そんなつもりなくって」
「わかっている。だから、あたしがこうやって教えたんだ」
焦るリフィリーゼの頭の中で、先ほどの発言が蘇る。魔女というよりも痴女だ。そう思って、リフィリーゼは、はたと気がつく。「……わたし、お師匠様に何度強引にした?」と。
「え、わたし、お師匠様に……。え、死んでてよかった……もう会うこと、ない……」
パニックに陥ってるリフィリーゼに、イーリアが遠慮がちに口を開いた。
「……リフィリーゼ、あんたが聞いてこないから言わなかったが、残念ながら? わいなーは生きていると思うぞ?」
イーリアの言葉に、リフィリーゼの表情がパッと明るくなった。そして、その直後すぐに顔を曇らせる。
「え、うそ。喜んでいいの? いや今は悲しむべき?」
⭐︎⭐︎⭐︎
「お師匠様。頬を出してください」
「いや、だから、リフィリーゼ。やめなさい」
ワイナーの腕を強引に引き、リフィリーゼはその頬に口付ける。
「家族なら普通にすることですよ? お父様も言っていました」
「……」
頬を少し染め、困ったように顎に手を置くワイナーを見て、最初はギョッとした表情をして自分の弟子の目を隠していたワイナーの友人の魔女が、ニヤニヤしてワイナーに言った。
「ワイナー。あんた、満更でもなさそうだね? あぁ、愛弟子は家族だから、問題ないだろうよ?」
「黙れ。マチルダ」
「ワイナー。マチルダ姉さんと呼べといつも言っているだろう!」
そんなマチルダとワイナーの様子に首を傾げるリフィリーゼと、突然目隠しされて暴れるマチルダの弟子。
「ほら、マチルダ様もこう言っているから、問題ないんですよ。恥ずかしがり屋のお師匠様ですね」
リフィリーゼの言葉に吹き出したマチルダが、腹を抱えて手で机をバンバンと叩きながら言った。
「ひっひっひっ、ワイナー、お、おま、恥ずかしがり屋だって。恥ずかしがり屋。ひぃ、腹が痛い。リフィリーゼ、あんた、笑いの才能があるよ」
「ありがとうございます?」
首を傾げるリフィリーゼを見て、ワイナーは嫌そうな顔をしてリフィリーゼに言った。
「……こいつの前では二度とするな」
「はい!」
頷くリフィリーゼを見て、マチルダは再度笑いの渦に巻き込まれた。
「ひぃ、二人きりならいいって? こいつ、とんだむっつりすけべだ」
マチルダの言葉に激怒したワイナーがマチルダに向かって攻撃魔法を飛ばす。慌てた様子で避けたマチルダが、弟子の首根っこを掴んだままドアから飛び出し、箒に飛び乗った。
「じゃあね。またくるよ、お二人さん」
マチルダは箒の上から手をひらひらと振り、弟子は遠慮がちげに頭を下げた。そんな二人を見送り、リフィリーゼは素直に声を出す。
「はい。またお待ちしております」
「二度と来んな。糞婆」
ワイナーの語感を読み取ったマチルダが、ワイナーに向かって得意の闇魔法の攻撃魔法を打ち込む。ワイナーがそれをひょいと避けるのを見ると、マチルダは舌打ちして言った。
「ちっ、外したかい。お前のそのお綺麗な顔を醜くしてやろうと思ったのにな」
そう言うマチルダの背中を弟子がぽかぱかと叩きながら言う。
「か、帰りましょう。お師匠様、早く」
「仕方ない子だね。ま、確かにワイナーが次の魔法の発動を終える前に帰るとするかい。じゃあね、リフィリーゼ」
はらはらと手を振って、マチルダは箒を急発進させ飛んでいった。リフィリーゼの横で魔法を展開しようと魔法陣を記しながら呪文を唱えるワイナーを見て、リフィリーゼはぎょっとしながら魔法陣を読み解く。
「……雷撃と、水、闇に、火? むちゃくちゃな魔法陣ですね。これ当たったらひとたまりもないですよ」
リフィリーゼがそう言った途端、魔法陣は輝き、魔法陣から噴き出るように溢れ出た攻撃魔法は、マチルダの飛んでいった方向に飛び出していったのだった。
「うわぁ……すごい」
その魔法を見て、リフィリーゼは目を輝かせながらそう溢すのだった。




