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宮廷魔法使いリフィリーゼの大掃除〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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21.リフィリーゼとワイナーの秘密

「リフィリーゼとイスランタはすっかり仲良くなったんだねぇ」


 協力して仕事を終わらせ、メルタリア・ジョセフィーングの情報と魔力を取り戻す方法を探るために図書館へ通い詰める二人に、イーリアが嬉しそうにそう語る。


「り、利害が一致しただけっす」

「仲がいいとは思いません」


 同時に否定する二人に、イーリアはクククッと笑った。


「はいはい。そういうことにしておくよ。で、今日も二人で仲良く図書館デートかい?」


 完全に揶揄う姿勢に入ったイーリアをイスランタは睨み、リフィリーゼは面倒くさそうに言った。


「まだ頬にキスすら済ませていないんですから、仲がいいとは言えませんよ」


 リフィリーゼの言葉に、イスランタとイーリアだけでなく、その場にいた全員がギョッと目を剥いた。


「ほ、頬にキスだって!? あんた、イスランタとそんなことをするつもりなのかい?」


 驚くイーリアに、リフィリーゼは不思議そうに首を傾げて言った。


「……家族くらい仲が良ければいいんじゃないんですか?」


 リフィリーゼの回答に、イーリアはリフィリーゼだけを呼び出し、個室に連れ込んだ。腕を引かれるリフィリーゼは不思議そうに、周りの職員たちは見守るように、イスランタは気まずそうに見送った。





「……リフィリーゼ。あんたの知識はどこで止まっている?」


「……家族に親愛の情を示すために頬にキスをします。間違ってますか?」


 不思議そうなリフィリーゼに、イーリアがため息を落とした。


「あんたはいったい何歳児だい? それはいつ誰に言われたんだい? ……もしかして、ワイナーじゃなかろうね?」


 問いかけるイーリアに、リフィリーゼは首を振って答えた。


「いえ。お師匠様にもよくしてましたが、元々は実のお父様ですよ?」


 ワイナーによくしていたという答えに目を剥くイーリア。そして、実のお父様という単語に訝しげに目を細めた。


「……ワイナーは後で聞くとして、実のお父様ってどういうことだい? あんたは一体何歳まで実のお父様にしていたんだい?」


 イーリアの問いに、リフィリーゼが首を傾げながら指を折って答える。


「えーと、捨てられたのが、確か、一、二、三…今が十八で、お師匠様と過ごしたのが……あ、十四歳の時ですね」


 リフィリーゼの答えに、イーリアが嫌そうな顔をしながら問う。


「ということはあんたは、十四歳まで実の父親の頬にキスをしていたかい? あんた生まれはなんだ? 娼館か?」


「しょうかん……?」


 聞き覚えのない言葉に首を傾げたリフィリーゼは、気を取り直したかのように続きを言った。


「一応貴族令嬢のつもりですが……」


「いい、いい。そんなことはわかっている。で、あんたは喜んで父親の頬にキスをしていたってことかい? 父親は止めなかったのかい?」


 イーリアの言葉に顎に手を置いたリフィリーゼがうーんと言った後、答えた。


「どちらかというと嫌々毎朝してましたね。職場で自慢するからって。しないとご飯を抜かれたので」


 なんともないことのように言ったリフィリーゼに、イーリアは顔を歪めた。


「……なんて父親だ。あんた、大変だったんだねぇ」


 同情したようにリフィリーゼの頭を撫でるイーリアに、リフィリーゼは不思議そうな表情を浮かべていた。


「幼子ならまだしも、十四歳のそれも貴族令嬢にさせることじゃないよ……。で、あんたワイナーにもしてたって言ってたけど、それはどういう意味だい?」


 目を険しくしたまま問うイーリアに、リフィリーゼは答える。


「……日頃の感謝を伝えるために、しようと思ったのです。最初は拒絶されましたが、なんで? と聞き返すと何も言わず受け入れてくれるようになりました。最終的にお師匠様からもしてってねだったんですけど……それは一度もしてくれませんでしたね」


 悲しそうなリフィリーゼに、イーリアは眼鏡を押し上げながら問う。


「……あいつ、教えることを放棄しおって。淑女にそんなこと教えるのはあいつには無理か。で、リフィリーゼ。ワイナーには自分から喜んでしてたって意味かい?」


「えぇ、そうです」


 こくりと頷くリフィリーゼに、イーリアがニヤニヤと笑みを浮かべる。不思議そうにリフィリーゼはそれを見つめ、リフィリーゼはそんなイーリアな顔を見ながら、ワイナーとの出来事を思い返した。






⭐︎⭐︎⭐︎

「お師匠様! このパンふわふわです! ありがとうございます! 初めて食べました! こんな美味しいパン!」


「そうか。それはよかった」


 時間短縮のためとか言って自分はカチカチの保存食用のパンを齧るワイナーに、リフィリーゼは笑顔でお礼を言う。そんなリフィリーゼの様子を見て、ワイナーもリフィリーゼの頭を恐る恐る、優しく撫でた。


「えへへ、お師匠様。大好き!」


「……リフィリーゼ。気軽に口にする言葉じゃないぞ?」


「じゃあ、わたくしの感謝の気持ちはどうやって示したら……。そうだ! お師匠様。ここに座ってください。いつもお父様にしていて、お父様が喜んでいたのです! 周りに自慢できるって」


 リフィリーゼに手を引かれて、隣の椅子に座らされたワイナーは、不思議そうな表情を浮かべながら、リフィリーゼを見ていた。


「横を見ていてくださいね?」


「……肩でも揉むつもりか?」


 ワイナーのそんな言葉を無視して、リフィリーゼがワイナーの頬に口付ける。


「は!?」


 何をされたかわかった途端、ワイナーが慌てたように椅子から立ち上がり、頬を抑えた。


「あれ? お嫌いでしたか?」


「いや……リフィリーゼ。お前、これを実父にしていたのか?」


「はい。毎朝絶対するように言われてましたので」


 リフィリーゼの言葉に、ワイナーが大きなため息を落とした。そんなワイナーの様子を不思議そうに見ているリフィリーゼを見て、ワイナーが困ったように口を開いた。


「……もうしないようにしろ」


「え? なんでですか? お嫌でしたか? お師匠様のこと、家族のように家族以上に大切なお人だと思ってます。お師匠様はそうではないのですか?」


 目を潤ませるリフィリーゼに、ワイナーは困ったように眉を寄せて言った。


「……大切な弟子だ。家族のように家族以上に」


「では、問題ありませんね。感謝の印です!」


 笑うリフィリーゼにワイナーは頭を抱えて言った。


「……今回のみにするように」


 そんなワイナーの言葉など耳に入らぬまま、リフィリーゼは鼻歌を歌いながらパンをちぎるのだった。




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