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全属性を扱えるのは天才だけじゃない。

魔法剣を使える美玲のほかにもう1人いる、あの奇人のアイドルマニアの警察官。


ケイコの初期技で博打技エレメンタルウィップから派生するリミットメルト技と似ている。


この世界は視覚的な情報である様々なゲージが目で見えないないから気付いていても気付かないだけで属性テンション値ってものがある。

(これはあっちのゲームでも同じく見えない内部数値の仕様だった……が、技を当てた回数や戦闘中のキャラの台詞のトーンで判断できた)


すべての属性テンション値を溜める下ごしらえをこなすことで繰り出せる技、それが別所透蘭に隠されたリミットメルト技【風粼炎斬(ふうりんかざん)・シンライ】。

(なんかわからんが要するに風林火山で全属性ってことだよな? さすがべっしょ水産次期社長リミットメルト技もエレガントだぜ……!)


それが別所透蘭のもう一癖ある極めた可能性だ。



「こういう場合のゲームってのはやっぱりおもしろいぜ、成長実感ハハ」



勝負ありの煌めくまりょくの塊は月面のカタチを変えて無くなり────



全てを終えた別所透蘭は一足先に決着をつけ彼女の戦い様をとおく見守っていた父親の方へと、心地の良い爆風にさらされた髪をざっとお直しし近付いていった。


様子を合わせるように何故か決して急がず、お互いに一歩一歩月面を歩み寄り、



「すまない、すこし読み間違えてしまったか?」


「それはどちらのことでして? ふふ」


「ハハ、魅せ付けられた良い戦いだった。この目にたしかに」


「ええ、ふふ。私はずっと信じていました、たしかに」


星色に染まっていた瞳はグレープへと落ち着き、見さげる熱い視線は黒く微笑んでいる。


差し出した黒スーツ袖のおおきな手、プレイヤー父親と別所透蘭は互いの勝利をたたえ合う────味わうような固い握手を交わした。




▼▼▼

▽▽▽




こうして彼と彼女が面と面を向い合せるのはもう何度目か、

関係性はもう偶々魔女のアジトで鉢合わせた初対面ではない、共に信じあい戦った仲間。

白い休憩セットの元で最終確認、作戦会議は行われていた。


「さぁて本題だが、さっそく俺はこのあと紫とオレンジさんの出身地である上司カグヤ様の待つホンモノの月に行って来ることにした……!」


「もちろん私も行きますわ!」


「そう言うとおもって反対意見は既に全部俺のナカで処理しておいた、ハハっ。ならさっそくいくか?」


「ええもちろんですわ! ですが……当初の予定のひとつだった手土産はどうするのです?」


「あぁそれならこの俺の仲間の“甘多(あまた)”さんにもらったケーキセットでいい、はぷっやっぱショートケーキは美味いな、俺はショートケーキが一番好きなんだよ、うんっ美味い」


影の無い巨大戦艦甘多は高く浮かぶ。

フォークは天を指し、ショートケーキの三角を刺し切った。

黒スーツをはおる渋いおじ様は苺のショートケーキをほおばる。

そんな渋く甘くすこしかわいらしい様を、お紅茶たしなみながら対面に見つめて、


「────それは私も6番目に好きでして。(1番はお母様のシフォンケーキ、魔女の胡桃クリームケーキ、メイドよしえのマフィン、甲乙つけがたいのでして)土産はわかりましたが……本当にバッチリとハマるのです? もちろん信じてはいますがここで得た情報もカグヤ様に与太話と捉えられる裏目の可能性もありまして」


既に月に行ったあとの大まかな着地点までの話はされていた彼の意図するところもおぼろげに分かっていたが、それでも透蘭は再度確認をしておきたかった。

この作戦にはそもそも敵同士という点が抜け落ちているのではとも……少し彼女は思っていた部分もあり。


突き刺さる彼女の眼差しにフォークを小皿に置いて彼は答える。


「んーー、実を言うとな……そんなに計算しちゃいない。カグヤ様ってのがどんな強い人物でどんな変な人生歩んでどんな逞しい性格をしているか俺は知らないからな。実際にこの目でその目を拝んでやろう、なんなら必要に応じてもう1戦ってのが本音だ。不備水漏れのないきっちりとした船で臨む作戦とは言えない」


彼のすんなり発した内容は予想外ではあるが予想内ともいえた。

透蘭は驚きつつも、さらに深く、彼の言葉を引き出したかった。

彼女はもう一度つづける。


「それは……荒波に何が待ち受けていようとも自分の身を危険にさらすのを恐れないという……ことですか?」


「え? あー。いやいやそういうことか? いやーハハハ荒波というか。最初は嫌だとは思ってたんだけどな単純に気になったんだその月にあるツキの先のストーリーがさ」


「月にある月の先のストーリー……」


彼の口から知らない言葉が出てきた、透蘭は思わずこぼしたオウム返しの言葉で問うたつもりはないが彼はごめんとついさっきの己の言動を軽く笑いつづけて答えた。


「ごめん、ふっなんか鼻につく洒落た感じのことを言っちまったが……十六衆のアメジさんを返り討ちにしてここで気の利いた手土産でまかせを用意した絶賛捕縛命令が下されてる俺がトツゼン月に拝謁(はいえつ)しに行った場合のストーリーってわけだ。ただそんだけッ」


一層にくだけた明るい表情で、プレイヤー父親はざっくばらんに言ってみせた。

そこにトツゼン疾風でも吹き抜けたような、そのない風を浴びたような顔で透蘭は、


「それはきっとただ…………意味が多すぎてざわつきますわね……! ──あと別所透蘭と、が抜けてましてよ! ふふっハンカチも」


同調するように答え、軍配の描かれたハンカチをひとつ、ショートケーキが大好きだという彼に手渡した。







父親と別所透蘭は月にあるツキの先のストーリーを確かめるべくここを発った。


“ここ”激しいバトルの巻き起こった偽物のチャネル月面にいた4人の戦士のうち2人は意気揚々とした足取りで消え、取り置かれた2人はとぼとぼと白いパラソルの旗のもとに集う。



「これが地球の“ちくわ”スープですか……」

「ふむ……敗北にしみるのぉ」

「はぁ」

「フゥ」


カップに湯を注ぐだけ、スティックタイプのべっしょ水産のインスタントちくわスープ。

やがて湯気立ちほんの小さな狼煙となる、


「ここに奇しくもまだ砕けていない月の欠片がふたつほど……挟み撃ちできますね、これを大いなる敗北というには甘いとは思いませんか」

「これ見よがしに我に黒い月をつけられては、しょっぱいとは思うナ。そして熱い、まだ傷口にしみるわい戦闘狂の小童め」


「これが……しみるですか。いささか違うのでは。命懸けのあとの……こどもがあそぶような紙ぺらのまけ」


おんなのオレンジの唇が白いカップから離れ──円卓の置手紙を見つめる。





 地球     決まり手     月


可黒美玲の父親 〇浄化爆王斬● アメジじいさん(黒バッタくんおだいじに)


すごい別所透蘭 〇風粼炎斬・シンライ● ビムーン(ちくわはそこにありましてよ)

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