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▽テラムーンパレス▽
月に月は輝かない、
そんな特別な星の特別神聖な空間に余所者は誘われている。
左右辺りに高官と思われるローブを着た者たちがずらっと並び仰々しい出迎えだ。
やがて微笑う表情をつくる余所者は天にいる者を見上げる。
どこかの国の黄金の茶室にも似たそれよりも何倍も大きい、黄金に輝く和と月の文化が入り混じった空間。枯草髪の魔女が月の中枢機関テラムーンパレスへとやってきていたのであった。
事は既にすすんでおり、
何段も高い席に、2体の鬼の描かれた黄金屏風がある。
その前の上段の間に座るお方こそがカグヤ様である、尊い人は顔を隠すこともなく左にある脇息に肘を置き堂々と下の者を見下ろしていった。
閉じた黒の扇子を手に持ち、指さすように枯草髪のゲストをさして低い声の強い口調で告げた。
「人は1人も欠けてはいけない月のカケラの結集だ、理由がなんであれ余所者が月の民に危害をくわえ殺す事は重罪に値する」
「魔女、貴様は取引相手である月の十六衆ヨイザを騙しそそのかし殺した、月影からワラワの入手した映像を見た限りそれで間違いない」
背後で浮いた電子屏風は鬼の画から切り替わり、あのときの偽物の月面での争い事と思われる映像を映し出していた。
「あらあらこれは困ったわね……ちょっと降りかかる火の粉を消しただけで身に覚えないのだけど」
とぼけたように魔女は手を広げ答えた。既に思わしくない後戻りのできない状況に陥っていた、帽子のないアタマをそっと意味もなくなであげていく。
「信用できぬ魔女の言い訳は聞かん。──それになにやらおもしろい、コヤツはワラワの許可なくかような炎を使うというではないか……今から黄月色の命をくだす、この映像の者を捕らえろ。捕らえてワラワのこの目の前に跪かせてみせろ」
カグヤ様が立ち上がった、それは余程のこと。
そして閉じた扇子は勢いよく払われ虚空を斬り裂いた。
カグヤ様からくだされた黄月色の命、つまり事は黄色信号である。電子屏風にアップで映る映像の男は月をカグヤ様を脅かす存在と認定され捕縛しなければならなくなった。
これには集まった老いも若いも十六衆は、ざわざわと騒ぎ始め────
「カグヤ様その役目ヨイザの仇は古くからの友であったこの十六衆のアメジぃッにお任せください!!!」
いの一番に威勢よく名乗り出た者がいた。紫のローブを纏うアメジという老将だ。
既に部屋の中央へと向かい、天を見上げている。
「ほー……ワラワも分かるぞ古い友を失うのは一層にかなしいことだナラバお前に任せる、ブジ成し遂げられればその今は霞に覆われた表情も心もすこしは流れ晴れることであろう。まずはこののこのこテラムーンまでやってきた魔女の庭まで向かえ! 3日以内にスベテ占拠しろ! そして見つけ次第コヤツをその十六衆のチカラをもってして捕らえよ!」
パッと扇子は開かれた、それはカグヤ様のナカで決まったということだ。
「ハッ! お任せを!」
家臣アメジは両手のパーにグーを力強くあて、鋭く一礼。
再び天の真っ黒い美しい瞳と目を合わせた、そしてローブを翻しさっそく出陣の準備に取り掛かった。
「フフフフ、うぬらもティックの山猫のように寝ぼけていては困るぞ。その老いた魔女はムーンダウンの地下牢深くにぶち込んでおけ!」
黒い扇子に泳がすエメラルドの鯉、カグヤは不敵にワラっていた。
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この日も夢の光をつかみ月面にやって来ていたクセのない金髪の少女。
まだまだ彼女は成長できると確信している、あの魔女の持つまりょくと知識技術は底知れなく自分はまだまだ未熟であると頭の中でチカラの差を理解していた。
今日も……だがそこにいるはずの魔女は探し回れど────────魔女はいない。
かわりに和紙が一枚、白いティータイムセットの円卓上に置かれていた。
魔女がいない……とうぜん不思議におもった透蘭はそれに触れると紙はひとりでに折られ鳥となりどこかへと飛んで行った。
「────なんですの? 留守した魔女に届くまじない……かしら?」
考えるも良くはわからず、相変わらずサテンの寝間着をきた別所透蘭は白い椅子へととりあえず腰かけて待つことにした。
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宇宙彼方へ飛んでいった鳥の行方は────────
その男、偽物の月面に召喚され降り立ち、
目印は白いティータイムセット……と優雅に座る美しいオンナのオーラ。
その距離はもういっぽいっぽ近く近付く、お互いが歩み寄って────
「魔女のアジトに居る…………魔女じゃない、だれだ?」
ラヴあスをやり込んでいたはずのプレイヤーはその姿、そのクセのないロングストレートの寝間着姿の少女に見当もつかない。
「それはこちらのセリ……あなたは、可黒美玲のお父様でして!? 何故ここに!?」
「!? そのしゃべり方に……その金髪と紫の目……べ……別所透蘭か?」
彼女は気付いた、それは彼の写真を独自に入手していたからでもあり、すっきりとした黒髪と黒目、話し方雰囲気までもを美玲と重ね合わせ彼女の頭の中で一目じっくりと見た瞬間に合点がいった。
おどろくプレイヤー父親もやっと気付いた、どう見ても別所透蘭でしかない話し方とその彼女の持つ特徴に。
しかしいつもの豪華なドリルヘアーが失われているので、目に映る彼女の姿ははじめて見るようになんとも新鮮であった。
「正真正銘にそうですわ!!! あなたはなんッ」
「……とりあえずお茶しようぜ」
「で……お茶しようぜ……?」
見慣れない別所透蘭を見つめて提案した──この場の情報は過多────一度お互いに休憩の間が必要である。
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ラヴあスの関係外ともいえる思わぬ横道でばったりと遭遇してしまった2人、とりあえず設けたティータイムの席を向かい合わせで共有する。
父親はひろげた、折り目のついた和紙を透蘭へとみせた。
「魔法か何かしらないが寝ていた俺の元へコイツがいきなり届いた。鳥になっていたが表も裏も内容がない白紙だ(あの鳥めちゃめちゃデコをとんがった紙でつつきやがって……)」
「わ、わかりましたわ……8割方いまのでここに可黒美玲のお父様がいることを理解しました。して、この白紙の意味はなんと読みますの?」
「さすがイイ……ンンッ! べっしょ水産の次期社長だ話が早くて助かる。意味はおそらくそれぐらい困っているってことだろ。わざわざ届いたのが白紙つまり知らせたくない事があるか知らせられないほどなのかよく考えて行動してくれということかな」
「なるほど……でもどうして困っていると確信を? それと次期社長ではありませんわ」
「ハハすまない忘れてくれ、確信……おそらく奴等に捕まっているからな」
「奴等?」
「旧カグヤと月のオカマたちだ」
「きゅう……カグヤと月のオカマ? なんでしてそれは?」
別所透蘭との向かい合わせの話し合いは彼女の理解と察しの速さで小気味よくすすみ、
茶を置き、身を乗り出すほどに前のめりになった透蘭を父親は手でやんわりと制した。
目の前見つめるコーヒーカップの水面がしずかにさわがしいのだ。
「んーー。ちょっと待った……とにかく魔女が処刑でもされると俺の予想では厄介な事になりそうだぞ」
「例えばだ」
「ちょうどあんな風に……ここの優雅なティータイムを乗っ取る気だぜこいつら!」
「ナ!? 敵でして!?」
「ハハハご苦労な敵の生態系調査隊だ! 別所透蘭下がってろ!」
おかしな気配は月面遠方、ローブを纏った異物が集団でいる。
父親と透蘭2人の月面ティータイムに突然の侵入者。
そんなことだろうと既によからぬ予期をしていたVRゲームに毒されたプレイヤーは、おもむろに席を立ちあがりワラう。
どうせ襲われるがいきなりは抜かない、よからぬ連中にはよからぬサプライズをしてやろうと心に忍ばせた刃をニヤリと研ぎ澄ました────────




