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ぐさりと石畳の平面に突き刺したエメラルドハルバード。誰が見ても分かる攻撃の意志はないということであり。
「美玲くんちぱちぱちぱーー! ありえなあーーい蜜美感激!」
「はぁはぁ……んッ、あり得ないと思うのに攻撃したって頭おかしいですよ!」
「えええ、ひどーい可黒くーん、だって霞ちゃんを負かした男子なら気になっちゃうじゃんー」
炎の美技に口をぽかんと開け唖然とした表情から拍手が速まっていき、元気の良い青いくせっ毛の女性が瞳を輝かせて子供のようにはしゃいだ。
「はぁ……すまない可黒、でもアレはなんだ私の時以上のチカラを隠し持っていたのか、いや……それはお前なら当然だったな……あの時点で私には底が知れなかった」
「本当にこれが全力ですよセンパイ……で、もう辞めてくれますよね、ほんと風呂に入り直したい……せっかくの温泉宿が」
申し訳なさげな霞と目を合わせこのおかしな夫婦に対しての同意を得た美玲、呆れたため息を吐き再度その2人組に問うた。
「入り直すのはいいが何を勝手に終わろうとしている、私はまだ刀を持っている」
乱れた白髪に年季のいった顔、真剣を平然と美玲に対して構えたその男。
「冗談だろ……もう付き合えない」
「……ふっ、そうかではこうしよう。私はな、君の父親と昔何度も会った事がある、ふふは、気になるか?」
「……はぁ、なんかもう驚きませんよ。父さんなら……ソレ、本日2度目です」
「私はここで立っている、好きに打ち込んで来ていい、話し合おうじゃないか色々と」
「他人の話を聞かないタイプが集まるもんじゃないな……じゃあ……2対1と真剣はやめてくださいね、風邪ひきますよ!」
頭をぼさぼさと掻きまた呆れた様子を見せて、そして黒い瞳はそのただものじゃない老人を強く睨みつけた。
ガッと、地を割り引き抜いたエメラルドハルバード。ぐるぐると頭上で旋回させぴたり、右脇腹に長い柄を構えた。
「年寄りだ、温めて骨まで燃やしてみろふはははははは」
高笑いをする男に、苦笑い、黒髪をなびかせて光る緑の剣線は紅く染まった。
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「で、霞ちゃんはどこが好きなの」
「は!? ママ何を言って……はぁ…………知らない、まだはじめまして、だ……」
「ふーん、でもミツミがおもうにライバル多そうね、霞ちゃんじゃちょっと荷が重いかぁーー」
「くっ……余計なお世話。それに可黒は私に勝った、今はまだそれだけだ」
手に持った雷月、青い瞳はその刀を見つめ何かを思い描くように。
霞は自然とニヤけてしまう。
そんな娘の表情に母はキラキラとした瞳でたのしそうに……。
「勝った相手に刀を贈るなんてステキステキ素敵!!! ミツミちゃんなら即堕ちね! あぁ、わたしもあぁーあと10年若けりゃねー可黒くんとラヴロマンスあり得たり!! うわー、わたしも男子高校生に刀をもらえる恋したいわー」
「ほんとママ……黙ってて、くれ、ください……はぁ」
「父さんとはどういうッ!!」
「ちょうどこんな関係だったかなふははは」
「チッ、あんたよりッ!!」
かち合って弾かれて、美玲は力を込める程にいなされ跳ね返される底の見えない老人に息を荒げてまた苦笑った。
「どう考えても勝ち目が……はは」
「私より、つよいかどうかかな? 君の父親の炎にはよく嫉妬していたが、ふははは、さぁ、今となっては少し……超えたかもしれないな?」
「冗談……! 爆炎斬!!」
「爆雷斬!!」
振り下ろされ合わさった炎と雷、ギリギリと刃と刃は押し合い、やがて紅は弾け散った。
勢いそのままに地に振り抜いた雷斬、バチバチと青い電撃をその身に纏わされ美玲は老人の剛力で後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「ふむ、脳内の幻闘ではもうアヤツを超えていたな、ふははは、まるで懐かしいつづきだな」
ざざっと、黒のスニーカーを減らしながら石畳を大きく滑って庭池へとどぽり。
可黒美玲の姿は轟音の後に数秒消えてしまった。
笑っていた男はその間に少し不思議がり。やがて、ちゃぽん、ちゃぽん、と何かが庭池から飛び出て来た。
「なんだね、それはあそ」
天から降り注いだカラフルなレーザービーム、次々と水音を立てて投げ上げられたパワーストーンが男をロックオンし突き刺さっていく。
雷を纏った巧みな剣捌きで高速で降りてきたレーザーを斬り裂く老人。
そして大きな水音で這い出た可黒美玲は肉薄し。
「爆連斬!! 爆連ざん!!」
踊るように軽やかに、力強いステップ、荒々しい炎の刃の連撃が老人を激しく攻め立てた。
火花を散らす刃と刃、加速していく荒ぶる炎を受け止める。
豪快な袈裟斬りで締めくくられたレンゲキ。衝撃でずり下がり防御の構えのまま静止、炎を受け止め切った……熱を帯びた刀と身体でニヤリと老人は美玲を見つめて笑った。
「これは幻闘ではアヤツは使って来なかった技だな……ふはははは」
「炎の才能に溺れ燃えるか、綿となり含み伸ばすか……どれ、私が伸ばしてやろう、真剣でな! ふははは可黒美玲!」
「父さんもあんたもくれるならくれよっ……俺は、何にでもなってやる!」
一度は落ちた、何度も……濡れた身体と黒い髪はまだ乾ききっていない。
エスカレートしていった試し合い、可黒美玲と白髪の老人いつしか2人の熱は飛び火し、3人、4人と。
ショートデニムがよく似合うすらっと美脚の足捌き蒼月霞、最終的には身内同士の打ち合いとなり。メラメラとした蒼い雷の技と技の魅せ合いもそろそろお開きの時間のようだ。
「フム霞、まさか私がお前に学ばされるとはな、ふははは」
「霞ちゃんも隠していたなんてひっどーーい、こんな技がねぇ、あはは今日という出会いに乾杯!」
刀を鞘に仕舞い、エアーで、何かを飲み干す真似をする蒼月母。ひどく気分が良い様子がうかがえる。感情を表に出すことが得意なようだ、とにかく彼女は元気である。
「隠しては……可黒のパパから学んだだけだ、まだまだパパとママには……はぁ、これでまた離される……鍛錬……」
「なに? 超えた気になっていたが……アヤツも私を超えていたか自惚れていた、ふはははははは」
「この一家もそうだけど、父さんも色々……いやもっとおかしいのかもしれないな……それよりこれか……」
バチバチ、メラメラと刀身にぶつかり混ざり合うものを見つめる、美玲の黒い瞳にその感覚が僅かに焼き付いた。
周囲を五月蝿く明るく照らし出したそのチカラの源に注目は集まり。
「美玲よ、綿となることができたようだな」
「意味がわからなかったけど意味が分かりました……俺の中の炎は燃えて、水に濡れた綿を纏う、でも炎はその綿さえもいずれ燃やし尽くす」
見つめる先、刀身を纏っていた青い雷は失せた。紅く燃え上がりつづけ大きく長く吐いた息、短く振り払ったハルバードはマッチの火を消すように元のエメラルド色を取り戻し。
蒼月家の3人は彼を各々の心持ちで見守っていた。
両腕を組んだ老人は、ゆっくりと深く一度だけ頷き。
「……アヤツに出来たことがお前に出来ないわけはない、教えたとおり幻闘をつづけることだな息子よ」
今宵を照らすは円いイエロームーン、予想はしていなかった……汗を流して青く紅く混ざり合い。蒼月家と可黒家、剣術剣技交流という名の突然に起こってしまった修行は浮雲に途切れ終わりを迎えた。
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修行で温まった身体、冷える前に汗をタオルで拭う。うなじや腋、長い脚、露出多めの霞は全てをワシワシと。そして、静けさを取り戻した心に残ったのはやはり彼の事であった。
霞はまだその場に立っていた父親に一つ問うてみた。
「パパ、可黒には何を?」
「まさか出来るとはな、アヤツの息子……霞、怒らせないように気をつけろ」
「え?」
「蒼月は国中の武という武を綿のように吸収していったが、やはり綿は、剣は、炎にはなれない、なろうとすれば燃え尽き掴もうとすれば失せるであろうと語り継がれている。よく聞け霞、これからアヤツの息子は生まれ持ったその才に驕らず炎のように形を変えつづける。見定めた器は広く、いや広がりつづけ天を見上げて地の緑はスキに伸び育っていく」
「…………」
「それが私の見定めた可黒美玲という男だ、アヤツをも超えた」
白髪は腰に差した剣を抜き、虚空へと振り下ろした。やはり幻ではなく、今度は気を込め叫んでみた。地から天へと振り上げた刀は風邪を斬り心地のいい音を奏でた。
皺ついた顔はしだい歯を見せて笑う、見開いた青い瞳の光はメラメラと揺れ動いていた。




