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どれだけ身を動かし炎を使っても一度水に落ちた身体の芯までは温められない。美玲は貸し切り中の水玉夏館の通常の温泉施設よりは狭いが逆に落ち着く一般家族などが利用するプライベート温泉に入る事にした。
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白い湯気が立ち込める、やっぱりこの雰囲気はないと寂しい温泉の醍醐味だよな。
ちゃぽんとさっそく湯船にダイブ! 遠慮する必要はないって、頭はもう1度目に洗ったからいいし……はぁぁ……。久々に芯から生き返った気がする。
「はぁぁ…………今日という日は、おれも鬱になってる暇がなかったな……特にあの夫婦はケイコさんより他人の話を聞かないのかもしれない……」
「……でも大人たち……今までどこに隠れていたのやら……父さん以外も古井戸は……案外頼りになるのかもしれないな……まあ、父さんは、俺だけじゃなくて先輩にも技を……それに未来が見えるみたいだし別格か……!」
ぢゃぽんと左脚を大きく水面に蹴り上げた。
「あの時のバトルあの炎、まだまだ追いつける気はしないな…………そうだッ、んなことより後で父さんに相談だ! 中級技の爆連斬が2回うてちゃった! 父さんも色々おかしい事が出来るようになったって言ってたけどこの事だよな? ははははははやっったーーーー」
明るい表情、円い温泉でばしゃばしゃと子供のように騒ぐ。プライベートな温泉部屋に反響していく青年の声。
水飛沫は元気良く跳ね上がる、可黒美玲のプライベート温泉ならではの全力、身体の癒し方であった。
ひとりはしゃいでいる、やがて水面に浮かびながら天の曇り空を見上げ。妄想、物思いに耽り。
ふぅーー長く息を吐いている、と思っていたら俺はアツい水を飲んでいた。
『しょーーーーーーーーっ』
元気な掛け声、のちに水面は激しく揺れ可黒美玲は波に呑まれた。
「ぶばっぁっ────────」
意味もわからなく沈んだ白乳色の湯の中から濡れた黒髪は這い出た。
すこし染みた両目を開けて濡れぼやけた景色が鮮明になっていく。
濡れ下がった青髪に、晴れ晴れとした青い天の瞳と心配そうにひらいた唇。
「だいじょうぶ? 男子のはしゃぐ声に釣られて年甲斐もなくはしゃいじゃったかも? あはははは」
飛び入ってきた元気の塊に、美玲は髪をかき上げる暇もなく唖然とするしかなかった。
「おーーい、美玲くん、可黒くん? 蜜美ちゃんの事がわからなかったり? あ、霞ちゃんと似ててびっくりしたとか? 霞ちゃんのスタイルには完敗だけど顔はまだまだシワに抗いイケてるねぇミツミ! あっ、まだ疑っているなぁ、もうっ残念だけど霞じゃないよ!」
ぐしゃぐしゃと女の両手が髪をかき乱していく。美玲はこの状況、目を見開くわけでもなく苦笑うわけでもなくなんとも言えない顔で1人しゃべりつづけたソレを見つめている。
くるりとした青い前髪、もじゃっとウェーブした全体はどこかで見た気しかしない。だが、言われなくても美玲は分かっていた、だが、ただただ分からなかっただけなのである。
「正解は10年後のミツミちゃんなの! ってね! 10ねん!」
ばしゃりと白乳色に立てた右の人差し指に元気に見つめる青い目、蒼月蜜美、青年の家族でも身内でもないものがプライベート温泉部屋に乱入した。
「ぶばぁっ!?」
突然に、目の前の人物に水を浴びせられた。両手で掬い上げ豪快な飛沫をあげる。
「もう放置プレイはミツミちゃんのお肌も干からびてしんじゃう! ってね!」
「…………なんでもいいですけどなぜ」
「ん?」
元気一転、きょとんと静止し唇を尖らせ不思議顔。これには美玲も少しイラついてしまった。
「だからなぜ!」
「それはね、ミツミの美玲くん色仕掛け作戦って事で! ってね!」
お茶目に右のウィンク、ばーん、と右の手銃で狙い撃ち。反応に困り呆れをこぼすしかなかった。




