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62❽

小綺麗なマンション、その一室の呼び鈴を鳴らした。静寂に響くその設定されたチャイム音、待てど反応はない。だから彼はもう一度鳴らした。


彼女はひどく気が落ち込んでおり、その美貌にも陰がさしていた。もうこのところまともに自分の顔すら見ておらず、見てしまうと何故か涙が流れてしまう。


「うるさいっ……!!」


うなだれクシャクシャと黒い髪を掻きむしるのはそんな事はどうでもいいからだ。無防備な耳を貫いた機械音にすらイラついてしまう。出した事もない癇癪声が部屋に響いた。


チャイムは3度で止まり。彼女は安堵した、平静を取り戻していき。閉じられたカーテンと暗い一室、乱れる髪に布団に包まり伏せる身その状態に酔いしれた。剥き出しの1枚の写真それは彼女の失ってしまったモノであり、眺めても取り返せやしない。


ガタガタとうるさい、玄関、ドアの方、去ったはずのモノがまたガチャガチャと彼女の頭に響いた。彼女はその騒がしさに耽っていた頭をハッと起こされてしまった。いづれ止むだろう、そう思いまた耳を塞ぎ顔を引き攣らせて耐えた。


そして、やがて。


鈍い大きな音が響いた、ただ事ではない、自分の部屋に響き渡った状況に彼女の中のスイッチが切り替わった。


足音は迫りこちらへと向かってくる、鬱々としていたはずがどきどきと高鳴る胸、それは恐怖でもありこんな状況でも動けずにいるぐらい彼女は生きる気力を失っていた。


足音は他の部屋を移動していたようだ、何かを探しているそんな気がした。彼女は警戒した身の耳を凝らし。それがまた近付いてきた。


ガチャリと開いた戸には、勝手に家にあがり込んでいた侵入者がいた。ずけずけと、ゆっくりとベッドの私に近づき。鍔のあるキャップを脱いだ。


私の目にはっきりと見えて浮かんだその顔は。


「か……可黒、美玲くん?」


「ふぅ……こんなところにいるとカビになっちゃいますよ、先生」


彼は何故か私の状態部屋を見渡し一つ息を吐き、少し笑っていた。


そして差し伸べられていた手に、私は逆らえなかった。



やつれていたはずの私は、乾いた喉をうるおし、カーテンは開けられ。


光が射し込み、破られたドアから新しい風が吹き抜けた。


おもむろに目に入ったのは一枚の写真に写る、生徒たち。私はまだ、くしゃくしゃになんかできない。







彼から与えられたものを食べていた、サンドイッチにおにぎり。どっちも食べる気力があったなんて私、自分の事だけど。


可黒美玲は床に置いたリュックから荷を取り出していた。栄養ドリンクやら数種のお菓子。宝光の家のポットでお湯も勝手に沸かし、てきぱきどたばたと。


私は彼の与えてくれた状況に従い体力を取り戻し、生徒であった彼の慣れない看病をしらず見守っていた。







一息、ゆっくりと。彼はまだここに居てくれるみたい。私と彼は話し合い、彼は色々なことを投げかけて教えてくれた。これまでの彼のこと、この古井戸と彼の父親のことを。


先生としてこのままではいけない、提案しリビングへと移った2人は。

何故美玲がここに来たのか学校でのあの後の事は話し合われお互いの理解を深めあっていた。


「彼女の事は気にしないで可黒美玲くん」


「俺でも……」


「あの組織にのめり込んでからの彼女は別人だった……きっとどうにもならなかった」


「アレに関わるとそれまでのすべてが変わってしまう……親も先輩も……私はそれでも、それが私になっているのがわかる。教師になったのもぜんぶ……」


「……俺も、全てが変わってしまったけど生きています。いくら暗くなっても、全然壊れなくてさ。俺って、そっからなんか知らないけど色々父さんが助けてくれて、サムも……」


「だからきっと生きて、生きてれば勝ち。俺と先生って……ふっ。同じ事していた気がします」


「同じ……?」


「だって、あの部屋だって俺の塞ぎ込んでいたときと全く同じで、ふっ。俺笑ってしまいましたよ。あー、俺ってこんなんだったのかって……。フツウに水飲んで食べて、すぐまともに戻っちゃったり? 俺より元気かも?」


「ふ、ふふ。そうかも……」


微笑む、しずかに笑う。釣られているのかもしれない、でも心の底から笑えた気がする。私の人生なんて常に暗がりだった……でも、彼はちがうのかもしれない。いくら闇にのまれても彼なら。


(たから)先生?」


「……それより可黒美玲くん。ドアを壊すのはちょっと……ダメだと思うな先生」


「あっ……ははは、俺ちょっとチカラに溺れていたみたいです……試し斬り的な……?」


宝光は彼を少し訝しみじっと見つめて、やがて笑いになる。


立ち直った光は。


「先生ちょっと……言いづらいんだけど」


「何?」


「臭うかも……」


「えっ……?」


襟足の毛を掻きながら申し訳なさそうに男子生徒は先生に言った。「臭うかも……」その言葉の意味が状況から分かり、宝光は一瞬彼と見合ってから赤面してしまった。




▼▼▼

▽▽▽




宴陣学園、旧校舎を改装した道場には。凛々しい声が響き、黒紫の道衣を着た1人、青い長髪をなびかせ木剣を振るう。


集中していた彼女に対して、ゆっくりと近付く足音は広い空間に忍びきれず。


「おまえは……」

「どこから忍び込んだ、なんの用だ。おまえのような腑抜けたヤツが来るところじゃない」


「手合わせを頼む」


「なんだと? この私に馬鹿なことを」


「俺は、可黒美玲。お前より強いレジェンドレアだ」


「レジェンドレア!? Sランクの私より強いだと」


「宴陣祭のつづきだ、あの時のように手を抜いてはやらない」


「手を抜いていた、ナめて…………ッいいだろう!! 確かにっ……アレは私も消化不良だった。来い1ねんッ!!」


青髪の彼女は男の挑戦を受け木刀は投げ渡された。







思考を凝らし本能を纏い、木刀は幾度もぶつかり合い、乾いた音が道場に響いた。


弾け散る汗、滴る汗、手に握る汗。


蒼月霞は木刀ごし、その青年の力に圧され息を乱した。



「ハァハァ……くっ……あの時とはまるでッ」


「俺だってバケモノ相手には戦ってきた、これぐらいなら負けやしない!」


「ハァはぁ……くっ! これぐらいっバケモノだと…………どこで強くなったか知らんが貴様の鍛錬は認めるっ悔しいがSランクの私ですら、ならッ」


「私も化けてやろう!!」


「受け取れレジェンドレア!! SSランクの鍛錬をッ、魔青斬!!」


青い瞳はターゲットを捉え、放たれた2連の青い三日月。自身の最大の技である魔青斬は今までの鍛錬の成果を全て込めて。


構えた、あの時の光景。夜のさんかく公園、三日月を砕いた父親の背は。


「爆炎斬」


紅い炎の2閃は青月をぶった斬り砕き、驚く敵に対してキラキラと光る青を突っ切り急接近した。


「なにっ!?」


「がっ!」


木刀は凄まじい紅いチカラに宙へと弾かれた。


やがて、むなしくカランと堕ちた木片。


尻餅をついた蒼月の顔に向けられた黒く焼けた木刀。


「今度は俺の勝ちでいいよな」


「あっ」


刀身の中途からぼろぼろと崩れ落ちた木刀であったもの。


「く……完敗だ……」







道場内、端っこにあった女剣士の像の瞳を可黒美玲はよく観察した。そして彼女が見つめる先にあたりをつけた。


「おいっ! 勝ったらなんでも言うことを聞くとは言ったがハルバード!? 道場を壊すのはッ」


「壊しはしない、ごめん確かめたいんだ」


声を少し荒げたが制止はしない、できない。彼女の発言に答えつつもエメラルドの矛先は迷わず床板を三角に斬り抜いた。


思わず漏らした驚き声、本当に道場を壊されてしまい青い瞳は見開かれ唖然とした表情。だが、それだけではなく。彼が手にしていた藍色の柄、抜かれ見えてきたのは美しく青白く妖しい刀身であり。


「ナッ!? 床の下にこんなものが!? なんだこの、刀は!!」


「これが雷月(らいげつ)、父さんの情報と……ほんとうにははははは」


美玲はワラい右手にソレを掲げて一通り眺め終わると、満足し。カチャリと元の鞘へと戻した。


そして青い瞳と目を合わせ、丁寧に投げ渡した。


「お、おいっ!?」


「俺にはこれがある、プレゼントだ蒼月霞先輩。受け取ったならオカルト探偵部に協力してくれ」


「貴様は意味のわから……刀をプレゼントされたのは初めてだが……真剣……か」


もう何度も驚いた。驚かされた……あの時の勝負から気にはしていたが、レジェンドレア……私を負かしたヤツに……いったい何を考えているかも分からない、でも私に勝てる男がこの学園にいたとはな……。それにこれは────。


おそるおそる刀身をすべらせて覗いた輝く青白に、青い瞳は吸い込まれた。

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