61❼
男が先、古き慣わし通りではなく。
父親は白蜜を腰に提げ周辺の警戒をしていた。掃除はしていたがモンスターの残党がぽっと出てくる、可能性が捨てきれないためであった。
ドキドキと妄想、戦闘シミュレーションあるいは心頭滅却。妙な心持ちの時間は過ぎ、風呂上がりの桔梗たちに声をかけられた。
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俺の番。風呂だ。
雑に地に脱ぎ捨てた衣服。白煙の中へと姿をとかし。
ひさびさの湯に浸かり全身は低い歓喜の声を上げつつ。
「エロいゲーム仕様。風呂に入らなくても汗やら臭いのバッドステータスはなぜか回復されていくんだが……」
「やっぱり風呂だよなぁ、日本人も世界人もゲーマーも……ゲーマーこそ風呂に入れって。ある暇なアメリカの研究機関によるとVRの眼精全身疲労ってのはデスクワーク以上らしいからな……」
肩をもみほぐし、腰肉をもみほぐす。揉み解すべき箇所を次々と実行し蓄積されていた精神と電子体の疲れを癒す。
「しかしどうしたもんか……元のゲーム以上のパワーアップは嬉しいが、俺、と……父親が人間離れすればするほどゲームシステムはついて来れなくなるぞ…………なぁ白蜜」
手に取られた白蜜は返事をしない。
「たのむぞ俺にはお前だけなんだからな」
「わかってるって、無茶はしない。ただ実験ぐらいはさせてくれよ?」
1人のじかんはゆるりと過ぎ、不気味なくらいに静かな雰囲気は幾度も過ごし慣れ親しむじかんであった。
「ふいぃぃ…………。外のエロいゲームの世界で風呂に入るなんてそういや無かったな、エロいゲームならあっても良さそうなのに何か省かれていた理由があるのか……女風呂に乱入するヤツが増えたとか? てかVRで風呂に入るそんな滑稽なことするぐらいなら普通に現実で入ればいいよな……なんでもVRで解決すればいいってもんでも…………でも風呂に入りながらVR……? これは売れるんじゃないか? いや冷静になれ防水性高めないといけないのは現実的ではないかそれにバカが溺れて死にそうだな? いや、足湯!? 足湯VRこれだ!! いや、ぼけーっと浸ってる間に財布とか盗まれそうだ。待てそもそも現実で出来ることにVRは、全然いらなくねぇか…………おかしなことになってるぞ俺という人類……やっぱファンタジー女子風呂乱入────」
1人うなずき1人しゃべる、どんなくだらないことでも考えに更けていると周りと切り離されたかのように時間という概念はゆがみ過ぎていく。風呂ならなおさら、1人風呂ならなおさら。
白い湯気に今となってはハッキリうつるシルエット。それに気付いたのは彼女がどことなくやり場のない顔と目をしていたときであった。
「令月!?」
「……」
「ど、どど、どうした入りそびれたのか……!?」
突然の乱入者にジャブじゃぶと水飛沫。慌てふためいたのは父親であり、しろいタオル一枚で身を縮めそろり接近していたのは令月かほりであった。
「し、しんざ」
「神座?」
「シンザしてくださいッ」
「シンザしてくだ?」
「…………」
ぼそりと、そして絞るように言葉にして発した。やがて顔を真っ赤にしている彼女がそこにいた。
「のぼせているのか……」
「ちがっ、あぁもぅヤダ…………」
顔を両手で覆い隠す。古典的な女子の恥ずかしがる反応が父親の目に映っていた。
このサプライズ過ぎたイベントをどうすればいいのか、父親は即座に考えたが少し分からなかった。だから彼女の方に近付き話をうかがうことにした。
「桔梗に何か吹き込まれたのか?」
手を覆いながら2度頷いている。
「……シンザ……なんとなくわかったが……いいのか?」
ゆっくりと頷いている。彼女にはそれが精一杯であった。
色々聞きたい聞かなきゃいけない事があると思うけど……意を決したんだろう……。ずけずけと、これ以上恥をかかせたら本当にのぼせそうだ。
理由もなんとなく察した、ゲームシステム的な事は置いておく……それに俺も……こんな夢みたいな瞬間を逃したくない。ラヴあスの令月かほりを。
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その後、温泉を上がった2人はホーム礼拝堂地下に────
「すまん、令月に夢中でシンザのことを忘れていた」
「いえ、えっと……私も」
「はははは」
「ふふ」
釣られて笑い合うほど身体だけではなくお互いの心の距離は縮まっていた。
「じゃあ、今度こそシンザするか?」
「はいシンザ……よろしくおねがいします」
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色々と……後、。熱の冷め切らないベッド上の2人は身を寄り添いながら雑談をしていた。急速に仲良くなった父親と令月かほり。
「可黒くんの父親ではなくて違う世界からやって来たやまだえんじ……さん」
「あぁ、それが俺の本当の名前で本当のことだ。この身体は閉じ込められていた可黒美玲の父親の借り物なんだ」
「令月キミには知っていてほしい、騙していてわるい嫌われても仕方ないとおもう」
「そんなの……信じられない……」
「けど信じます……!」
ぎゅっと抱きついてきた。元気に。笑顔で。
「うおっと!? 嫌わない……のか?」
「今更そんなの……私にここまで散々シて、後からそんなの卑怯ですあなたは!」
「うっ……たしかに……すまない」
「それに、可黒くんの父親じゃなくて良かったです……スキになった人が同じクラスの友達の父親なんて出来の悪いドラマなので……!」
「ハハ、それはたしかに出来の悪い……でもッ!! 俺はもっと出来が悪いぞ」
バッ、と体勢は逆転した。ぱっと広がる艶髪。彼女を見下ろすプレイヤー山田燕慈。
「なんとなくそんな気がしていました、だってエンジさんしゃべり方も全然お父さんっぽくないから、むしろこど」
彼女は言い切る前に唇はふさがれ、急に襲ったそれを幸福の表情で受け入れた。
甘いじかんはつづき。満たされきった時には、何故かふと雑念が生まれてしまうものであり。
「あ、そういや」
「どうしたんですか?」
いちゃついていたふたり、父親はソレをふと思い出し、ふと思い出した途端にだいじな忘れ物をしてしまったかのように徐々に慌て出した。バラバラと広げた紙の海の中には。
1枚だけやけにクシャついた紙があった。
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分かった父さん 俺はもう大丈夫
王待っていてくださいすぐに向かいます!!
王? とどいてませんか?
こっちは順調だ父さん この紙の情報はすごく役に立っている あいつには好き勝手にやらせてないから安心してくれ バランス重視!
初めまして可黒美玲のお父様、べっしょ水産社長別所透の娘、別所透蘭と申します。古井戸に住んでいたのならべっしょ水産のちくわは当然聞いたことがおありでしょう? 私の事はさておき、お好きな食べ物はなんでして? ガッツリお肉系かしら1000食分は用意できましてよ。そこにいるのね令月かほりココアは足りてるかしら? 高級カカオ高めの元祖ココアはあなたの趣味ではないわよね? なんでも好きなものを言いなさい。髪櫛から象牙まで別所透蘭に不可能はないわ。あと私の神座したブーメと技について何か知っている事はあるかしら? ここには全く載っていなくてよ可黒美玲のお父様?
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そこで待っていろ零児
おい返事をしろさっさと全てを吐け
舐めているのか?
ふざけているのか貴様? それに何故私の技を知り私すら知り得ないその先まで知っている貴様 デジャブでもないそれ以上の非常に気持ちの悪い感覚だ可黒零児
さっさと返事をしろクズ
おたのしみか? ほぉ、覚悟はできているな
かぐろみれいのおとうさまサンさまは?
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ぼーっと眺めて字を追い、裏面に返す。うつ伏せの父親の背に乗り覗き込んだ令月かほりと。
「え、これ、古井戸のみんな……? エンジさん」
「……まじ……」
「届いてるううううううおおおお」
興奮し揺れ暴れる父親の背から跳ね退いたかほり、上体を起こした彼にぎゅっと抱きしめられた彼女。宝くじに高額当選でもしたかのような喜びようで彼女の細身と興奮を分かち合う。
「やべ、んなことよりすぐに手紙の返事だ令月!」
「ハイ! すごいみんなの手紙これ?」
「そうだ! なんだよそれ! ラヴあス完全版!!!!」
見つめ合った2人は、抱き合うのをやめてすぐに取り掛かった。
「ケイコ警部キレてるな、ハハ。それにさすが美玲! 立ち直ったのか、やってくれているな!! サムは、まぁあいつは意外としっかりしてるから大丈夫だろう」
「可黒くん元気そうで良かった」
「んと、え? 別所透蘭……なぜいる……ってふむふむ……ブーメ……ってブーメランだよな……ああァァァ! そういうことか! あのやけに手に入ったブーメランはコイツの武器だったか! って既に神座してる! どうなってんだ……」
「別所さん神座……私もまだなのに……」
「はは、こればかりは運良く武器を手にするかどうかだからな」
「……私もはやくシンザしたいですっ!」
「うおっ! ちょ密着するな、まずは色々返信しないと! こら、盛るな令月」
「盛る!? ……どうぶつみたいに私に盛ってた人に言われたくは────」
いちゃつき盛りながらもミジュクセカイの塔5202階から古井戸のサムの電子の荷へと2度目のメッセージは届けられていった。
交わったサダメの流れは加速していきラヴあスの登場人物各々がゲームクリアへと向けた一つの大きな目標へと向かい動き出す。




