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46⑦

時刻は午後5時、空は曇天、地に吹く町風はいつも通りの冷たさで。そこそこ立派な佇まいの可黒邸にて。またも、この男可黒美玲にとって厄介な客が無料の紅茶を啜りにやってきていた。



「つまりちゃんと報道はされていたと」


「あぁそういうことだ形を変えてだがな」


「それは」


「警察もそこまで馬鹿じゃないということだ」


「なぜそう? フツウにおかしく」


「一応の辻褄は合わせられて、混乱は起こさず世の中はフツウに動いていくある意味正常といえる」


「はぁ……?」


「マァ、実際にはもっとかもしれない神隠しあるいは他所の町からの客だったりしてな」


「マジですか……ヤバいな古井戸……ところでそんなのべらべらと俺にしゃべっていいんですか?」


「1人は寂しい」


「なんじゃそれ……え、俺そんなので巻き込まれてたの……?」


それはどんな意味の微笑みか、きっといい意味ではない。

紅茶を啜りながらケイコは彼の困り顔を見つめた。







「つまり最初の転落は本当の事故?」


「あぁそれも事故ではない可能性もあるが。それからは深夜にしか起こっていない。全くのオカルトだが……調べていて思ったのは古井戸でしか起こせない何かの縛りカラクリがあるのだろう。夜と死については想像がつくだろ」


「な、なるほど?」


「そしてヤツらは決まって夜に動く」


「そりゃ……昼に妖怪怪異なんて怖くないですからね」


「フフフ、そうだな、それは当たっていそうだ」


情報を垂れ流し、無理矢理に共有。

ケイコ警部は好きなだけ喋り紅茶をおかわりし可黒邸を後にした。







宴陣学園の通常授業も終わり放課後、いつものオカルト探偵部部室にて。部長と助手、一応の話し合いの場は設けられた。これからの部の活動内容について大きな動きがあったからだ。



「できれば怪異を捕まえろって言われてもなぁ……」

「相変わらず無理難題をおっしゃるだけだよあのお方K様は」


「パトロールだよミレー!」


「そりゃまぁ現実的ないい案だけど……なんか本格的にオカルト探偵部だなこりゃ」


「うんうん!」


「2人で手分け……つっても古井戸はなぜかクソ広いしな」


「じゃあ雇う!」


「はぁ? そんなカネ」


「かほりちゃんとトーランちゃん!」


しれっと言ってみせた知り合いの名に、美玲はあっけにとられた。


「はぁああ? おいおい一般人の令月さん、委員長? ……を巻き込むな」


「でも強いよかほりちゃん!」


「そりゃ強いけどまじかよ……いや巻き込むのはやっぱダメ」


「ええ!!」


「イヤイヤ……クラスメイトを妖怪バケモンとヤラせれるかよ。ってかトーランちゃんってなんだよお前! 委員長に殺されるぞ!」


「トーランちゃんでいいって言ってたよ?」


「まじかよ……」



美玲はふと、目に止まった膝の絆創膏を見つめる。

それは古井戸のヒーローの陰のがんばり。


「ていっ」


ぱちん、とそこそこの威力のデコピンがミニスカ気味の子春の膝を襲った。


「イタッ!!? え、なにミレー!?」


突然そんなことをされた子春は美玲を見つめクエスチョンマークを浮かべた。


「とにかくやめよーぜ。令月さんも委員長も怪我したらアレだろ。むしろッ、そうなっちまったらこの部の存在意義が問われる!! ぜ?」


ゆるりやれやれと言ってみせた美玲の仕草顔をまじまじと見つめる子春は、


「ふふ、そうだね!」


「お、おう」


反論することもなく元気良く微笑んだ彼女。

予想内だが予想以上のその屈託のない綺麗な笑みに────────。







臙脂色の学ランは苦く熱いコーヒーを時おり啜りながら。まったりとした時間は流れる。


ケイコ警部に渡された色々と書き込まれカスタマイズされた古井戸の地図は机上に広げられ。ぼーっとそれとなく見つめて思考は展開されていく。



にしてもパトロールか……地道に足で見回るにしても。実際は化けて出ている怪異を間引けって事なんだろうけど。


…………俺のオカルトは石……石を信じる? サン様?


サン様ならどうする……。やっぱり俺なんかじゃ無理か……美玲……。



見つめる左の手を閉じては開く。



「…………」


「ミレー?」



彼女の声を聞き、パッと覚めるように美玲は入り込んでしまっていた世界から脱した。



「あ、あぁ……そういや……! お前の携帯番号ってなんだっけ?」


「うーうん、もってないよ!」


「もってろよ! JKにして原始人か!」


「わかったミレー!」


「わかるな! きっとわかることじゃない!」



え、俺こいつにコミュ力負けてたの!? 嘘だろ可黒美玲!!!!




▼▼▼

▽▽▽




「おいお前」


「オイ!」


「何ですか」


「ナニフツウに来てんだよガキお前!」


「この辺本屋ないんで」

「てかまだクビになってないんすね」


「やかましいわ……ありえねぇ……」


時刻は午後7時過ぎ、早めの夕食を済ませ特にこれといいやることもなかった可黒美玲は古井戸にあるリサイクルショップドリームドリーマーに来ていた。


古びたレジ台に重ね並べられたのは数冊の本や雑誌。



「おい」


「何ですか」


「お前なんだよこの本」


「秋は読書、読書は秋でしょ」


「オルゴナイト宇宙エネルギー論Ⅱ、サンの日常写真日記、これのどこが本だよ、気持ち悪いな戻せ」


「関係ないでしょ」


「どうせコイツが目当てなんだろ」


「このサンっていかにもオタ」


「はあ? オルゴナイト舐めんなよ!!」


「あ!?」


「オルゴナイト、サン様はあんたとは違うんだよ!」


「お、おい待て落ち着け! こんなの嘘に決まって」


「嘘を言うな!」


「私も読んだけど書いてるやつもこの女と別人だって騙されんな! どうせおっさんが」


「あーあーーーー聞こえない聞こえてない何商品勝手に読んでんだよ!」


店内に響き渡る客と店員の口喧嘩、ヒートアップしつづけ終わりようもなくどちらも引くこともなく……。







頭に血が上っていたのか、いつの間にかやってきていた店の外上がり込んだ知らぬ部屋の中。

その女の言葉には何故か少し説得力があった、少し冷静になった頭は情報を受け入れ。


「+エネルギーなんて存在しない。だからなこれ全部嘘だ」


「…………」


「なんでこんなことを……」


「こう見えて占いオカルトの類いはちょっとかじっててな……もう足洗ったけど」


「本当にこれよくできてる。お前みたいなちょっと陰気なエロガキとかおっさんをこのサンって女で釣ってるだけなんだって」


「だからマジでこんなのにのめり込むな。嘘でもこの女目当てでオルゴナイトなんて買い出したら終わるぞお前」


「オルゴナイトは石……」


「石じゃねーよ、お前まだ洗脳解けてないな」







おかしな青年の洗脳を解く、そんなことに赤の他人であるはずの金髪の女は四苦八苦していた。


「オルゴナイトは石……」


「駄目だお前はもう助からない」


「オルゴナイトは石……」


またも起こってしまった金髪店員とお客様可黒美玲のバトル。その場では決着がつかず、ステージを変え、金髪店員の狭い家で可黒美玲はそのサンに対する狂信ぶりを諭されていたのであった。



「いやオカルトってあるんだって」


「ああ?」


「ほら」


美玲は石を取り出した。突然ぽっと右手のひらの上に現れた石は。タネも仕掛けも分からないすごく上手なマジックのようであった。


「……」


「ほら!」


サン様と自身の正しさを証明するために、出しては消す、幾度も金髪店員にソレを見せつけていく。


その光景に押し黙る金髪はついに。


ぐぐぐと溜めて、飛びかかった。


石を出したり消したり調子に乗っていた黒髪に。


「のわああおいやめろ!」


「うるさいガキ!」







「ほらほら全部だせ」


「も、もう出ないですって」

 

「おいお前これみてどう思う?」


「いやぁ……コンプしたいなぁと」


「情けないよなぁ!」


じゃらじゃらと出てくるカラフルの数々。数多のパワーストーンが畳の上に雑に置かれていく。







吐き出され並べられた石の数々を他所に、

まだまだ青年は女に事細かに諭されていた。


「つまりサン様の……ファンになれと?」


「そうだお前の石頭はもうマジで手遅れだ」


「あとサン様ってやめろ! 気色わりぃサンって呼べ」


「サン……」


「何も悪いことじゃないからな。パワーストーンもオルゴナイトも」


「実際にチカラになる場合もある」

「線引きだ」


「線引き……」


「お前はサン様を捨ててサンこの儚げなオタクが好きそうな顔だけの可愛い女アイドルのファンになるだけだ」


サンの日常写真日記。ぺたぺたと大きく印刷された写真とほどほどの文字数の一冊。店員とは違いよく手入れされた美しいホワイトブロンドの長髪にどこか落ち着いた湖のような瞳。


店員が雑にぱらぱらとめくっていくその写真の数々にはあまり笑顔のものがなかった。それがどこか逆に神秘的な魅力を醸し出している。




「…………嫉妬?」


「お前マジでぶちコロスぞ!」

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