47⑧
5階建アパートの3階、その一室。夜遅くの来客、物寂しい雰囲気の青いドアが開かれ。
「なんだあんた?」
「警察だが」
「んなわけあるかわぱっ」
「失礼する」
黒いスーツに白と紺のストライプのシャツ、謎の女がアパート住人のテリトリー内に強引に入り込んでいった。
「おいふざけんな!!」
不用意に開けてしまい顔面を押し退けられ不審者の侵入を許してしまった、くしゃった金髪は声を荒げる。
「未成年淫行」
「は!? は、はぁ……?」
「児童淫行罪は10年以下の懲役または300万円以下の罰金だ」
「いや! ちがッ」
▼
▽
並じゃない雰囲気の女警官に弱みを握られ……。
「なぜ狙った? はあ? 狙ってなんかねーよノリだよノリ」
「ノリ?」
「怪しいオルゴナイトに騙されてたガキを救っただけだろ」
「ほぉ……じゃあお前のこの怪しい本棚はなんだ」
金髪ヤンキーは顔に似合わずそこそこ大きな本棚を持っていた。しかし相手は友達ではなく警察、見られるという事は己の脳内、思想を曝け出すのと一緒だ。
「そ、それはーー……ほら! 元マトリがその手に詳しいのと一緒だ! ほら刑事さんもそういうのあるだろ?!」
「ふふふ、なるほどなるほど。回転だけはそれなりに早いようだな。だが残念だが違う、ヤツらは不気味なぐらい徹底教育されていて清廉だ」
「達筆、占星術、オカルト」
「詐欺師いや……占い師かな、いや詐欺師か」
黒い長髪の飴色の目、どこか一般人にないオーラを持ち圧のある鋭い瞳に睨まれた家主は冷や汗をかくしかなかった。
そして腹から絞り出すように声の震えをどうにか抑え発した。
「そそーだ! ビールありますよ飲みましょう刑事のお姉さんさん?」
ぎろり。笑いもしないただただ睨まれ慌てた瞳を覗かれ。
「いただこう」
「は!? は、ハイただいまァァ!!」
味のある木のローテーブルで、酒のつまみとカード占い。なんとも言えない真剣さ神聖さをかく占いが行われていた。
素顔を晒した占い師ドリー見は、なすがままケイコ警部のご機嫌を取るために意味のわからない命令に喜んで従っていた。
「け、結果が出ましたぜお姉様」
「ふぅ……。おぉそうか聞かせろ。このきんぴら旨いな」
机上に丁寧に並べられた。商人のカード、剣のカード、悪魔のカード。
「それはどうも…………これは英雄の物語ですね」
「ふっ、つまらん」
「いやいや姐さん……サダメ舐めないでください」
「フッ、いいだろう。でもなぜ商人と武器そして悪魔で英雄になる?」
「焦らないで焦らせないでくださいね」
「焦って考えたのか?」
「ち、チゲぇ……違いますよ。全部サダメの流れなんで、降りてくるんで」
「フフフふ、早くしろ黒柳」
「ドリー見です……」
「まず分かりやすいのは武器と悪魔ですね」
「武器で悪魔を倒す実にシンプルだな」
「そうです。つまりサダメの中心となるのは武器」
「ふむ、警察なら警棒や拳銃、体術も武器と言えるな。つまりこの目の前の悪魔を捕まえればいいんだな」
「あのあんまり口挟まないでください……。あと脅すのも……だるいんで……」
「分かった1分黙る」
「……警棒、銃、体術たしかに武器と言えます。しかしそれは警官というステータスに過ぎません」
「ステータスだと?」
「それじゃあお聞きします、あなたは武器とは何か説明できますか?」
「……分かった。説明してやろう」
「痛いいたいいちいいいいいい」
▼
▽
「あの姐さんマジでそういうのいらないんで」
「そうか? 必要になったらまた言え黒柳」
意味不明な暴力にヤラれた肩と首を回し人体におかしいところは出ていないかを確認していく黒柳。
「またも何も言ってませんし一生必要になることもないでしょう……」
「武器とは武器ですつまり武器です」
「必要になったようだな」
「いやいや! だからですね武器は武器。警棒も拳銃も剣も盾もお玉も鍋も」
「ここまでよろしいでしょうか?」
「ステータスと言っていたがそれは取り消さなくていいのか黒柳。私は多少のアラは寛容な方だぞ」
「大丈夫です姐さんサダメ舐めないでください。降りて来てるんで」
「さっきも言ったように武器は様々剣や槍、斧、メリケンサック金属バットいちいち例に挙げるのがバカらしいくらい存在します」
「いいだろう」
「ふぅ……。それでステータスこれはですね。警察なら警棒拳銃柔術、剣士なら刀や剣、騎士なら槍やハルバード。とある程度の枠、たくさんの人物歴史により成されたサダメがあるのです」
「……いいだろう続けてみせろ」
「は、ハイ……!!」
「ですからこれは本来の武器とは言えずステータスと言うことも出来るというわけです」
「で、ですね。これでも納得はいかないと思われてるとおもいます」
「そうだな。商人のカードはどうした、今なら許してやるぞ黒柳」
「……商人これも厳密には商人ではありません」
「武器商人、戦争商人か? あるいは国?」
「姐さんフツウはそう考えますよね。でもそうとも言えますがそうとも言えないのです」
「詐欺師の常套句のようだが黒柳」
「……サダメの流れとは無数に存在するものなのです」
「フフフそうかそうか」
「まずこの平和な時代に戦争なんて起こりっこありません。あ、もちろん日本という枠の話です。よって国や戦争商人はなし」
「そうだな」
「追加の武器も必要ではありません、姐さんは警官なんですから」
「……ふむ」
「じゃあなぜこの商人のようなものが存在するかというと」
「悪魔がいるからだろうな」
「そ、そうです。流石です姐さん!」
「悪魔つまり眼に見えない悪魔の存在が商人が存在する理由なのです」
「これをヤル。遠慮はいらん真実だけでいい続けろ」
「ええっと……はい!」
ケイコの手から乱雑に、くしゃっとしたユキイチを一枚なぜかいただくことになり黒柳は若干の戸惑いを抱きつつも占いを続行していく。
「平和な日本では私たちの生きている間は戦争は起きないこれは当然です、ですが悪魔は存在しない。これは誤りです」
「悪魔とは悪、つまり誰かの悪意。これはいつの世も存在します」
「平和な日本国、そこにあるものは果たして善だけでしょうか? 刑事の姐さん?」
「フフ、違うな。平和の対は犯罪者とシャブとカネと災害と革命と狂人と、性欲と窓際だ」
「そ、そうなのです! 平和の対は人と環境様々なサダメの流れ、この世の全てが相手とも言えましょう」
「つまり悪意、悪、悪魔!! を討たない限り個人、いや個人を巻き込むサダメ、真の平和には辿り着けないということなのです」
長々と流れに乗り発していったドリー見。熱を込めて占っていたが、ドヤ顔で締めくくりはせずこの場の支配者をうかがうような目で。
見据える警察官は口角を上げ目も笑っている、ドリー見の占いは好感触だったようだ。
「フフフ、いいだろう合格だ黒柳ドリー見」
「ありがとうございます姐さん! って……合格とかじゃなくてこれサダメなんで……まじ舐めてます?」
「舐めてはいないが、そうだな。詰めが甘いな」
「……とおっしゃいますと」
「悪魔が存在するから商人が存在する。私なら先ず真っ先に商人をとっ捕まえに行く」
「なるほどその事でしたか……姐さんサダメ舐めてますねマジ? いやほんとそこも降りてますんで降りまくっていわぷっ」
「地味にイラつくな」
調子に乗りすぎたようだ、ドリー見の迂闊な発言によりケイコ警部の少しキツめの声色が発されてしまった。
「……ごほんッ! それでは説明させていただきます」
「説明でも占いでも説法でもかまわん話せ」
「……じゃあ簡潔に……。悪魔が悪意だとすると商人は……善、善意です」
「なんだと?」
「あ、違いますよ悪意です」
「そうか」
はぁー、と吐息を吹きかけ拳をあたため始めた。
暴力を振りかざす準備にびくりと占い師は怯え、
「イヤイヤ!? 待って姐さん!」
「分かった40秒待とう」
「さっきより短く!?」
「数えてみろ40は意外と長い。いーちにーさー」
「ちょ!?」
「つまり、ツマリ!!! ……善とも悪とも言えるのです!」
「またそれか。にじゅーさんにじゅ」
「で、デスから!! 悪も善も誰もはかることはできないのです、サダメでありサダメの外の存在なのです!!」
「外だと?」
「この商人のカードをよぉく見てみてください! 細部まで」
「太陽の下……影か」
「流石です刑事さ」
「下手に褒めるな、イラつく」
うげ、クールそうで意外と気が短いなこの人……。
「簡単に言うと……この影なし商人は特殊で人であり人の枠ではないのです。これは前に言ったステータスとも似ています。歴史を重ね出来上がったこのカードの商人というステータスこれを人が討つことはできません」
「正確には長い歴史、民が悪徳商人を討つなんて創作話もあります、実際はそういった悪代官はお上に罷免されたり厳しく取り締まられていますよね?」
「ですが! 今回のカードは商人、武器、悪魔このサダメの流れになっています」
「商人が武器を流すのは悪魔を討つためつまり善意です」
「騎士のカードが武器を取り悪魔を倒す、これが英雄の物語ですが」
「これは単純な英雄の物語ではありません。隠された悪意つまり善意ほど厄介なモノはないということです」
「……人が生まれ歳をとり人が死ぬ、月を見上げ太陽を見上げる、つまりこれと同じことなのです!!! この影のない商人のカードは姐さんとはサダメのウツワが違うということです!!! あっ……」
「…………なるほどよく分かった……」
「え!? そうですか、それはよか」
「だがやはり詰めが甘いな。黒柳ドリー見。私は一般人、民じゃなくて警察官だぞ。その気になれば正義感を振り絞り影のない商人に向かって行くことが出来る」
「……辞めておいた方がいいでしょう。善意も悪意も用意された舞台の上が一番輝けるものなのです」
「そうか、だが商人が武器を悪魔に流していたらどうする!」
ケイコ警部は急に圧を強めドリー見を見つめる、占いに駆け引きを持ち込むのは刑事としての遊び心なのだろうか。
やべぇ! なんでこんなに食い下がってくんだよたかが占いに馬鹿かコイツ…………これに対するアンサーは、もう決まってる。
「占い……これでも私はそこそこの人数を占って来ました。そして私はある日気付きを得ました。私は占いとはその人のサダメ、良い目を教えなければならないと思っています。悪い目が出た時には希望を良い目が出た時にこそすこし冷静な目をもって」
たしかにあの日から私は変わったのだろう。アイツらとも交流は……フェイドアウトって感じだしな、下っ端だし。ってまぁ……本音を少し混じえた方がそれっぽくなるもんだ。
何かが決定されて決壊した、カードの一枚を手にし一介の警察官は高笑う。
「フフフははは! わかったわかったははは。ならそうしよう」
「え!?」
「武器はどこにある黒柳」
細い美しい指の間に挟まれ。
くるり、裏返されて表を見せた武器のカード。




