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手応えはあったがまだ油断はできない。
地に舞い降り、その花火に向け白蜜を構え直す。生存していた場合のターゲットに対し追撃をする準備を整えた。
その熱量は徐々におさまり、爆炎の中うごめく影が。
「デ、出ろオオオ!! ルナティックデス人形・二日月」
月のオカマのガーネットのサークレットが妖しい紅い光を放つ。
地に突き刺さった一筋の紅い光。
そしてティックは召喚される。
ドスリ、鈍い音を響かせ。
その六脚、長く細い腰と腕、黒紫のボディカラーの威圧感。のっぺらぼうのシンプルな頭部。
見上げるほどの巨大な人形が月面に降り立った。
「おいおいマジかよ……聞いてねぇぞ」
猛攻で圧倒していた中突然訪れた異常事態、追撃を行うのが躊躇われるほどの、父親の目に聳え立つ黒紫色の異様な敵。
なんだこりゃ……!
「あーン……ゴクリ」
ソイツの肩に乗った月のオカマはどこからか取り出した金平糖を飲み込み貪る。悠々と安地から体力を回復することに成功した。
「ハァハァ……フゥー。……酷いゾ渋メンティッカー!! これ程のチカラを隠し騙し討ちナンテ小癪な渋い知恵ヲ!!」
「オマエだろ月オカマ! 降りて来やがれ!」
「クウフフ、断るわ。カグヤに華々しく披露するつもりだったが仕方アルマイ」
「実験開始だ渋メンティッカー! アナタのその実力私以上よ。認めてアゲルワ」
「認めたなら負けを認めて帰れよ全くもって訳わかんねえぞ月オカマ!」
「クウフフ、月面ニテちょうどいい予行演習よ。ちゃんとサラチにして帰るから安心するがイイ」
どうもこいつは俺の知らないオカマだな。こんなデカブツあのゲームのオカマたちは使ってこなかったぞ。くっそ、知らないオカマ程怖いものはないぞ!
「渋メンくん助けがいるかしら」
落ち着いた女性の声が背から聞こえてきた。
いつの間にか父親の近くに現れた白い魔女。
「どういうつもりかは知らないがもちろんイエスだ! 冗談キツイぜこのデカブツ」
「うふふ、このまま私の大事なティックちゃんたちがぺしゃんこにされたらかなしいもの」
白い魔女はさっそく左手を上空にいるヤツに向けてかざした。
「ヨイザ取り引きは終わりよオールスリッパー」
唱えられた強力な眠りを誘う呪文、その反則まがいの技で巨大ティックの主人を狙いカタをつけるつもりだ。
月のオカマの身体の周りに青い何かがキラキラと輝きながら霧散した。
「クウフフふふ、【宝魔改造】。魔女、取り引き相手は貴様だけではないのだよ」
「私にとってはカグヤも魔女もただの置物に過ぎん! 成り代わってヤろうと言うのだよ、この私ガ!!」
深緑色のローブの腕をまくり上げ、見せつけた鈍いエメラルド色の石が埋め込まれた左腕。
【宝魔改造】
あらゆる魔法を吸収し分解する希少で強力な反魔石を身体に取り付けた人体改造術だ。自らが行使する分の魔法には影響はない。戦闘においてメリットしかないが攻撃魔法に関してはその威力を完全に吸収し防ぎ切ることはできない。
「想像いじょうの行動力ねこれは困ったわね……」
「おいただのオカマが冗談つづきを! いらない情報をベラベラとサァ! 盛り過ぎだろ」
思い通りにいき高笑いをしたヤツは、素の表情に戻り再び口角を上げニヤリと不敵に微笑む。そして両手を目一杯広げ高らかに発した。
「ルナティック・シンザ!」
月のオカマ、ヨイザの存在は霞むように消えルナティックデス人形・二日月へとその器を乗り換えた。
「そりゃねぇだろ……無茶苦茶だなエピソード0オカマ」
予想外の連続月オカマのパワーアップイベントの連続に、
ガチャリ、月の地を踏み締め白蜜を握る手にチカラが入る。
「クはははは! ここまでの舞台逃げてくれルナよ魔女、渋メンティッカー!」
拡散されるように月面に響き渡るそのデカブツの音量。
見上げるほどのド迫力の光景に対峙したプレイヤーは、ワラう。
「それが本性か! ハハ逃げるかよ、これゲームだろ!!」
「相性さいあくワタシは逃げたいところね」
「お客様だろ、ちゃんと納得させて還らせろ」
「うふふ、ブランクがこわいわね」
ニセモノの月面にて、戦いは熾烈さを増す。今宵の月は誰のモノなのか? 最終決戦ゲッカ、ドウ、ドウ!!!
▼
▽
「クははは、これぞまさしく実験だ。そう簡単に潰れてくれルナヨ」
ルナティックデス人形・二日月の胸に空いた7つの穴からその攻撃は連続発射された。
ふにゃふにゃと蛇行しながら白い光のビームミサイルが父親パーティーと魔女を襲う。
「こういうのは前に突破だエロいゲーム!」
父親に対し収束するように追尾してきたミサイルを、
全力で前方に疾走し見えたその安全な空間に転がるように飛び込んだ。
父親を捕捉できなかった光のミサイルは月面に着弾し眩い白い爆発を起こす。
「っし、オーケーだ! って! 無事か!?」
父親は背後を振り返り見えた、緑の膜が張り付いたようにその全身を光らせる石の板。背に控える女神石像を守り敵のミサイルを耐え凌いでみせた。
さっそく活躍してくれてるなぁ、ありがたいぜ!
「オーケーさすがの防御成長率だ。無理せず回復アイテムはガンガン使えよ」
石の板はその場で宙返りしながらパイナップルパイナップル天然水を使用し失った体力を回復した。
「作戦の更新だ。ぜんいん【全力】。引き続きカードは女神石像を守れ」
作戦に頷き了承した父親パーティーのメンバーたち。
「で、このモンスターはなんだよ!」
「知らないわ。おわったら図鑑に登録すべきね」
またいつの間にか父親の近場に現れた白い魔女。
どうにかして敵のミサイル攻撃をやり過ごしていたようだ。
「おい、月オカマ俺はお前の商品だぞ!」
「クウフフ、そのビジュアル渋さ強さ希少さ、愛玩具として申し分ないわ。でェも、マコトにザンネンだけど危険因子、障害は取り除かせてもらああああウ!! ……運命とはこうも残酷ね、私の君臨する新たな世界の礎になることよ」
「随分と考え方が小者だな! 地球式の土下座でもしようか!?」
「クウフフ、アラ評価しているノヨ、手懐けるより今ここで消した方が得るモノが多いというその商品価値ヲ」
「べらべらと妬けるわね。ぼるとアロー」
いつの間にやら構築し完成させていた青紫色の魔法陣。
そこから発動されたどデカい青紫色の雷の荒い矢が巨大なティックに対し放たれた。
荒々しい雷は巨体の胸部にぶつかり激しい轟音と眩い光を上げた。
「クははは魔女、私のルナティックデス人形・二日月にその程度の魔法など月面に転がる石ころにすぎん」
黒紫色のボディはその魔女の雷の矢の熱量により煙を上げているだけで大したダメージにはなっていなかったようだ。
これが魔女の魔法か、見れてうれしいがオカマがバグってやがるな!
「魔法が石ころ。そりゃラヴあスプレイヤーとしては同意だが」
「……ひどいわね」
「ハハ、とにかく魔法がダメならこいつで斬り刻めばいいだけだ。フェアだろ」
白蜜をビュッと地に払い、準備運動。やる気は満々だ。
「貸すわ」
魔女の星色の瞳から紅い一筋の光が月面に流れ落ち、紅い烏が召喚された。
【紅い烏】
烏だ。大きい。賢い。空を飛べる。一般的な種は黒い色であり紅い色の烏は非常に珍しい価値のあるモンスターだ。
「その子の背に乗せてもらいなさい」
「メガミちゃんと一緒にこっちはなんとか上手くやるわ」
「おう、ほんとうか助かる!」
「はじめましてよろしく頼む」
「ガァーーっ」
低い鳴き声を発し頭を下げた礼儀正しいその生物。敵対心はないようだ、よく人に懐いている。
さっそく父親はその巨大な鳥の紅い背に軽くしがみつくように乗り込んだ。
「ルベルの高そうなモンスターだな」
「ふふ、その子はワタシのお気に入りよ安心するといいわ」
「そうかそれは助かる! ……アレ? そういや他には召喚しないのか? モンスタートレーダーだろ他にもこれほどのモンスターがいれば心強いが」
その発言をうけ、一瞬の間ノーマルな表情で固まった彼女。
枯れ草色の美しい髪をふぁさりと優雅にかき上げながら。
「……そうね、そういえばワタシ星の森でよく忘れ物をして先生に怒られていたわね」
▼
▽
月面上の黒い宙を舞う紅い烏。それを追いかける白い光。
「爆王斬!!」
追尾して来た光のミサイルは巨大な炎球に呑まれ次々と誘爆しその威力の跡を宙に散らしていった。
「ガぁーーっっっ!!」
「あ、しまったァァァ!? ごめんまじごめん!!」
父親は慌ててパイナップルパイナップル天然水を電子の荷から取り出して紅い烏の尖った嘴に差し向けた。
賢い烏は瞬時にその行動を理解しソレをゴクゴクと飲み干して失った体力を回復した。
「おいクソゲー、爆王斬使えないじゃねぇか!」
「なんでだよ! 味方でいいじゃねぇか変なところで厳しいエロいゲームだな」
「だから言ったろ完全版はパーティー機能の整備をしとけって狩野サハラ!! 他人のペットを勝手にドークスするわけにはいかないし……ナッ! 爆炎斬!!」
黒い宙にタイミング良く斬り迎撃された白い光の爆発が咲き乱れる。
「チョロチョロとオオオ!!」
「空中戦は想定していなかったようだな月オカマ! 実験失敗だろ」
「舐めルナヨ!!」
「ルナティックブレードⅦ」
手首から上のない丸太のような右腕から長く白い光のビームソードが現れた。
ソレはゆっくりと薙ぎ払われる、剣というよりは大出力のレーザービームが宙を舞い飛ぶ父親と紅い烏に狙いを定めた。
「ふざけんなァァそれのどこがブレードだ!」
いや、──このデカブツおもったよりスピードはないな……ナラ、いけるか。
「……よしここまでだカラスくん主人の元へ帰れ」
そう言いここまで運んでくれたその背の滑らかな毛をさりさりと撫で。
父親は紅い烏を踏み台にし跳躍した。
宙で上下に分離した父親と紅い烏。
すぐさま、その間を眩すぎる白い光の熱量が駆け抜ける。
ルナティックソードⅦの圧倒的な威力の斬撃が空を切り裂いた。
「【爆回斬】【爆炎斬】!!」
ジャンプ+バカキャン。爆回斬の推進力を得て前方に加速していく。
そして、黒いスーツは狙い通りに着地した。そのデカブツの長い黒紫色の右腕の上に。
「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆王斬】!!」
地に叩きつけるようキメられた炎の斬撃のコンボが巨人の右腕にダメージを与えていった。
「またもシブトイ渋さヲおおお」
「ハハこれぐらい通常運転だろ! ぐぴり爆炎斬!!」
父親は右腕を駆け抜けて行きながら斬撃を叩き込んでいく。
「ハハハハトロすぎるぞデカブツ、設計ミスかい!?」
「ええい、迎え撃てシャドウティック!!」
ぬるりと右腕の上に突如現れた数多のティックたち。【影の粘液】【影の人形】の部隊が暴れ回っている父親を迎え撃つ。
「おいおい戦艦かよ!? ラスボスっぽい演出はまだ早い……だろ!」
迫り来る影の集団。
上段にがっしり構えた白蜜。
紅いオーラは解き放たれた。
「斬波爆王斬!!!!」
右腕を沿うように斬り裂いていく炎の斬撃エネルギー。その軌跡は無数の小爆発を起こしながらその威力を余すことなく発揮する。
「コ、この熱量ぐおおおおおお──」
右腕の通路にいた影の集団は全滅しルナティックデス人形・二日月に大ダメージを与えた父親最大の技。
あまりの光景、そのイチゲキの爽快感に奏でられたヘタな口笛。
「ひゅーっ」
「っし、まだまだイクぞ! ラヴして恋して月面戦争だ! エロいゲーム」
黒スーツは勢いにまかせ一気に右腕の橋を駆け抜けていった。
そして辿り着いた巨人の頸。
「知っているかい、エロいゲームのデカブツはァガバいんだよォォ!!」
巨大なターゲットに向けて振り下ろされた白蜜。炎の斬撃コンボがその太い首を焼いていく。
異物に対し群がって来た影のティックたち。覆いかぶさり団子のように揉みくちゃに密集していく。
「爆王斬!!」
巨大な炎球が影の軍団を燃やし滅し、黒スーツの荒ぶる炎は止まらない。
「おのレええええ! 降りて来い渋メンティッカーァァッッ!!」
「ハハハハ設計からやり直せ、あらよっと爆炎斬!!」
「月面土下座しても逃げてやらねぇぞ月オカマ!」
一方的な攻撃が続く。影のティックの迎撃システムは父親の炎に呑まれ機能せずただただダメージが加速していく。
「クははは認めよう! ルナティックデス人形・二日月は未完成であると」
「そりゃどうも爆王斬!!」
「データはソおおおク反映させてもらああああウ!! さぁ行け、ルナティックデス人形・三日月!!!」
「ハハハ、は!?」
「ヘソノヲ!!」
巨人の背面、肩から青い触手がウネウネと伸び。頸の安地で好き放題暴れ回っていた黒スーツをはたき落とそうと迎撃し始めた。
突如光り蠢く青に、
「うおおおおガバくねえええ」
必死の回避行動と技による相殺を試みるが数多の青い光の触手は手に負えず。
「ヤッテられっか、トウっ!!」
あの拘束攻撃をもらってはたまらない、巨人の首辺りから飛び降り触手攻撃をやり過ごした。
「本当になんでもありだなこのオカマは……今度は脚からチマチマ攻めてやるか?」
胸部の7つの穴は白い粒子を発し、ビームミサイルが発射された。
降下して来た黒スーツの背をドンピシャで捉える。
「しまっ!?」
振り返るがもう遅い。直撃した白いビームミサイルは背で爆発し、宙にその眩い光の花火を咲かせた。
「しぬッしぬうううううう!!」
その爆撃の威力により後方へと弾き飛ばされてしまった父親は、月面に小石が跳ねるようにぶつかりながら。
ずってん──やがて止まり、
後陣のパーティーの元へと戻るカタチになってしまった。
「ずいぶん派手にやってるわね」
「──痛ててて。……あぁそうだが」
「ぐぴぴ……ぷはァって援護は?」
「メガミちゃんと一緒にやってたけど効果ないもの、焼石に水ね」
「そうか……ってこれは!?」
「ブーメよ」
銀色のブーメランのような形状のものが宙にたくさん浮かんで白い魔女の周りに待機している。
なんだこれブーメラン魔法か……。
「ブーメラン……なぜに」
「ブーメよ。魔法が効かないなら魔法で刃をつくるしかないでしょ」
「妹とむかしよくこれで遊んだわ」
「はぁ、お姉さんの過去はよく分からないが後にしよう。聞いてくれっ、アイツやばいぞ!」
「ところであのすごい炎はまだ撃てるのかしら?」
「え? んと……イケるな!」
「なら決まりね」
彼女は右手を彼に向けかざした。
そしてキラキラとした星色のオーラが彼の身体を纏った。
「なんだこれ」
「呪いよ」
「は!? 呪い!? ふざけ」
「うふふ、契約よワタシの今日のまりょくが全部なくなっちゃうかわりに悪戯好きの妖精を介して一度だけチカラを貸し出せるわ」
「な、なるほど……?」
「それに時間もかけてられないみたいよ」
「そうだアイツがしん……!」
緑色に仄かに光り出したルナティックデス人形・三日月。黒スーツの奇襲によりボロボロにされた黒紫色のボディの傷を徐々に回復していく。
「あのオカマまじでエロいゲームぶっ壊す気か……」
「とにかくこれでヤれなきゃ撤退も視野に入れないとな」
「そうね残念だけどヨイザは想像いじょうよ、ワタシの忘れ物があっても逃げたいわね」
──魔女ですら逃げたいか。しかしあのオカマの発言内容からするとどうもおかしなことになってんだよなニシ亡、狩野サハラさんよ。まぁ、地球のカグヤそして月で起こる事……ある程度の推測はできるが。
そしてさっきから俺の視界に見えているこいつは……。
女神石像は巨大なみずいろの魔法陣を構築し終え待機している。彼女の頭上には∀の文字が浮かび上がっている。
フッ、どうやらヤル気満々のようだな。
「アクアバイバイか……ちょうどいい」
「出鱈目に進化するコイツを放置したらエロいゲームがひとつ終わりそうだ、最後のアタック試してみるか!」
彼と顔を見合わせた、白い魔女は微笑み、紅い烏は礼儀正しく頭をさげ、石の板は宙返りをしてみせた。そして準備万端の女神石像はうんうんと元気な石の顔で頷いた。




