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18/89

18②

放課後。窓から見える曇天は、独りでコーヒーを1杯飲みたい気分になる。机の上にあるこの小さなバスケットに放り込まれたバラエティー豊かなチョコの包みはそのためにあるのだろう。


これは投げやすそうだな。こいつもいいな。ちがうちがう馬鹿学者め、色より形と重さが大事なんだ! 色とか模様なんて何の意味もないの。


「珍妙石ころ大図鑑」


「え」


「なにそれ」


「あー、えっとちょっとした俺の趣味で」


「ふーん」


ここは新校舎1階の小さな空間、どうやってかしらないが子春が手に入れたオカルト探偵部の部室だ。元は武術部の物置だったらしい。まぁあいつには俺のいないところで謎のコミュ力があるからそれだろう。


「それであのー……部長は今るす」


「オカルト探偵部ってなに」


「あ、ははは……なんでしょうね?」

「いやほらあの、世の不思議怪奇現象を集めて」


「集めて?」


「か、解決しますよと」


子春は今、女子相撲部の第13回世界アマチュア女子相撲団体選手権大会の助っ人でいない。運動部が盛んなこの宴陣学園でも女子相撲部は人気がなく人数的に厳しいそうだ。どうやらそういうマニアックな部もそこそこあるらしいな……。


あの元気な子春がいない、どうせだれも来やしないから優雅に読書&ティータイムをと思ったが……。


「ふーん」

「たとえば?」


黒髪とちょいと短めの前髪、発する声はクールかわいい。この世の男子が密かに想いを寄せる美少女が彼の前に学習机を挟み少しはなれて辺りをそわそわと確認するよう見渡し立っている。


「えっと夜中に変な声が聞こえたー眠れなーいとか、だれかさんが神隠しにあったとか、大事な飼い犬がいなくなってたーとか……」


「……ふーん」

「じゃあこれも、たとえばだけど」


「お、おう」


「時々深夜になるとおかしいのよ」


「1時ぐらいイヤなカエルの鳴き声みたいな」


「あぁなるほど……わかった」


「え?」


右手でもった左の肘、左手をかわいく顔に近づけたミステリーな仕草の彼女は、彼の一言に驚いた表情だ。

あまりにもあっさりと返答がかえってきた。


「とりあえず近寄らないでね令月(れいつき)さん」


「え、えぇ。わかるの?」


「わかるというか、勘で」


「勘……」


「ま、まぁとにかく近づかない方がいいよ」


「そうね……警察」


「それはやめたほうがいい」


警察その言葉が出てすぐ手のひらをばんっと見せ彼女に待ったをかけた。


「どうして?」


「いや警察も幽霊なんて逮捕できないからさ」


「…………」


静寂。

腕を組み、座っている彼をじっと見る真顔のクールな彼女。


「ほら、幽霊相手なら警察よりもオカルト探偵部におまかせ! なんて……」


俺は何を言っているんだ……でもフツウの警察を呼ばれるのは後々めんどくさい事になるから困るんだよね。結局俺は……これが。



てぃん。



白い電気ケトルの赤いボタンランプが消えボタンが自動でオフに切り替わった。


ぼー、という小さな空間に継続的に流れていた音は止み。


お湯が沸いた。


プラグを差し込むコンセントの近くに置かれた学習机の上のケトル。

スティックタイプのコーヒーや紅茶のティーバッグは引き出しの中のビニール袋に雑に詰め込まれていた。


この男にとってオカルト探偵部は本当の隠れ家的な喫茶店なのだ。


その音に耳をぴくりと彼女は反応し動き出した。


「私が淹れるわ可黒くん、コーヒー紅茶? ココアもあるわね」


「おまかせで……お願いします!」



冷えていた来客用の白いカップと青いマイカップに沸いたばかりのお湯は、注がれた。







深夜1時7分。さんかく公園にて。


上下黒のジャージを着た男は公園の端の散策園路に並び生えているそこそこ大きなイチョウの樹の集まるエリアの前へと来ていた。


この世にオカルト的な超常的な何かってあると思う?


答えは、ある、だ。


ある偉い方に納得できるよう教えてもらったのだが、夜と死ってのはどうもゲートを開くらしい。いけないゲートを。


だから小まめに間引いてやらないといけない。それがフツウのことさ。



ブじいいィィギゴおおォォ────。



突如、耳を突き抜けた得体の知れない重なり合う低音。



「令月さんの言っていた鳴き声の正体はそのまんまクソデカい蛙でしたと」


樹の下には存在が(かす)んだ緑色の巨大な蛙が、幽霊が、複数匹たむろしていた。

被害が出る前にぼやけているこいつらを倒すには。わざとこっちの世界に来させるんだが。


「3体……」


横目で白いジャージの彼女と頷きあい合図を送る。

視界は良好、まずは手持つ先制攻撃。

怪異とたたかうのに必要なものそれは、


A:金属バット


B:十字架


C:勇気


答えは────


いつの間にやら手に握り持っていたグレーの塊を勢いよく腕を回し、投げた。

連続して投げ放たれた石は真っ直ぐに飛び霞んだ存在に見事命中した。

その存在はハッキリと解像度が上がったかのように緑の蛙の姿を具現させた。


S:ただの石ころだ。


石を投げる。なんと石なんです、その辺に落ちている石が1番効く。俺の調べでは。


意識の外の一撃をもらった2匹の巨大な緑蛙たちはその攻撃元へと、ターゲットを決め駆けていく。


吸い込まれる──2匹引きつけた。


これで俺の仕事は、


「完了だろ! 子春!」


小さな木の柵を飛び越え、散策園路のエリアへと入った子春は取り残されていた獲物を見つけた。


そして勢いよく跳び、青い矢のように。

ぼーっとしていた1体のカエルは小春の青いオーラを纏ったスニーカーのドロップキックがクリーンヒットしぶっ飛ばされ光の粒へと還った。


万が一、逃がしちまったら他に被害が出る。でもなんで俺が。


「2体なんだよ」


またいつの間にやらその右手には手ごろな石が補充されていた。

なぜか石をどこからか取り出せる……。これが俺の便利なオカルトらしい。


「うおおおお!」


取り出し補充して後方に撤退しつつ連続で投げ放たれた石は少し前に出ていた蛙に狙いをつけた。

迫り来る石の弾丸をものともせず突っ込んで来ていた蛙はついにその足を止めて大きく首を仰け反り白い腹を見せた。


怯んでいる! やはり石だ! 石を信じろ!


美玲はガッツポーズを決め、背を見せ遊具広場の方へと撤退していく。


が、変に静かだ。


追手の足音が聞こえない。

背をチラリと振り向き覗くと。


飛び跳ねた蛙の影が美玲に迫り今まさに襲い掛かって来ている。


「うおおおお!?」


ここで取り出すのは!!


A:鍋のふた


B:殺虫剤


C:手裏剣



「最強の盾だ!」


半身になり身を縮め斜め上に構えた銀色の鍋のふたが宙から伸びるように振り下ろされた蛙モンスターの左手ストレートを防ぐ。

その反動で美玲の身体は後ろに砂を引きながらずり下がった。

ビリリ、衝撃が盾越しに伝う。


「ッッ!! っと成はぁ功……!!」


ご自慢の左ストレートをかまし地から程よい高さに浮かび上がっていた巨大な蛙に、

突如、白いジャージが右の腹から肉薄して来た。

拳に溜められていた青い荒いオーラ、子春の無茶苦茶なモーションの元気な右ストレートが巨大な緑蛙のボディへと決まった。


砂地に砂塵を上げながら彼方へと吹き飛ばされた蛙はその強烈な威力の跡だけを残して光の粒へと還っていった。


3体……どうやら俺が怯ませたもう一体も既に子春に滅されていたようだ。


「ミレーー!! おつかれ!!」


「はぁはぁ……あぁ、毎回はぁ思うけど……俺いらないだろこれ」


派手に舞い上がった砂塵は少し収まり、目に映っている公園は少し砂地の整備が必要な状態だ。


「そんなことないってえ、タイマンの方が頭が空っぽでやりやすいし!」


「俺は囮かよ……実際そうだが」


美玲は目線を下げ怪異の左ストレートを貰いボコッとへこんだ鍋のふたを確認するように見た。盾として機能するように自作の取手をつけて持ちやすいように改造してある。


またリサイクルショップで鍋を買いに行かないとな。鍋のふたが俺の命を握っているんだから。


子春のつよさ……。子春が言うにはシンザと唱えると体にチカラが湧いてくるらしい。それにある日ケイコさんが子春について教えてくれた、(ハク)と呼ばれる神をその身に宿しているらしいが。こいつのデタラメな強さの秘密だと説明された。


「近所迷惑だ、警察を呼ばれる前に早いとこ帰ろう子春」


そう俺は、オカルト探偵部部長虎白子春の助手、可黒美玲。古井戸をちょっこし守るヒーローの助手だ。


オカルト……この古井戸(ふるいど)(ちょう)は実際おかしなことがたまに起こる。フツウに気味が悪い町なんだ。


「ごめんちょっと用事を思い出した先に帰れ、子春」


「え、なんで? コンビニでアイス食べよーよ」


「俺は、外した石拾ってくるから。俺のも選んどいてくれ」


「わかったミレー! じゃサクラ味で」


「あぁそれ……おい待て! サクラとかシソとかラム酒とかミント系とかはやめろ! あと変に和テイストの味の保証されてないやつも!」


「冗談だよっ! ふつうのバニラね!」


「おうたのんだ……」


子春は背をみせこちらに右手を振り、砂場を元気良く駆けてさんかく公園を去って行った。


子春に冗談をかまされるとは……。


「オカルト探偵部一応、オカルトってやつを確認しておこう」


簡易な柵を乗り越えてショートカットし散策園路のエリアへと歩を進めて少し暗い辺りを見渡す。


特に変わった様子がない。この場に陣取っていた巨大な蛙たちの存在は綺麗さっぱり消えてしまっていた。

期待している訳ではないけど……。


ふと。


あるイチョウの樹の幹に凝らした目は止まった。


このマークは。





「オカルト探偵部……」


美玲は左手のポッケからおもむろに二つ折りの黒いケータイを取り出し。



『──おい、私はコンビニじゃないぞ』


「俺だってそうですよ……。ありました」


『分かった』


「────じゃあ、あとはよろしくお願いしますケイコさん。子春はまだしも俺はただの、一介の学生なんで」


『あぁ、分かっている。だが今後も町のゴミ掃除ぐらいは頼まれてほしい。怪異を逮捕出来るのは子春と、キミだけなんだからな』


「気まぐれの今回だけです。深夜に石投げなんてご近所さんに迷惑過ぎます」


『なにそんなクソガキは私が駆けつけて親にひとつ注意してやろう』


「いませんしいりません」

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