選んでください
「ユーリ様。他にも、何か知りたいことはございますか?」
レジナルド王が、にこやかに微笑みかけてくる。
「今のところは・・・、ないです。」
・・・住むところは王宮。この国に居るだけで、魔獣が消える。この国については、家庭教師が教えてくれる。視線は1分以上は、合わせない。魅了をかけてしまうから。
・・・うん、今のところは、これだけわかれば、よし!かな。
「そうですか。では、あらためて。ユーリ様に、もう一つ、お願いがあります。」
レジナルド王が、急に、まじめな顔をした。
「ユーリ様の伴侶を、私達、3人の中から、選んでください。」
「はい?」
「誰を選んでも、構いません。・・・できれは、今日中にお願いしたいのですが・・・。」
「はい?伴侶?」
「伴侶、という言葉は、ユーリ様の国には、ございませんか?結婚相手、といえば、わかりますでしょうか?」
「いえ、伴侶、言葉はあります。・・・そうじゃなくて。あの、なんで、いきなり、初対面なのに、結婚の話が出てくるのですか?」
「この国の、決まりだからです。」
「はい?」
「神の御使いは、王家の人間と結婚するように、定められているのです。・・・今までに、召喚されたすべての御使いが、王家に嫁いでおります。」
「え?」
「今、我がエルダー王国の、男性王族は、ここにいる3人だけです。だから、私達の中の誰かが、ユーリ様の夫になるのです。」
「私は、まだ15歳です!」
「お聞きしました。我が国でも、17歳にならないと、婚姻できません。ですから、今は、婚約者を選ぶ、ということになります。」
「そうじゃなくて・・・。あの、会ったばかりなのに、いきなり知らない人と結婚って、その、納得できるんですか?」
「王族にとって、結婚は義務です。・・・相手が決まったら、その方との絆を新しく深めていけばよいのです。」
「・・・でも、私が、皆様を好きになれなかったら?皆様以外の方を好きになったら?」
レジナルド王が、困ったように、微笑んだ。
「王族以外の方との結婚は、難しいと思いますよ?・・・ユーリ様が、自分に忠実な、人形のような夫をお望みでしたら、それでも、よろしいですけれども・・・。魅了をかけることを、厭うていらっしゃいますよね?」
・・・そうだった!この国にいる限り、私は、王族以外と、目を合わせることができない!
相手の目を見て話しなさい。と小さい頃、母に教わったのに、夫と目を合わせないなんて、できない!!
「一生、誰とも結婚しない、ということはできないのですか?」
「申し訳ありませんが、できません。・・・そもそも、なぜ、王族との結婚が義務付けられているかというと、理由が2つあります。一つは、神の御使いを王家から、離さないため。もう一つは、御使いの御身を守るため、です。」
「一つ目は理解できますが、2つ目が、よくわかりません・・・。」
「王族でない未婚の女性が、王族と一緒に生活するというのは、外聞が悪いです。また、誰かが、神の御使いを手に入れようとする可能性を排除する必要があります。そして、部屋の中に護衛は入れません。部屋の中で、御使いを護るのには、夫が最適でしょう。」
・・・部屋の中!?同室?いきなり!?
「ど、どうしても、選ばないと、いけないのですね・・・?」
「はい。お願いいたします。」
うーん。と頭を抱えた。
今日中?無理。絶対。
ちらっと、レジナルド王を見れば、にこにこしているけれど、早く決めろという圧が強い。さすが、国王。
・・・逃げたい。でも、逃げ場所が無い。
「あの、いくつか、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。」
「では、あの、普段何をされているのか、教えていただけませんでしょうか?」
レジナルド王。
「私は、国王ですので、普段は、王としての執務をしています。基本的に王宮から出ることは、ほとんどありません。」
ルーカス王子。
「私は、近衛騎士団の団長および、第一国軍の将軍のため、兄上とは違って、王宮に居ることの方が少ないです。年の半分くらいは、王都からも出て、魔獣討伐や国境守備隊との訓練などに出ています。私を選ぶなら、ユーリ様も一緒に、王国内を移動する生活になります。」
アルフレッド公。
「自分の宮殿から滅多に出ない。書物を読むか研究をしている。」
「ありがとうございます。あの、趣味はありますか?」
レジナルド王。
「政務が忙しいので、これという趣味は無いですが・・・。強いて言えば、音楽が好きです。自分でもフルートとヴァイオリンを少し嗜んでいます。」
ルーカス王子。
「私は、狩猟と、剣技だから・・・。仕事と趣味が一緒みたいなものかな・・・。」
アルフレッド公。
「ない。」
軽く目をつぶって、考え込む。
・・・レジナルド王は?
彼と結婚するとしたら、私は、王妃になる?ありえない。王妃なんて、なりたくない。一番に却下だ。
・・・ルーカス王子は?
国内を移動して生活するのは、少しあこがれるけれど、趣味が、狩猟に剣技って・・・。命を守る医者とは正反対の立場だ。・・・必要とわかっていても、殺さないでと頼んでしまう。つまり、こちらも、無理。
・・・アルフレッド公は?
学者で、引きこもりっぽいけど・・・。年が、少し離れすぎてるけど・・・。お顔が見えないのが気になるけど、特に面食いではないし・・・。3人の中では、一番、無難だろうか。消去法で悪いけれど。
「あの。」
思い切って、言ってみる。
「皆様の中から、どうしても選ばなければならないのでしたら、アルフレッド公に、お願いしたいのですけれど・・・。」
レジナルド王と、ルーカス王子の目が、驚愕に見開かれる。
アルフレッド公は、ちょうど、紅茶に口をつけていたが、むせて、咳きこみ、横を向いて、ハンカチで、口元を覆っている。
「あの、ご迷惑、でしたでしょうか?」
おそるおそる、聞いてみる。
レジナルド王が、はっと気を取り直して、首を横に振る。
「いえ!迷惑だなどと!申しあげたとおり、私達は、ユーリ様のお決めになられたことに、従うだけです。・・・ですが、よろしいのですか?アルフレッド公は、あなたより、はるかに年上です。それに・・・。」
レジナルド王は、アルフレッド公の方を向き、かすかに、ため息をつく。
「叔父上、ちゃんと、彼女に、顔を見せてあげてください。」
咳きこんでいたアルフレッド公が、ハンカチを、テーブルに乱暴に放り投げると同時に、右手で、ぞんざいに、髪をかきあげた。
あらわになる、左のこめかみから、右の頬まで赤く引き攣れた傷痕。
でも、そんなことよりも、アルフレッド公の、深い、青い瞳に、吸い込まれそうになった。
レジナルド王やルーカス王子の明るい青色とは違う、深い蒼。
何もかも見透かすかのような、叡智の光の宿る蒼。
・・・彼の蒼い目から、視線を外すことが、できなかった。
亡き父の言葉が、フラッシュバックする。
『友里子、その人がどういう人かは、目を見れば、わかるよ。澄んだ瞳を持っている人なら、信用できる。』
「きれい・・・。」
気づかないうちに、こぼれた、言葉。
ガタン!と、アルフレッド公が、立ち上がった。顔が、怒りで、赤くなっている。
「私を、侮辱しているのか!この醜い傷痕のある顔の、どこが綺麗だと言うのだ!」
「あ、違うんです!」
慌てて、謝った。
「ごめんなさい!傷のことなんて、見えてませんでした!あまりに、目が美しくて、つい・・・。」
「「「は?」」」
3人の声が、重なる。
アルフレッド公も、呆気に取られて、声が出てこないようだ。立ち尽くしている。
「・・・叔父上、とりあえず、座られたら、いかがです?」
さすが、レジナルド王は、王なだけあって、切り替えが早い。
アルフレッド公が、言われるまま、すとんと、座り直す。でも、放心しているように見える。
「あの、ユーリ様。アルフレッド公の傷は、気にならないのですか?・・・彼の顔を怖れている女性は、多いのですが・・・。」
「いいえ、全然、怖くないです。」
・・・本心だった。怖いと思えない。むしろ、なぜ、こんなに美しい目を前髪で隠しているのだ。もったいない!
レジナルド王と、ルーカス王子が、視線を交わした。
「では、本当に、アルフレッド公を、ユーリ様の伴侶とさせていただくことで、よろしいのですね?」
「はい。アルフレッド公が、その、お嫌でなければ。」
「私達には、拒否する権利はないのですよ。ユーリ様。・・・では、私とルーカスは、いったん、退室させていただきます。アルフレッド公とお二人で、話をしてみてください。話が合わなければ、今ならまだ、選び直しが可能ですから、言ってください。」




