アルフレッド公
レジナルド王と、ルーカス王子が退室し、アルフレッド公と2人で残された。
何を話せばいいのかしら?と、とまどう。海外の学校なら・・・お天気の話から入るところだけど、どうしょう?
「私で良いのか?私は、醜く、つまらない男だが。はっきり言えば、王族の一員という肩書以外、何も持っておらぬ。」
突然、低いが、はっきりした声が、意識を、表面に座るアルフレッド公に、引き戻した。
「醜いとは思えませんけれど?」
「傷痕が、怖くはないのか?」
「はい。だって、とても、きれいな目をされていますもの!」
「きれいな目?」
「はい!ずっと見ていたくなる、きれいな目です!深い、深い、青に吸い込まれそうです!素晴らしい、叡智の輝きに見惚れます!なぜ、前髪で隠されているのですか、もったいないです!」
つい、夢中になって、半ば立ち上がり、アルフレッド公の方に身を乗り出して、熱弁をふるっていたけれど、はっと、我に返った。
このティーテーブルの幅は狭い。だから、身を乗り出すと、本当に、彼の顔の近くまで、寄ってしまっていたのだ。
そして、迫られた形になった、アルフレッド公の顔は、真っ赤だ。
「きゃあ!ごめんなさい!」
慌てて後ろに下がって、椅子に脚が、ガン!と当たり、よろけた。幸い、転ばなかったけれど、派手にぶつけた足裏が痛い。
「!お怪我は!?」
アルフレッド公が、さっと立ち上がり、すばやく、そばに駆け寄ってきて、肩から支える。背が高い!私の身長は、彼の肩にも届かない。
「だ、大丈夫です。ちょっと、ぶつけただけで。」
「そう、ですか。」
アルフレッド公が、肩に触れているのに気付いて、はっとしたように、身を離す。が、やがて、何かを決心したような顔をして、右手を差し伸べてきた。
「庭を歩きながら、話をしませんか?」
差し伸べられた手に、そっと左手を乗せれば、軽く握られ、窓の方に連れていかれる。
窓だと思っていたけれど、一か所、外に出入りできるようになっていて、螺旋階段が、庭に向かって、緩やかなカーブを描いている。
アルフレッド公に手をとられたまま、私は階段を降り、芝生の上に降り立った。
「わあ、きれい・・・。」
窓越しに、花々が咲き乱れてきれいだと思っていたけれど、外に出てみれば、鮮やかさが際立ち、風の中に甘い香りが満ちて、思わず、ため息が出てしまう。
庭園の中を、ゆっくり歩きながら、アルフレッド公が、話を始めた。
「私は、幼少の時に、暗殺者によって傷つけられてから、閉じこもって暮らしていたので、人との話が苦手だ。人の代わりに、本に囲まれて暮らしていたので、意図したわけではないが、この国で一番の学者と言われるようになったが。普段は、自分の宮殿の図書室か研究室に閉じこもって、社交にも、ほとんど出ていない。私と一緒になるということは、退屈な生活しかできない、ということだ。・・・悪いことは言わない。レジナルドか、ルーカスを選べ。あなたが出かけることを好むなら、ルーカスが良い。彼は、第一国軍の将軍として、国内をよく旅行している。退屈はしないだろう。」
「アルフレッド様は、おやさしいのですね。」
「なっ!・・・やさしくなど、しておらぬ。」
「いいえ。おやさしいです。そうでなければ、私のことを気遣ってくださるわけ、ないじゃないですか。」
「気遣ってなど・・・。」
「退屈な生活をさせてしまう、と気遣ってくださったではないですか。」
アルフレッド公が、黙り込む。
「あの、アルフレッド様?」
「何か、ユーリ様。」
「あの、アルフレッド様を選んだのは、やっぱり、ご迷惑でしたでしょうか・・・。」
・・・相手は、28歳だ。私は14歳で、彼から見たら、まだ子供みたいなものだ。それに、28歳だったら、好きな人だっていたかもしれない。私が押しかけても、彼は断れない。想い人と引き裂くのが、私なのかも?
なんだか、落ち込んできた。私。彼に軽く握られていた手を、そっと引っ込める。
「もしかして、好きな方が、別にいらっしゃったんじゃないですか。だったら、私、別の方を・・・。」
「好きな女性は、いない。」
ふいに、横に立っていたアルフレッド公が、正面まで移動し、目を見ながら、つぶやくように、言った。
「ユーリ様。本当に、私で、良いのですか?」
「はい。アルフレッド様。アルフレッド様が、いいです。」
アルフレッド公の右手が、伸びてきて、左頬にやさしく触れる。
そのまま、彼を見上げる。
私を見下ろす、彼の、蒼い目と、目が合った。
・・・ああ、やっぱり、きれいな目。本当に、吸い込まれそう。
叡智の光。籠められた強い意思。とても澄んだ瞳。
うっとりと見とれていたら、突然、ふいに、抱きしめられた。顔が、彼の胸の中に納まっている。
・・・え!え!なんで!?
自慢にならないけれど、彼氏いない歴14年だ。両親が亡くなってから、私を抱きしめた人は、いない。いや、そもそも、こんなふうに、むぎゅっと抱きしめられた記憶は、幼稚園生くらいまでだ。軽く、パニックになっている。
・・・でも、いい匂い。そして、なんだか、安心する。あれ?何か、急に、足に力が入らない?急に、崩れ落ちそうになった。
「ユーリ様!?」
崩れ落ちそうになったけれど、転ぶ前に、アルフレッド公が、しっかり、抱きとめる。
「あ、ごめんなさい。何か、安心したら?ふらっとしてしまいました。」
とたんに、彼に、お姫様抱っこされていた。
「きゃあ!あの!おろしてください?」
「だめです。私の配慮が足りませんでした。この世界に召喚された日に、いろいろあって、お疲れでしょう?それなのに、歩かせてしまいました。すぐに、部屋にお連れします。少し、我慢してくださいね?」
「いえ、あの、歩けます。あの、私、重いと思いますし!」
「全然、重くないから、大丈夫です。」




