西の領地にて2
魔獣を討伐する森は、滞在している別館から、馬を歩かせて、数時間の所にある。
だから、相変わらず、ルーカス王子達は、森の近くに野営地を造営して、そこで寝泊まりしていたけれど、週に1回は、別館に帰ってくるとのことだった。
ここに到着して、数日、居室で過ごして、疲れを癒した。
その間、たくさんのパーティの招待状を受け取ったけれど、アルフレッド公が全て無視した。
幸い、別館の中にある図書室には、この領地に関する書物が多く、アルフレッド公と一緒に、それらに目を通していたら、あっという間に過ぎて、閉じ籠っていても、退屈することは、無かった。
「ユーリ、明日は、アテーナム川の船着き場に行ってみるか?」
「わあ、うれしい。ぜひ、お願いします。」
「馬車だと2時間くらいかかるから、早朝に出よう。明るいうちに戻りたいし。」
翌朝、まだ薄暗いうちから、馬車に乗り、船着き場に向かう。
船着き場がある街までの街道は、襲撃を警戒して、50名ほど、騎士が周囲を固めてくれたけれど、さすがに街の中は、そうはいかない。
馬車の周囲に、騎乗した数名の騎士が付き、それ以外の騎士は、街中に散開した。離れて護衛してくれるらしい。
ちなみに、騎士団の制服を着ていると目立つので、皆さん、私服を着ている。
でも、帯剣しているから、一般の民には見えない。休暇中の兵士か、冒険家と言ったところか。
船着き場がある街は、貿易の拠点なだけあって、非常ににぎやかで、どこもかしこも、馬車や人が多く、混雑していた。
船着き場まで、馬車で行き、降りる。
目の前には、ゆったりと流れる大河。
向こう岸が全く見えず、海と間違えてしまうくらい広かった。
船着き場には、数艘の大きな船が停泊していて、川の上にも、小さな船を含めば、かなりの数が行き来しているのが見える。
ちょうど、到着したばかりと見える1艘の船からは、大きな木箱が、船から船着き場まで、リレー形式で下ろされている。
船員や商店で働く人が多いからか、大声で声を掛け合っていて、うるさいくらい賑やかだった。
「おっと、ごめんよ。」
立ち止まって、夢中で川の景色を見ていた私は、大きな荷物を肩から下げて走ってきた男性に、ぶつかられて、少しよろけた。
途端に、私から数歩も行かないうちに、突然現れた騎士が、彼を捕らえ、腕をひねりあげる。
「いてぇ!何しやがる!?」
「身分証を見せろ。」
「へ?なぜだ!?」
アルフレッド公が、私の腰に手を当て、私をその場から、連れ出し、歩いていく。
「おそらく、単なる船員が、ぶつかってきただけだと思うが、用心するにこしたことは無い。」
と、つぶやきながら。
怖い顔をした騎士に捕まった人に、ごめんなさい、と謝りながら、渋々、そこを立ち去った。
後で聞いたら、やはり、私にぶつかってきたのは、単なる船員さんで、フェロー王国から戻ってきたばかり。持っていた荷物は、彼の着替えや、家族へのお土産だけだった、と聞いた。
ともかく、それくらい厳重に守られ、船着き場の街を、アルフレッド公と散策を続ける。
フェロー王国の主な輸出品は、薬草とハーブ、様々な効能がある薬。そして、木製品。
街の中には、ハーブの香りが漂うお店と、繊細な彫刻がされた木製品がショーウィンドウを飾るお店が多くあり、見ているだけでも楽しかった。
「わあ・・・。綺麗・・・。」
ある木製品のお店のウィンドウに飾られている、アラベスク模様を透かし彫りした、薄紅色の箱に、目が吸い寄せられた。
「ほお。見事な細工だな。見せてもらおうか。」
アルフレッド公と店内に入る前に、すっと、騎士の一人が先に入る。さっと、彼が店内を一望してから、私達に軽くうなずくのを見て、アルフレッド公と一緒に入れば、後ろから、また1人、騎士が入ってきた。
お店の中でも、警戒して守ってくれるのね・・・。
ウィンドウに飾られていた箱を見せてほしい、とアルフレッド公が店員に頼めば、白い手袋をはめて、ウィンドウの飾り棚から持ってきて、ベルベットのクロスが敷かれたテーブルの上に置いてくれた。
「どうぞ、お手に取って、ご覧くださいませ。」
箱の蓋をあけてみる。
これは、宝石箱だったようで、中には、指輪や耳飾りを納める溝がついた、真紅のベルベットが貼られていた。
「ユーリ、気に入ったの?」
「ええ。とてもきれいな細工・・・。」
「では、これをプレゼントしよう。」
「いいの?うれしい。ありがとう。」
けれど、値段を聞いて、青ざめた。宝石並みのお値段。
思わず、こそっと、アルフレッド公の耳にささやく。
「アル・・・そんなに高価なの?」
「ん?ああ、フェロー王国の透かし彫りは、芸術品だから、これくらいなら安いけど?」
アルフレッド公は、私に値段のことは気にしないように、と言い置いて、店員に、王都に送ってもらえるか相談し始めた。
その間に、店内のいくつかの小物を見て回れば、値札がついているものがあり、確認すると、どれもこれも、びっくりするほど高かった。
店員の説明によれば、これらの芸術品は、全て手彫りだそうだ。値札がついているのは、フェロー王国の木製品のお店から仕入れたもの。
値札がついていないものは、フェロー王国の著名な職人が作った1点物で、値段は、店員に聞く必要があるそうだ。
ちなみに、私が買ってもらった宝石箱は、値段が付いていなかった・・・。
とんでもない値段の工芸品をねだってしまった・・・と、がっくり落ち込みながら、お店を出たら、アルフレッド公が、心配そうに声をかけてくる。
「ユーリ?宝石箱が気に入らなかったの?他の物も見てたけれど、他の方が良かった?」
びっくりして、首を振り、値段が高かったから、落ち込んでいた、と正直に言えば、良かった。と微笑まれた。
「ユーリは、欲が無さすぎる。もっと高価なものを、欲しいって我儘言ってほしいな。」とまで言われて、ぶんぶん首を振る。
買い物が終われば、お昼に近い。
ただし、アルフレッド公は王族のため、その辺の食堂に入ることができない。
アテーナム川が一望できる公園があったので、そこのベンチに腰掛け、館の料理人が作ったお弁当を広げて食べた。
「川から吹いてくる風が、気持ちいいですね・・・。」
「そうだね。」
「んー。でも、残念。お弁当はおいしいけれど、さっき見た食堂、入ってみたかったです。」
「ああ、フェロー王国の料理が食べられると書いてあった店?」
「はい。」
「じゃ、騎士に頼んで、いくつか、持ち帰らせようか。持ち帰ってから毒見してもらえれば、食べられるから。」
「本当?夜ご飯で食べてみたいです。」
「わかった。」
アルフレッド公は、やさしい。
騎士を目配せで呼び寄せ、店の料理を適当に持ち帰るように指示してくれる。
「さて、もう少しだけ、街を見たら、そろそろ戻らないと?」
「そうですね・・・。また、連れてきてくださいますか?」
「もちろん。」
その後、少しだけ、腹ごなしをかねた散歩をして、すぐ、馬車に乗せられて、別邸に帰った。
夕食には、毒見が済んだフェロー王国の料理が並び、冷めてしまったけれど、ハーブや香辛料をたっぷり使った独特な味に、舌鼓を打った。
その中でも、特に、カレー味の魚のフライがあって、このエルダー王国では、カレー味が無かったので、泣きたくなるくらい、なつかしくて、おいしかった。
カレー味がまた食べたい、とつい、口に出せば、アルフレッド公が、今度、船着き場に行く時に、料理人を連れて行き、お店でレシピを教えてもらえるよう、手配しよう、と言ってくれ、うれしくて、思わず、アルフレッド公に抱きつけば、お礼は、こっちでしょう?と頬へのキスをねだられて、真っ赤になってしまった。




