西の領地にて1
南の領地の魔獣が平定されてから、2か月後、私達は、西の領地に、向かった。
今年の魔獣討伐は、この地で終わり。
東の討伐は、来年の春になる。
来年の春になれば、私は、17歳になり、婚姻できる年齢だけれど、東の討伐が終わった後、秋の終わりに結婚式を挙げることになった。
17歳での結婚は、早すぎる。
だって、もともとの予定なら、17歳と言ったら、高校3年生で、大学医学部の受験勉強真っただ中だったはずだから。
結婚式の延期をお願いしたけれど、アルフレッド公が30歳になってしまうので、待てないと、王族全員から、黒い笑顔を向けられて、押し切られてしまった・・・。
西の領地に向かう前に、私は、ウェディングドレスのデザインを、アイリーン王妃、リリアナ妃と一緒に選ばされた。
といっても、一点もの。紙に書かれたデザインでは、どれが似合うのか、私にはさっぱりわからず、好みこそ聞かれたけれど、彼女たち2人に、ほぼ、お任せしてしまった。
自分で選んだのは、ヴェールに使うレースのみ。
2メートル以上の長さのレース生地は、1枚編むのに数年から、長いと30年かかるものもあるため、毎年、王家が、定期的に購入している。その中から、選ばされた。
「これ、綺麗・・・。」
軽くて、シンプルだけれど、光を反射する水面のような輝きをもつレースを選んだら、アイリーン王妃に、見る目がある。と褒められた。
「さすが、ユーリ。これは、今、王家が持っているレースの中でも、最高ランクの1枚ですわ。高名な職人が、15年かけて織り上げたレースです。」
と言われたときは、のけぞって、自分にはもったいないから、他のを選びます。と慌てたのだけれど、
「一生に一度ですから、一番気に入ったのを選ぶべきですわ。」
と、リリアナ妃に言われて、甘えさせてもらうことにした。
ウェディングドレスは、これから1年かけて作られる。
なぜ、そんなに時間がかかるのか不思議に思って聞いたところ、手作業で刺繍し、宝石を縫い付けるからだそうだ。
白い生地に、白か銀色の糸を使って、刺繍される。色糸よりも根気が必要な作業と聞いた。
シンプルな方が好きだから、そこまで精緻な刺繍は無くても・・・と申し出てみたけれど、神の御子様が着る衣装だから、針子達が張り切っています。彼女たちの仕事を奪ってはなりません。とデザイナーに、笑顔でやんわりと拒否されてしまった。
さて、西の領地に行く時は、当然、竜の乙女騎士団全員が、私に付いてくる。
ルーカス王子率いる魔獣討伐の騎士団、約500名は、私達より先に出発し、それに数日、遅れて、私とアルフレッド公は、竜の乙女騎士団30名と、今回の護衛に命じられた70名、合せて100名に護られて出発した。
西の領地までは、馬車で8日間。
この山を越えたら、西の領地です、という、小高い山を登る。山の頂上で、一休みしながら、あたりを見回すと、山の下に、西の領地の関所があり、西の領地が、その奥に広がっているのが見える。
ずっとかなたに、きらきら光る線状の輝きがあったので、不思議に思い、聞いてみたら、
「ああ、アテーナム川です。西の領地の奥にある、大きな川です。その川の向こうが、フェロー王国です。」
と、隣で護衛をしていた騎士が、教えてくれた。
フェロー王国との間に流れるアテーナム川は、向こう岸が、霧で煙って見えないくらい、川幅が広いのだそうだ。フェロー王国だけでなく、ガルバン帝国にもつながって、流れているらしい。
当然、橋もないので、船で渡る。
西の領地には、大きな船着き場があって、フェロー王国との貿易の窓口なのだそうだ。
「そんな大河があるんですか、一度見てみたいです。」
アルフレッド公に頼めば、西の領地に滞在中に、連れて行ってくれると約束をしてくれた。楽しみだ。
ちなみに、魔獣があふれてくるという森は、アテーナム川沿いにある。船着き場とは、離れていて、森の奥は、切り立つ高い岩山で囲まれていて、その山の向こうに行って帰ってきたという話は聞かないそうだ。
そもそも、森自体、もともと魔獣が多く、森にわざわざ入っていくのは、魔獣専用の狩人のみ。魔獣の皮や、魔獣を殺すと得られる魔石を売る専門の狩人だ。
その森から、魔獣が、人里にたくさん出てきて、狩り切れず、被害が大きくなっているのが問題となって、それが、私の召喚された理由。
西の領地の関所を抜け、1時間ほど馬車を進めると、領都があり、その中心部に、領主の館があった。
「遠いところを、ありがとうございます。」
出迎えてくれたのは、西の領地の領主、スナハイム侯爵とその夫人。
彼の後ろには少し離れて、一族が控えて、頭を下げて、迎えてくれた。
驚いたことに、滞在場所には、この領主の館ではなく、魔獣を討伐する森の近くの、領主が持つ別館を1棟、丸ごと貸してくれるそうだ。
「すでに、ルーカス王子も、その館にいらっしゃいます。その館には、ルーカス王子が指名された者以外、おりません。普段そこに勤めている使用人達も、皆さまが滞在されている間は、本屋敷に引き取っております。別館は、この館より、騎士団が守りやすいはずです。」
私達は、その日は、領主の館に泊めてもらい、夕食は、領主夫妻および、既婚者の親類貴族達と食卓を囲んだ。
南の領地の騒動は、相当、貴族達にとって、ショックだったらしい。
スナハイム侯爵は、一族の中には、結婚適齢期の若者が多く、当主があらかじめ、私達に邪な気持ちは持たないように命令したけれど、若い者はどのように羽目を外すか、予想できないので、あえて、接触を減らさせていただきました、とお詫びされた。
「この領地の貴族たちは、よくパーティを開きますが、この地へいらしていただいたのは、魔獣討伐が目的ですから、ご参加はされなくても、問題ございません。欠席されたとしても、王家への忠誠が揺らぐことはございません。もちろん、招待状は、必ず行くでしょうから、気分転換にご参加されたい場合は、お出かけくだされば、幸甚です。」
アルフレッド公が、スナハイム侯爵は、話がわかる、ここなら、安心できそうだと、ほっとしていた。
私達は、一晩、スナハイム侯爵家で休んでから、別館に向けて出発した。
領都から半日かかって、到着すれば、館の周囲には高い塀がめぐらされ、門は1つしかない。その門は閉じており、数人の騎士が、警戒している。
私達が到着すれば、門は開かれたけれど、全員入ると、すぐに、門が閉ざされる。
そして、門の内側は、館の周囲に、ぐるりと、先行した騎士団のテントが張られ、館に近づくには、騎士の誰かしらの視線にさらされなければならないほど、厳重に護られていた。
確かに、スナハイム侯爵が言った通り、厳重に守られている安心感は大きい。
「お疲れ様、ユーリ。」
館に入ると、ルーカス王子とリリアナ妃が、迎えてくれる。
「王宮並みに警護を厳重にしているから、心配しなくても大丈夫よ。2階に、泊る部屋があって、1階は、竜乙女の騎士団の騎士達が泊まるように、部屋割りしたわ。それと、2階に上がる階段の前にも騎士を置いているわ。」
リリアナ妃が、笑いかけてくる。
泊まる部屋は、相変わらず、アルフレッド公と同室だったけれど、ここも、ベッドは2台あったので、ほっとした。
居室の窓から、庭を見下ろせば、テントだらけで、しかも、騎士が大勢いる。
風景は、楽しめそうにないのが、少しだけ、残念だけれど。




