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南の領地の魔獣討伐2



 お茶会で仕入れた、イザベラ嬢の話を、夜、アルフレッド公に話した。


「もうさっさと王宮に帰りたいよ。そうは、いかないけれど。」

 げんなりとした表情で、アルフレッド公は、ため息をついた。

「イザベラ嬢は、どんなに無視しても、まとわりついてくるんだ。追い払いたいのだが、アルフレッド様の側にいると、いろいろ勉強になりますの。とか言って、サウザント侯爵が、この子は勉強熱心な子なので、ぜひ、いろいろ吸収させてあげてください。と言ってくるんだ。」

「あの・・・。ずっと会っていたら、その・・・心変わりします?」

「ユーリ!何を馬鹿なことを言ってる。・・・私が愛しているのは、ユーリだけだよ?ユーリ以外、見えていない。絶対に、心変わりなどしない。信じて?」

「・・・でも・・・。」

「ユーリ?信じられないの?」

「イザベラ様の方が、スタイルがいいし?」

「は?・・・ああ。確かに、イザベラ嬢の方が、豊胸かな?」

「アルのばかあっ!」

 私は、アルフレッド公に、背中にあったクッションをぶつける。

「ぶっ!・・・ユーリ、ユーリ、ごめんってば。私は、容姿で女性を選ばないよ?ユーリの胸もかわいい・・・ぶっ!」

 私は、2個目のクッションを、アルフレッド公の顔にお見舞いした。


 その後、アルフレッド公から、絶対にユーリだけだ、信じて?と懇願され、ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、ようやく、落ち着いたのだった。





 数日後、魔獣の調査と討伐が、一息ついた、ということで、ルーカス王子とリリアナ妃が、別邸に戻ってきた。数日、休暇を取るという。


「さすがに、1か月、討伐に明け暮れると、疲れが・・・ね?」

「リリアナ姉さま、無理しすぎです!・・・ごめんなさい。私が、赤竜のロートを呼べないから・・・。」

「気にしないで?1か月、ここに滞在してくれたでしょう?明らかに、魔獣が減ってきて、強い個体も少なくなってきてるわ。今回は、今までの神の御使いと同じ対応をしているの。だから、気にしないで?」

「ありがとうございます。リリアナ姉さま。」

「それより・・・。」

 ちらっと、リリアナ妃が、アルフレッド公の方を見て、ささやいてきた。

「イザベラ侯爵令嬢がつきまとってるって?」

「リリアナ姉さまの耳にも入りましたか・・・。」

「騎士達が、噂をしていたから。・・・ったく。サウザント侯爵も、老害をばらまかないで、さっさとクラウド様に譲って、引っ込んで暮らしてくれれば、良いものを。」

「イザベラ様の我儘は、やっぱり、サウザント侯爵のせいでも、あるんですか?」

「ええ。父親のクラウド様が、イザベラ様を叱っても、サウザント侯爵が、かばうのよ。それに強く言うと、侯爵の言うことが聞けないのか!お前を跡継から外すこともできるのだぞ!と怒鳴られるみたい。」

「そ、そこまで・・・。」

「王家と言っても、通常は、各貴族の内輪もめに、首をつっこめないからねえ。・・・ユーリ、アルフレッド様から離れてはだめよ?」

「そうします・・・。」






 ルーカス王子夫妻が、休暇で、別邸に戻ったため、サウザント侯爵家で、大きなパーティが開かれた。

ルーカス王子夫妻の結婚のお祝いをさせてください、と言われたので、渋々、4人で揃って、参加する。


 この南の領地で、一番権力を持っているのが、サウザント侯爵のため、大勢の貴族達で、パーティ会場は、にぎわっていた。


そして、パーティもたけなわになってから現れた、サウザント侯爵が、爆弾発言をする。


「皆さん、本日は、ようこそ、おいでくださいました!今日は、ルーカス王子殿下とリリアナ妃殿下のご結婚を祝わせていただいておりますが、もう一つ、我が家の、慶事も報告させていただきたく。」


 はて、何か、侯爵家にめでたいことがあったのですか?とざわめく招待者に、サウザント侯爵が、得意そうに、イザベラ嬢を自分の元に招く。


「皆さん、ここにいる、我が孫娘、イザベラに、私の死後、サウザント侯爵の爵位を譲ります!」

「父上!?」


 パーティ会場が大騒ぎになった。

サウザント侯爵には、4人の息子がいる。今までは、長男のクラウドが、跡継と指名されていた。それを取り上げ、他の息子に譲るのならともかく、未婚の孫娘を、跡継に指名したのだ。大混乱に陥るのは、もっともだった。



「アル、この宣言って、有効なの?」

 こっそり問えば、

「・・・ああ。跡継は、当主が決める。当主の血を引く者であれば、王家は反対できない。」

 苦々し気に、アルフレッド公が答えてくれる。

そこに、サウザント侯爵が、アルフレッド公に呼びかけてきた。


「アルフレッド大公殿下。イザベラは、将来、サウザント侯爵になります。あなた様にふさわしい爵位を持ちます。どうでしょう。イザベラとの婚姻を前向きに考えていただけませんか?」


 大騒ぎになっていた会場が、沈黙する。羽毛が1枚、舞い落ちてもその音が聞こえるような、静けさが、その場を、支配した。


「は!何を言い出すかと思えば。私の婚約者は、ここにいる、神の御使いたる、ユーリだ。」


「神の御使い様は、人間のモノにすべきではない、尊い存在ではありませんか?神の御使い様は、神殿に入っていただき、清らかなまま、神にお返しすべきでしょう?」

 いきなり、サウザント侯爵が、とんでもないことを言い出した。


「アルフレッド大公殿下。ルーカス王子もご結婚なさいました。まもなく、お子にも恵まれましょう。そうなりましたら、大公殿下は、王族から離籍し、臣籍降下しなければなりません。我が、サウザント侯爵家に、どうぞ、婿入りされてください。この広大で、豊かな領地は、貴公様が支配されるのに、ふさわしい。・・・イザベラは美しく賢い自慢の孫娘です。そこな神の御使い殿よりも、ずっと、貴公様をなぐさめてくれましょう。」


 会場が、どんどん、凍り付いていく。

私の隣で、ばきっと、扇子が折られる音が、静寂の中に響いた。リリアナ姉さま、怒っている・・・。


「サウザント侯爵。王族への不敬が過ぎるぞ。不敬罪で逮捕されたいのかね?」

 ルーカス王子が、殺意を込めた視線を、サウザント侯爵に送る。

「不敬・・・?」

「アルフレッド公は、現在、王族だ。その王族に、臣籍降下をしろ、婿に来い、と今、言ったな?不敬でなくて、何だというのだ。」

「おお、それは、私の言葉が先走り過ぎました。でも、将来は、そうなりますでしょう?」

「ならない。」

「は?でも、ルーカス王子殿下。殿下にお子ができれば、先王の兄弟は、王族から外れるのが、慣例で?」

「ならない。神の御使いを迎えた王族は、一生、王族として、王宮に住まう。法律でも定められている。」

「なっ!?」

「知らないとは言わせないぞ、サウザント侯爵。神の御使いは、王族よりも、地位が上。この国の国王よりも、神の御使いの方が、上位なのだ。そのような方を迎える王族は、神の御使いと婚姻されれば、国王よりも上位となる。臣籍降下など、絶対にありえぬ。」

「ばかなっ・・・、いや、そうだ、国王よりも上?・・・そう、神でしたな。であれば、なおさら、神殿に入っていただいて・・・。」


「サウザント侯爵。」

 ひんやりとした、聞く人を思わず、恐怖させる声が、アルフレッド公から、発せられた。

「私が、ユーリを手放すわけが、ない。そして、そなたの孫娘のイザベラを、そばに迎えるつもりも、全く無い。イザベラは、私の一番嫌いなタイプだ。・・・そばに寄られるだけで、虫唾が走る。貴公に世話になっているから、我慢しているだけだ。」

「アルフレッド大公殿下!」


 アルフレッド公が、私の腰に手を回し、戻るぞ、と踵を返す。

ルーカス王子夫妻も、後に続いた。


「お待ちを!アルフレッド大公殿下!」

 何人かの声が、ひきとめようとしてきたけれど、私達は、振り返りもせず、別邸に戻った。



 別邸に戻るが早いか、ルーカス王子は、騎士を野営地に走らせ、別邸の守りを固めるため、野営地から、50人ほどの騎士に、大至急、別邸へ来るよう、指示を走らせた。


「夜中までには、腕利きが、別邸に来る。別邸の庭で、朝まで守らせる。サウザント侯爵の私兵に押し入られては敵わぬからな。」

 ルーカス王子が、ぎりっと歯を噛む。

「サウザント侯爵が、耄碌しているという噂は耳に入っていたが。孫娘への溺愛で、何も見えなくなっているようだな。」

「不敬罪で、強制的に、爵位を取り上げ、元々の跡継ぎのクラウドに継がせるわけには、いかなくて?」

 リリアナ妃が、会場で折った扇子を、屑籠にたたきつけるように放り込みながら、ルーカス王子に問う。

「さすがに、不敬な発言をした、というだけで、爵位に干渉はできないかな・・・。何か、決定的な罪を問える事件を起こしてくれれば、ともかく。」


「ああ!もう!王宮にユーリを帰したいわ!」

「私も同感だ。・・・ユーリ嬢、叔父上と、明日、王宮に帰られますか?」

「でも・・・そうしたら、魔獣は・・・。」

「確かに、討伐には時間がかかります。でも、ユーリ嬢の御身の方が大切です。王宮からでも、ゆっくりと、浄化は広がるのでしょう?だったら、我々だけでも、なんとかなると、思います。」

「でも・・・。」


 悩んだ。サウザント侯爵とイザベラには、近づいてほしくないけれど、あくまでも、それは、私情だ。

この南の領地の民には、関係ない。

脳裏に、この地で、お友達になった、何人かの令嬢の顔が浮かぶ。彼女たちも、魔獣が早く居なくなってほしいと、願っている。

彼女たちの中には、知り合いが魔獣に襲われて、亡くなった人もいるのだ。


「私は、神の御使い、です。この地の民のためにも、魔獣が早くいなくなるように、すべき・・・だと思います。ここに居たほうが、早く、終わるのは、確かなのですよね?」


 ルーカス王子とリリアナ妃は、顔を見合わせて、渋々、うなずく。


「ええ、ユーリ嬢がいらした方が、魔獣は、弱体化します。それは、確か、です。」


「では、アルフレッド様?ルーカス王子達とともに、行動しませんか?」

「え?」

「ここに居ては、侯爵と、イザベラ様が、何をしでかすか、わからなくて、不安です。ルーカス王子達と一緒に野営地に居れば、魔獣の近くだから、少しは、支援になるし、侯爵達からも離れられるでしょう?」

「そうね、そうしましょうよ。わたくし、野営地に留まって、ユーリを護るわ?」

 リリアナ妃が、賛成してくれる。


「叔父上、どうなさいます?」

「・・・あのジジイを相手にするよりは、魔獣を相手にする方が、マシかもしれない。・・・でも、ユーリ?野営地は、テントだ。ベッドを入れるわけにはいかない。体が辛くないか?」


 私は、にっこり笑った。元の世界では、せんべい布団に寝ていたのだ。ベッドを買ってもらえなくって。だから、寝袋で寝るのも、やぶさかではない。


「大丈夫。私、それほど、やわじゃないから。」



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