南の領地の魔獣討伐1
このエルダー国に召喚されて1年経ち、また春が、めぐってきた。
魔獣の討伐のために、南、東、西のどこから回るか、王宮で検討した結果、昨年、農作物が魔獣に荒らされて困っている土地が多い、南から回ることになった。
「できれば、種を蒔く前になんとか落ち着かせたい。」とのことだ。
南の領地は、北の領地よりもやや遠く、馬車で10日ほどかかる。
ルーカス王子と王子妃となったリリアナが、騎士団を率いて、また一緒に行くけれど、今回は、私専属の護衛として、5人の女騎士が同行した。
女騎士は、南の領地に着いたら、侍女の恰好をして、私に張り付くそうだ。絶対に私が一人にならないように。
アルフレッド公も一緒に行くけれど、どうしても、私に四六時中くっついているわけにはいかない。そのための対策だった。
一人になれないのは嫌だなあ、と思うけれど、すでに2回も、この国に迷惑をかけている。結果としては良かったのだから、気にしないで、とは言われているけれど、あくまでも結果論で、最悪の事態もありえた。
だから、我慢しないといけない・・・。
南の領地での滞在先は、サウザント侯爵の館になった。
到着すれば、真っ白い髪と髭を持つ70歳位の当主サウザント侯爵が、大勢の家族と一緒に出迎えてくれた。
侯爵の4人の息子夫婦、さらに、侯爵の孫とひ孫まで勢ぞろいし、数が多すぎて、名前を覚えきれない。
「わしは、もう年寄で、ほぼ、仕事は、長男のクラウドに任せています。今回の魔獣討伐についても、何かあったら、クラウドに申し付けてください。」
そして、私達は、侯爵の館の近くにある別邸をそっくり丸ごと、貸してもらえることになった。
あいかわらず、王宮を出たら、アルフレッド公と同室にさせられたけれど、今度は、ベッドが2台ある部屋だったので、ほっとした。
別邸にはもともと、使用人や客人の世話をする侍女たちが居たけれど、掃除のための入室以外は、一切、私達の部屋への出入りが禁じられ、24時間、部屋の前には、ルーカス王子が選んだ騎士が、2名、交代で張り付いた。
室内でも、5人の女騎士が、日中は、常に2名、私の側から離れず、厳重に見張られ・・・もとい、護衛された。
ルーカス王子とリリアナ王子妃は、北の領地同様、野営地を設置し、魔獣の調査に、さっそく向かっている。
南の領地に住まう赤竜ロートに会えれば、早く解決しそうだったけれど、何度か、ロートの名前を呼んでも、反応が無く・・・。
騎士団が、直接、魔獣を討伐することになりそう。
南の領地は、北の領地よりも、領都が大きく、貴族もたくさん住んでいる。
そのため、王弟夫妻とアルフレッド公が来たということで、たくさんの貴族達からのお茶会、パーティの招待が、殺到した。
「遊びにきているわけじゃない。参加する暇など、あるか。」
と、ルーカス王子は機嫌が悪かったけれど、アルフレッド公と私は、魔獣の討伐に参加しないこともあり、将来、王家とのつながりを良くするため、いくつかの主要なパーティには参加する。
こちらに滞在して、1か月、週に1、2回、パーティに参加していたら、こちらの主要な貴族と、すっかり知り合いになり、年齢が近い令嬢と仲良くなることができた。
今日も今日とて、仲良くなった令嬢達と、お茶会で、おしゃべりしている。
彼女たちは、私の黒い瞳の力を知らないので、彼女たちに違和感を持たれないよう、視線をうまく外している。
・・・失礼にならない視線の外し方を、王宮のマナー教育で、学べたのは助かった。
また、恥ずかしがりやで通せ、と言われているので、恥ずかしそうにうつむき加減にするのも、コツだ。
これの難点は、庇護欲をそそられるらしく、必要以上に世話をやかせてしまうことだけれど、魅了にかけてしまう危険が低くなるなら、問題ない。
「ユーリ様、アルフレッド大公殿下とご婚約されてらっしゃいますけれど、最初に会った時、怖くなかったですか?」
皆が、コイバナに盛り上がっていたと思ったら、私に、お鉢が回ってきた。
「わたくし、怖いと思わなかったのですわ。」
「あら・・・。皆に恐れられていたのに?」
「ええ。全然怖くありませんでしたの。むしろ、一目ぼれ、していたかもしれません。」
「まああ!一目ぼれ!ロマンチックですわあ。」
「でも、ご婚約されてから、アルフレッド大公殿下、お顔が怖くなくなりましたわよね?」
「そうそう。ユーリ様のおかげですかしら?」
「そ、そんな、ことは・・・。」
「まあ。また、そんなに恥ずかしがられて!恐れ多いですけれど、ユーリ様、可愛すぎますわっ!」
きゃあきゃあと、盛り上がる。
「でも、ユーリ様。お気をつけあそばせ。」
「はい?」
「イザベラ・サウザント侯爵令嬢のことですわ。彼女、大公殿下にべったりくっついているそうではありませんか!」
ああ、あの令嬢ね、と、ため息をついた。
私より3歳年上の18歳のイザベラは、アルフレッド公に一目ぼれしたらしく、どこのパーティでも彼にまとわりつき、泊っている別邸にも何度か入り込もうとして、家人から引き戻されている。
最近、アルフレッド公の機嫌が悪い場合、原因は、必ず、イザベラだった。
幸いというのか、イザベラは、私のことは全く目に入っていないようで、私を完全に無視して、アルフレッド公だけに突進している。
とはいえ、私の護衛を務めている女騎士たちは、ぴりぴりしていて、外出時は、3人が私の周りを固めている。
今日のお茶会も、部屋の中に1名、外に2名、控えている。
「イザベラ様、いったん夢中になると、それ以外が全く見えなくなる方ですものね。」
「そうそう。以前、ジェーン様の首飾りが気に入って、それを譲ってくれと、付きまとって、ジェーン様の部屋までおしかけてこられましたよね。そのネックレスは、ジェーン様のおばあ様の形見だったので、譲れないとお断りになったのに。」
「そうなのよね。あまりにしつこく、恐怖を覚えたので、ジェーン様のお父様の子爵が、全く同じデザインのネックレスを作らせて、それを、イザベラ様に渡したのだけれど、ジェーン様は、手元に無いことになったから、外に付けていけなくなって、がっかりしてましたわ。」
「そうそう、トート男爵のところも、一番良い馬に目をつけられて、奪われていましたわよね?」
「男爵ですもの。サウザント侯爵には、逆らえませんわよ。」
「あの。イザベラ様を、侯爵家の皆様は、諫めないのですか?」
「サウザント侯爵当主が、溺愛しているので、何も言えないみたいですわ。ご存じかどうか、サウザント侯爵当主の子供と孫、ひ孫の中で、女子は、イザベラ様だけなのですわ!」
「サウザント侯爵家って、男性が多く生まれる家系のようで。イザベラ様がお生まれになった時は、侯爵が大喜びされて、領地を上げて盛大なお祝いをされたと聞いてますわ。他のお子の時は、そんなこと、されなかったのに。」
「サウザント侯爵も、もうお年ですし・・・。隠居されても良いのに、爵位にしがみついて・・・。ねえ?」




