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ガルバン帝国の王太子4



 外に出る気分になれなくて、アルフレッド公の書斎で、私は過ごした。

読書をしていれば、何も考えないで済むかなあ。と思ったけれど、なんとなく気が散って、没頭できない。

ぼんやりと活字を追いながらも、頭の中は、ライアン王太子の魅了について、考えてしまっていた。

 黒い瞳の魅了の力を知るのは、この国でも、一握りしかいない。

魅了にかかったまま、ライアン王太子をガルバン帝国に帰したら、王太子の態度によっては、この国で、何があったのだろうと、疑われるだろう。何をされたのか、誰が原因なのかはわからなくても、この国にとっては、リスクが大きい。


「アル?」

「ん、どうした?ユーリ?」

「ライアン王太子のことなんだけれど?」

「君が、それを考える必要はないよ?」

「そうかもしれないけれど・・・。魅了をかけたのは私だし、この国に迷惑かけているのが、心苦しいの。何か、良い案・・・ない?」


 この国一番の学者である、アルフレッド公なら、何か、考えつかないか、お願いしてみる。


「・・・魅了の力は、絶対に相手を従わせる力だから・・・、この国に有利なように動くことを命令して帰せば、良いかもしれない。」

「どうやって?」

「君が、王太子に、この国に有利に動くように、命令する。ってこと。例えば、この国と仲良くする。自国で善政を敷く。妻以外の女性に手を出さない。とか・・・。この国に伝わっているガルバン帝国の王太子は、残虐性が強く、好戦的で、女たらしだ。帝位に就いたら、平和的外交に苦労するだろうと、危惧されていたけれど、魅了をうまく使えば、良い皇帝になるかもしれない。」


 ・・・悪王になるかもしれない王太子を、善王にしちゃいましょう、作戦!?

それはいいかも。魅了をかけたことに、罪悪感があるけれど、そうだったら、少しは、罪滅ぼしになるかもしれない。


「それ、できたら、素敵です。アル。」

「そうだな。レジナルドに相談してみようか。」




 その後、アルフレッド公は、レジナルド王初め、宰相や大臣達と、ライアン王太子に命じる内容を詰めていった。


 そして、それらがまとまってから、ライアン王太子の所に行き、後ろから、アルフレッド公にがっちり震える身体を抱き留めてもらいながら、彼としっかり目を合わせて、王から渡された紙に書かれている通りに、命令を読み上げた。

読み上げ終われば、ライアン王太子は、うっとりとした目で私を見ながら、

「すべて、承知しました。我が主。」

と、頭を下げた・・・。


 その後、人が変わったように、穏やかな顔になったライアン王太子は、レジナルド王に見送られて、ガルバン帝国へ帰って行った。

魅了が切れる可能性を考え、従僕を2人、ついていかせたけれど、ガルバン帝国に帰国した後も、魅了は解けていない、と報告があった。

 急に性格や行動が変わり、まともな王太子らしくなったので、周囲から、怪しまれたようだけれど、「どうも、エルダー王国の神の御使い様に叱られたらしい。それで反省したらしい。」という噂が立ったそうで、王太子を怖れていた帝国の貴族たちが、胸をなでおろし、神の御使い殿のおかげだと感謝していると聞いた。


 ライアン王太子には、エルダー国へは、私が呼ばない限り来るな、と命令してあるので、彼がこちらに来ることは、おそらく、もう、無い。


 それで、やっと、ほっとしたのか、私のショック症状は、ようやく和らぎ、アルフレッド公に添い寝してもらわなくても、一人で眠れるようになった。


「ずっと一緒に、同じ部屋で寝てもいいんだけれど?」

 と、アルフレッド公が、残念そうにささやいてきたけれど、結婚するまでは!と真っ赤な顔で、お断りさせていただいた。




 ライアン王太子が帰国して、まもなく、エルダー王国の貴族令嬢を正妃に迎えたい、と正式な書状が、ガルバン帝国から届いた。

敬愛する神の御使い殿が住まわれる国の令嬢が、どうしても欲しい、御使い殿と思って、命をかけて大事にすると誓う。と王太子直筆の熱烈な書状であったらしい。


 レジナルド王は、ガルバン帝国との友好が強まるのは良いことだ、と、妃候補の選定を急いだけれど、冷酷かつ悪逆な王太子、という噂が、すっかり浸透していたため、打診をしても、断る令嬢が続出し、頭を抱えた。

特に、婚約を嫌がられるのには、理由がある。

ライアン王太子は、自分が幼少期に強引に婚約者にした令嬢に、飽きたからと婚約破棄を申し出、令嬢が拒絶したら切り殺したという経歴を持つ。だから、飽きたら殺されるかもしれない恐怖が先に立ち、王妃になれるという名誉がかすんでしまっているのだ。

私の魅了で、人が変わっている、と説明するわけにはいかず、困っている。


 その話を聞いて、ふと、北の領地の、ガルディア伯爵のところの、マーガレット嬢を思い出した。

マーガレット様は、確か、18歳になられたはず。ライアン王太子は、23歳なので、年のつり合いは、取れている。容姿も綺麗だったし、アルフレッド公に見惚れてはいたけれど、ちゃんと、礼儀は守っていた。

 妹のドロテア令嬢の事件のあおりを受けて、領地から出られず、婚期を逃しそうになっているけれど、彼女には、罪が無い。

 それに、ライアン王太子には、今後、女性を大事にし、妻を娶ったら、その妻を生涯、愛するように、と魅了の力を使って、命令している。マーガレット嬢を、きっと大事にしてくれるだろう。


「ねえ、アル?ライアン王太子妃候補なのだけれど、マーガレット・ガルディア伯爵令嬢は、どう?」

「え?」

「今、王太子に釣り合うようにと、伯爵以上の令嬢に、レジナルド王が打診しているけれど、軒並み、断られて、困っていると聞いたわ。かといって、王太子の性格が、魅了で変わったから、大丈夫、とも言えないのでしょう?・・・マーガレット様は、今、領地から出られず、出会いがないので、婚期を逃すかもしれなかったわよね。・・・私、ガルディア伯爵は、信用できる方、だと思っているので、その長女だったら、大丈夫な気がするんだけれど?」

「・・・確かに。ガルディア伯爵は、我が国でも、王室への忠誠が非常に厚い貴族の一人だ。・・・マーガレット嬢か、すっかり失念していた。良いかもしれぬ。」

「あの、でも、マーガレット様の希望を優先してね?嫌だっていったら、断れるように・・・。」

「わかった。」


 結局、ガルディア伯爵と、マーガレット嬢は、緊急の事態である、ということで、特別に、領地から王宮に呼び出され、ライアン王太子の妃候補の打診をされた結果、受ける。と承知してくれた。

 マーガレット嬢には、嫌だったら断っていいのですよ?と2人きりのお茶会で、聞いてみたけれど、

「貴族に生まれた以上、政略結婚は、当たり前です。爵位だけが自慢の年寄や、意地悪な貴族に嫁がされる令嬢もいるのに、王太子という高貴かつ、麗しい方への縁談は、願っても無いこと、です。

それに、わたくしの妹は、決して許されない罪を犯しました。それにもかかわらず、ユーリ様は、我が領土の民のために魔獣を平定し、我が家にも、慈悲をくださいました・・・。どのように、ご恩を返せば良いのか、わたくしは、悩んでおりましたので、このお話は、わたくしにとって、大変、光栄なことですわ。わたくし、きっと、この国と彼の国の友好を保つように、努力し、ユーリ様がお暮しになるこの国を守りますわ。」

と、強い意思を示してくれた。


 マーガレット・ガルディア伯爵令嬢は、ガルバン帝国のライアン王太子の元に、妃候補として送られ、ほどなく、ライアン王太子からは、「素晴らしい令嬢を紹介してくれてありがとう。マーガレット嬢を正妃に迎えます。」と大喜びの礼状が、届いた。


 マーガレット嬢とは、その後、数か月に一度くらいの割合で、文通が続いたのだけれど、王太子が、気に入ってくれたのは、私が、マーガレット嬢と1か月とはいえ、一緒に暮らしたことがあったから、だったらしい。

神の御使い殿は、どのような方なのだ、と熱心に聞かれ、私のことをいろいろと褒めたら、そなたとは、意見が合う。俺の運命の人に違いない。と言われ、溺愛状態らしい。

「気に入らないことがあれば、暴力を振るう恐ろしい人と聞いていましたが、そんなことはなく、優しい方で、とても大切にしてくださいます。多少、強引なところはありますが。」

と、書いてきたときは、心底、ほっとした。

 ライアン王太子には、今でも、嫌悪感が消えないけれど、マーガレット嬢は、少なくとも、幸せになれそうだ。なってほしい、と思う。




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