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婚約式のドレス



 王宮の客間に、ドレスメーカーの女性が来て、仮縫いされた婚約式のドレスを、素早く、私の身体にあてていく。


紺色に近い青い生地に、金色の刺繍がされ、生地全体にちりばめられた小粒のダイヤモンドがきらめく、豪華な衣装だ。


アイリーン王妃とリリアナ公爵令嬢が来てくれて、横から、ドレスメーカーの女性に、次から次へと、指示を出していく。


「袖は、もう少し膨らませて。あと2センチくらいかしら。それと、胸の飾りのレースのボリュームが足りないわ。こことここに、追加を。」

「ウエストの切り替えは、もう少し上の方が、すっきりしません?王妃様?」

「そうね。リリアナ嬢のおっしゃる通りだわ。」


 指示を受けて、ドレスメーカーの女性が、仮縫いの糸をほどいて、布を足したり、別の場所を仮縫いしたり、大忙しだ。


 最初に着せられた時、もう、これでいいじゃないの?としか思えなかったので、何も言えず、言われたとおり、腕を上げ下げしたり、座ったり、着せ替え人形に徹した。


「ユーリ様?苦しいところ、動きづらいところはありませんか?」

「えっと、大丈夫みたいです。」


 試着していたドレスを脱がされ、ドレスメーカーの女性が下がって行ってから、お疲れ様、と隣の部屋に移動すれば、お茶の準備ができていて、3人で、またお茶を飲む。


「ユーリ、ドレスは、どうだったかしら?もし、気に入らなかったら、急ぎ、デザインを変えさせるけれど。あ、生地は、変えられないから、そこは我慢してね。」

「アイリーン姉さま、とっても素敵でした。ありがとうございます。でも、生地は変えられないって?」

「王族との婚約式で、婚約者の女性が着ることができるのは、王家の色だけなの。つまり、青と金。王家の者になりますという宣言になるわけね。しかも、青は、相手の瞳の色と同じ青と決まっていて。濃い青色だったでしょう?ドレス。あの青色は、アルフレッド様の瞳に合わせた色なの。」

「その色のドレスを絶対に着なければならないのは、婚約式だけだから、安心してね?」


 びっくりして、ドレスについて、もっと、2人に教えてほしいと頼む。


「王族の婚約式では、貴族たちは、青いドレスを、暗黙の了解で着ないけれど、普段の社交界では、何色のドレスを着ても大丈夫。誰でも、青いドレスだろうと金色のドレスだろうと、着ることができるわ。でも、青い生地に金色の刺繍は、ご法度。青いドレスに金色の刺繍は、王族のみが許されているもの。だから、金色の刺繍を入れたドレスを着たいなら、青以外になるわね。」

「結婚式では、夫婦となる男女は、2人とも、真っ白い衣装になるの。アクセサリーも、無色透明か、白のみ。だから、ダイヤモンドか真珠しか使えないわ。」

「アクセサリーといえば、王族は、公的な行事では、宝冠またはティアラを着用するけれど、普段の社交界では、サークレットになるの。ユーリも、婚約式で、国王から、ティアラが贈られるし、その翌日には、サークレットも贈られるはずよ。ティアラは、1つだけだけれど、サークレットは、衣装に合わせて作られることも多いから、毎年、増えるわ。」

「サークレットは、貴族の方も、嵌められるのですか?」

「いいえ。サークレットは、公爵以上でないと嵌められない。公爵は、王家の血筋だから、許されるけれど、侯爵以下は、サークレットを使うことは許されていなくてよ。だから、社交界で、サークレットを嵌めた人がいたら、公爵だと思って、接すれば良いの。」

「もし、王族以外の方が、青い生地に金色の刺繍をしたドレスを着たら、どうなりますか?」

「不敬罪で、貴族の資格をはく奪されます。貴族法で決められているから、そんなこと、誰もしなくてよ。」

「衣装の色まで、貴族法で決まっているんですか・・・。」


 貴族法は、アルフレッド公に教わっているし、貴族法全書という分厚い本も持っているが、衣装やアクセサリーまで決められているとは、気付かなかった。


「衣装の色やアクセサリーについては、母から子に伝えられることが多いから・・・。ユーリには、わたくし達が、お教えしますね?」

 アイリーンとリリアナが、やさしく、微笑んでくれる。


「そうそう、婚約式のドレスに合わせた宝飾品は、アルフレッド様が用意されますから、心配されないでくださいね。」

「はい?」

「本当は、仮縫いまでに、宝飾品を届けてもらって、ドレスと合わせてみるのが慣例なのですけれど、さすがに1か月では、細工が間に合わないそうなの。・・・通常は、婚約式まで、1年とか2年とか、かけますからね。3か月だと、ギリギリなんとか、というところで。あ、でも、婚約式には絶対に間に合いますから、そこは心配しないでくださいね。」


 宝飾品・・・。ネックレスとかイヤリングとか?

私みたいな平凡な顔立ちのしかも、14歳の子供に、そんなもの、分不相応だ。


「あの、ドレスが豪華ですし、宝飾品は無くても・・・?」


 言いかけて、2人にじろっと睨まれて、思わず、後ずさる。


「ユーリ、なんてこと言うの?」

「そうですわ。王族たるもの、ドレスだけでなく、宝飾品も身につけるのがマナーなのに!」


 コンコンと、2人に、王族は、ドレス以外に、サークレット、耳飾り、首飾り、腕輪、指輪を身につけるのが、マナーだと、教え込まれた。

せめて、オーダーでなく、既製品か、目立たないものを、と訴えたら、高価な宝飾品を王家が買わなければ、経済や文化が停滞してしまうと、怒られた。


「贅沢をしすぎてはなりませんが、王族は、一人一人に国家予算が付きます。予算の中には、衣装代と、宝飾品代が組まれています。その予算の中で、わたくし達は、王家にふさわしい装いをしなくてはなりません。それは、経済を回すだけでなく、美しいデザインを生み出す・・・文化を育てることです。」


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