第29話 世間的に言う流れ弾
「まず一つ目のテストとして、皆の能力を見せてもらう。今までのテストで能力を使えなかった分、君達の全力を是非見せてくれ!」
まだ二言三言しか喋っていないのにも関わらず、それでも充分分かるほどの、絵に描いたような熱血教師ぶりである。
何だかいい意味でEの教師っぽくないなあ、と勇助はふと思った。
「このテストは、一度に最大二十人ずつ採点を行う。修練室は特別頑丈に造られているので、部屋が壊れるといった心配は無用だ。君達の全力を尽くし、最大限の能力を見せてくれ!」
野々内はその次に、勇助が待ち望んでいた説明をした。
「また、能力を持っていない者はこのテストを受ける必要はない。実戦にて加点が入るので安心してくれ!」
――僕の場合、加点があってもあんま意味無い気がするけどな……。
勇助が遠い目をして向かい側の壁を見つめる。
いくら加点制度があろうと、実戦で何かしらのことをしなければその意味はない。
そして、勇助は自分が実戦で活躍できる自信が一切無い。自分にできるのは、せいぜい邪魔にならないようにそこら辺を駆け回ることぐらいだろう。
新入生達の顔を見回しながら、野々内が指示を飛ばした。
「第一のテストを終えた者は、その場で次のテストのグループ分けに使うクジを引いてくれ。それでは早速テストを開始する。最初の二十人、それぞれの先生の前に立って名前を伝えてくれ」
少しの間があって、新入生達の中から二十人が前に出た。かなりの度胸があるのか、それとも早めに終わらせてしまいたいのか。
「攻撃系の能力がこっちに流れてきたらどうする?」
吹輝の質問に健太が答えようとして口を開いた途端、テストに挑もうとしている生徒と生徒の間、そして彼らと皆の間に、天井から透明の壁のようなものが降りてきた。
新入生達の頭上に、それと同時にハテナマークが降りてくる。
その様子を見た野々内が、慌てて説明を始める。
「説明を忘れていたな、すまない。それは教員の能力によるバリアのようなものだ。生物などは通ることが出来るが、能力は完全に通さない。流れ弾の防止対策だ」
ちゃんと対策していたことに、勇助がホッと安心する。流れ弾をまた顔面に喰らったら、今度こそ死を迎えかねない。
「それでは、能力テストを開始する!」
野々内がそう宣言すると、第四修練室の新入生達は一様に息を呑んだ。
勇助が息を呑むことはなく、代わりに重いため息を吐いた。
「実戦に加点があってもさあ……僕全然戦えないし……」
「加点制度は、実戦で点を貰えるような何かの成果を残さないと意味無いもんね」
つばきも眉を下げる。
勇助も「そうなんだよねえ」と言いながら天井を見上げた。
本来、何の戦闘能力も持たない者が勇学に通うことなど無い。そんな者を、学園側が「勇者の素質を持つ者」として認め、合格通知を送ることなど有り得ない。
今回は、本当に特例中の特例なのだ。
平々凡々な普通の人間が勇学に通うことで、どのような成長を遂げるのか。
この実験が成功し、「普通の人間」が「優秀な勇者の卵」になることが出来れば、「勇者の素質を持つ者」として認められる絶対数は爆発的に増える。
「勇助の場合ちょっと特別だから、ある程度点とかは貰えるんじゃない?」
「でも、何もしてないのに点を貰うっていうのも……」
「そこら辺は学園側に任せるしかないでござるな」
「まあ僕はN確定だし、点に拘っては無いんだけど」
「そんなこと言うなよタニユウ!」
分からないことだらけだ。これに至っては、正義の言う通り学園側に委ねるしかないだろう。
勇助が不安の中に身を沈めていると、突然こちらの方に向かって巨大な炎の球が飛んできた。
張られていたバリアによって炎の球は打ち消されたが、勇助の心臓は見事にバクバク言っている。
バリアが無かったら、まず間違いなく勇助の顔面は丸焦げになっていた。
いや、それだけで済むだろうか。
「ビクッたー!」
「心臓に悪いでござる」
健太が叫ぶ中、正義はその言葉に反してかなり落ち着き払っている。
言葉と態度がここまで一致しないことがあるだろうか。
「炎の属性能力ね! 凄く綺麗な使い方」
「めっちゃでけえ」
つばきと吹輝も、炎が飛んできたことよりもその精度に驚いている。
――何なんだこの人達……。
勇助が若干呆れを見せる。
こういうのには慣れているのか、いや中一にして慣れていいのかコレに。
――ていうかさっきの炎、僕の顔面に向かってきてた気がするけど……気のせいか!
そう、気のせいに決まっている。
わざわざ自分のような奴に炎をぶつける利点は無いし、炎を放ったと見られる少年がこちらを向いてニヤッと笑ったのも絶対に気のせいだ。絶対。
「皆、テストで何やる? 俺は適当に犬でも描こうかな」
――バリアがあるから取り敢えず安心だな……。
勿論このことを口には出さない。
健太は健太なりに自分の能力に誇りを持っているのだから、その自信を打ち砕いてはいけない。
いやまあ、今まで健太の能力に対して結構失礼なことを言ってきては来たけど。
「私は、火と水の魔法でショーみたいなものをやろうかなって」
「拙者は、分身の限界に挑もうと思うでござる!」
「俺は……ユウケンの動きでも止めようかな」
「何で俺!?」
健太が驚きながら自分の顔を指さすと、吹輝はあははと笑った。
「何となく」
「何となくで動き止められたらたまったもんじゃないよ」
健太は不服そうである。
そんな健太を「まあまあ」と宥めてから、勇助が今思いついたことを吹輝に問う。
「そういえば吹輝の能力って、同時に複数とかもイケる感じ?」
「イケる感じ。俺の笛の音が届く範囲だったら」
「じゃ、耳とか塞がれるとヤバい?」
「そ。俺の能力は、笛の音を聞いた奴に作用する的なのだから。でもずっと耳塞いで戦うのは無理っしょ」
吹輝の笛の音を聞いた途端アウトということだ。
息が続かないと言う弱点を差し引いても、かなり強力な能力と言えるだろう。
しかし戦闘に使うのならば、チーム戦でなければ本領を発揮できないのかも知れない。
「一気に二十人だから、進むの早いなぁ」
バリアの向こうを眺めながら、健太が呟く。
それにつられて、残りの四人もバリアと向き直った。
今テストを受けている二十人の能力は、どのようなものだろうか。ぱっと見ではよく分からない。
掌からウサギのようなものを生み出している少女がいれば、自分の周りに雷を降らしている少年もいる。
まさしく千差万別、能力の種類は奥が深い。
「今、何番目でござるかね?」
「終わった奴もこっちに戻ってきてるから分かりづらいな」
正義が首を捻る。吹輝もそれに続くようにして不満げな声を出した。
一方の勇助は、ここから少しも腰を浮かさずただ見ているだけで良いんだ……そうだ、楽なんだ……と自分に言い聞かせて開き直っている。
「テストが終わったら、遂に憧れの寮生活かあ……!」
目を瞑って今後の新生活に思いを馳せながら、健太が嬉しげな声を出す。
寮の自室には、既に必要な家具などを送ってある。あとは部屋のドアを開ければ、注文したレイアウト通りの部屋が自分を待っている――という具合である。教科書なども、部屋に届けられているという。
今までの自分の部屋と全く同じレイアウトにしてもよし、思い切って家具を一新してもよし。
実に便利、且つ有り難い。
今日は、テストが終わればもう自由時間。しかし、明日からもう本格的に授業が始まるので、あまり心の余裕というものは無い。
「テスト終わったらどうする?」
「テストが終わる頃にはもう四時ぐらいだろうし、今日のところは明日の準備しながら寮でゆっくりしたほうがいいんじゃない?」
勇助が時間を計算しながら皆に提案をする。
準備というのは、学習道具の準備以外に心の準備という意味も兼ねている。




